和風戦国サバイバル~戦国ファンタジーを生き残れ~
月汰元
第1章 豪族の跡取り編
第1話 神明珠
ある日、地球の地軸が少しだけ傾いた。その影響は気候や大陸を支えるプレートにまで及び、気候の激変と大陸や島の大変動を引き起こした。
人類は滅亡寸前となるまで人口が減り、生き残った少数は原始的な文明へと戻る。その中で日本人の生き残りは、海底の隆起で新しく誕生した島に住み着き、
新しい世界の片隅にミケニ島と呼ばれる島があった。大陸に比べれば小さな島だが、人口が八百万人ほどもある大きな島である。
その島はいくつもの地方に分かれ、豪族が支配していた。その中のミザフ郡で生まれた俺は、商人としての人生を歩んでいる。
俺の名前はミナヅキ、宿屋の息子として生まれ十歳までは宿屋で育った。だが、跡取りではなかった俺は、製茶卸問屋の店で奉公する事になり、四年ほど見習いとして働いた後に茶葉の買い付けと製茶の担当を任されるようになる。
春が終わり、夏が始まる頃、十四歳となった俺は、古株の番頭と一緒に茶葉の買い付けに行こうとしていた。
木造二階建ての店から表に出ようとして、呼び止められる。
「ミナヅキ、あんたにお客さんだよ」
呼び止めたのは、女中のサキだ。
「客……誰だ?」
「知らない。豪族のご家来衆みたいだから、口には気をつけるんだよ」
俺は販売の仕事じゃないので、豪族の家来なんかに知り合いはいない。首を傾げながら、店の正面へと向かった。
そこには三人の武人の姿があった。三人の腰に巻いた帯には、剣が差し込まれている。
「ミナヅキ様ですな」
様? 何で俺に『様』なんか付けるんだ?
「そうですけど、どなた様ですか?」
「拙者はトウゴウ・ツナヨシ、カイドウ家の者です。貴方様の御父上がお亡くなりになりました。ミモリ城へ来ていただけますか」
この辺りを支配しているのは、豪族の一つであるカイドウ家だ。五千石の領地を支配するカイドウ家であるが、ミザフ郡を分け合って支配している五豪族の中では弱小の存在だった。
カイドウ家? 俺の親父だって……誰なんだ? 俺は細い目を益々細めて首を傾げた。父親は俺が生まれてすぐに死んだと、母親から聞いていたからだ。
「何かの間違いでは?」
「いえ、間違いありません。貴方様はカイドウ・
この騒ぎは店主のウヘイを始めとする店の者が聞いていた。皆は眼が飛び出しそうな勢いで驚いている。俺は店主に助けを求め視線を向ける。
「ミナヅキ、いや、ミナヅキ様。仕事は構いませんので、行ってください」
店主の言葉は丁寧だったが、目は厄介払いするかのようなものになっている。おい、何で助けてくれないんだよ。店主を見る俺の目が冷たいものになる。
俺は連行されるようにして、ミモリ城へ向かった。俺が働いていた店はミモリ城の城下町ミモリにある。
ミモリは、狭い道路と木造家屋が乱雑に並んでいる迷路のような町だ。敵が攻めてきた時に備えて、わざとそのような町並みにしたと聞いていた。
俺は不機嫌な表情を浮かべ、城に向かって歩いていた。二年前に死んだ母親が、なぜ教えてくれなかったのかと、考えていたのだ。教えてもらっていたら、俺の人生は変わったかもしれない。
「葬儀は、どうなったのですか?」
「跡継ぎが決定した後に、行われる予定になっております」
御領主様には、跡取り息子が居たはず。なぜ決まっていないのだろう。ちょっと不安になってきた。
俺が御領主様の死因を尋ねると、病死だという答えが返ってきた。
ミモリ城は、豪族の城としては小さい方だという。だけど、俺には途轍もなく大きく見えた。城の敷地内には、兵二〇〇ほどが鍛錬できる訓練場と御領主の居城であるミモリ城がある。
初めて城の門を潜り間近で見上げた城は、無骨なものに思えた。石積みの土台の上に三階建ての城が建っている。どっしりとして頑丈そうな城だ。
「これが、カイドウ家の城か」
「行きますぞ」
トウゴウが俺に呼び掛けた。この男はカイドウ家の武将らしい。背が高く太い腕をした三〇代の男で、実戦を何度も潜り抜けた
戦場で鍛えたのだろう声は、人を従わせる力を持っていた。俺は頷いて歩き始める。
城の入り口で
一緒に来た他の二人は、トウゴウに命じられて、本来の持ち場に帰った。
トウゴウに案内されて廊下を奥へと進む。いくつかの部屋があり帳面などを付けている者の姿が目に入った。城でも店と同じような事をしているんだな、と思いながら歩く。奥には階段があり、そこを上る。
二階に上がり、トウゴウの後に付いて廊下を北へと進んだ。何度かトウゴウが振り向き、ちゃんと付いて来ているか確かめるような仕草を見せる。
一番奥の部屋の前で、トウゴウが声を上げた。
「トウゴウでございます。ミナヅキ様をお連れしました」
「入れ」
中から野太い声が聞こえた。
その声に応えるように中に入る。広い板間の部屋には、四人の人物が居た。一人は五〇代の武将らしい男、もう一人は二〇代後半の女性、残りの二人は若い。同年齢らしい若者と六、七歳ほどの子供だった。
「儂は、ここの城代を務めるイサカ・サイウンである。こちらは、亡くなられた殿の妹君カエデ様。そして、長男ムツキ様、カエデ様の長男キサラギ様じゃ」
俺は礼儀も何も知らないので、正座して頭を下げることしかできなかった。
「イサカ様、私が御領主様の子供であるというのは、本当でしょうか?」
イサカ城代が頷いた。まだ、当主ではなかった父親が、母に一目惚れして内緒で付き合い始めたのだが、祖父に見つかり、別れさせられたらしい。俺は別れた後に生まれたという。
別れさせた理由は、父親が当主となることが決まったからであるようだ。豪族の当主が、宿屋の娘と付き合うなど許されなかったのである。
今は、武人が世の中を支配する時代だ。百年前までは、天駆教という宗教が支配する大国だった。だが、教団は腐敗し、国はバラバラに砕け武人が争う戦国時代となっていた。
その戦国時代で覇を競い合っているのが武人であり、武人を纏める豪族たちなのである。故に豪族と庶民との間には大きな格差が生まれていたのだ。
「私が御領主様の子供であるという事は分かりました。ですが、なぜ今さらお呼びになったのですか?」
イサカ城代が笑った。
「庶民として育ったというのに、はっきりと物を言う。よほど肝が座っているようじゃな」
俺は失礼だったかと気づいて、頭を下げようとした。
「いいのだ。
俺に様を付けているが、言葉遣いに敬意がない。俺が庶民で豪族の子供だという中途半端な存在だからだろう。
「跡継ぎ? しかし、ムツキ様が居られるではありませんか?」
「普通なら、長男であるムツキ様が跡継ぎになられるのだが、このカイドウ家は『
神明珠とは神の叡智を宿す珠と言われ、これを額に当てると神の叡智を手に入れられるという。
そんな話を聞いた事はなかった。どうも迷信のような気がする。ちなみに、神明珠は一個だけではなく何個も存在し、数多くの豪族や大名が家宝としているようだ。
「それがどうしたのですか?」
「神明珠は、血筋を選ぶと言われている。但し、父親が神の叡智を手に入れたとしても、その子供が手に入れられるかどうかは分からぬ」
俺はもの凄く嫌な予感がした。ここにはカイドウ家の血を引く三人の子供が集められているのだ。そして、俺もその一人である。
「まさか、俺にも神明珠を試せと……」
「その通り。カイドウ家の男児は、ここに居る者だけなのじゃ」
なぜか男子限定らしい。しかも拒否する事は許されそうになかった。俺が拒否したら、無理矢理でも行うという顔をしている。
それから俺は別室で待つように言われた。そこには着替えが置かれていた。神明珠を試すという事は神事であり、試す者は白装束に着替えなければならないらしい。
仕方なく白袴と白い
待っていると、
「もしかして、一番最初なのですか?」
「そうです。ムツキ様たちは、明日行います」
「聞いていませんでしたが、神の叡智を手に入れられなかった者は、どうなるのでしょう?」
「普通はどうもなりません。何も感じず、終わってしまうそうです」
トウゴウが慎重に箱の蓋を開けた。中には卵ほどの大きさの金属球が入っていた。銀色に輝いているが、銀ではないようだ。
イサカ城代が俺に視線を向ける。
「神明珠を手にお取りください」
気が進まなかったが、神明珠を手に取った。ひんやりした感じの金属球だ。
俺は神明珠を額に押し当てる。
その瞬間、洪水のように知識や情報が頭の中へと流れ込んできた。そして、声が聞こえる。
【私の名は
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【あとがき】
執筆用の参考資料を公開します。みてみんにアップロードした地図です。
未完成ですが、よろしかったら参考にしてください。
https://15132.mitemin.net/i493402/
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