第5話 ツッコミ役ゲットだぜ!

「魔法のことはもういいだろう。話を戻すぞ。町を出て化物にやられた。そうだな? 誰にやられたんだ? そいつはどこにいる? それだけの力があって、そこらの雑魚に負けたりはしないはずだ。」


 アサトクナが真剣な顔で言う。

 裕の実力を評価した上で、その裕を死の寸前まで追い込んだ相手を危険な存在だと判断していた。


「あれが何なのかは分かりません。むしろ、私が聞きたいくらいです。場所は南の山を幾つか越えたところです。途中で気を失ってしまったので、正確な距離や方角は分からないです。」

「南の山なんて誰も越えられねーだろ。そんな所にどうやって、って、オマエさんは宙に浮いて行けるのか。」

「そんなことよりも、分からないってのはどういうことだ? 襲われて逃げたんなら、どんな奴かはわかるだろ?」


 裕の説明になっていない説明に、それじゃ分からん、とアサトクナとホリタカサが詰め寄る。


「地平線の向こう側、姿が見えない程遥か彼方から攻撃してくる、ということしか分かりません。アレの攻撃射程は正直、どれ程になるのかは分かりません。徒歩で半日の距離を攻撃できても不思議ではありません。私には姿を確認することすらできませんでした。」


 暫しの沈黙。


「……いや、徒歩半日の距離ってあり得ねえだろ。そいつは山を越えて来たりしないのか?」

「山を越えて来るなら私は止めを刺されていますよ。追い払って満足しているなら、移動できない理由があるのでしょう。たとえば、守るべき何かがある、とか。」


 アサトクナが強力なモンスターへの対処について考えていることは裕にも分かっている。だが、何らかの理由により追撃してこなかったのは事実だと強調する。


「そもそも、退治や撃滅は無理です。不可能です。アレが襲ってきたらどうすることもできません。逃げることもできずに殺されるだけです。」


 裕はきっぱりと、恐ろしいことを断言した。それに対して明らかに不愉快な態度を見せるアサトクナに裕は言葉を続ける。


「一撃で山の形を変えてしまう程の砲撃が全力なのかも分かりません。さらに敵の数も分かりません。下手に刺激して怒らせるのは良くないです。」


 アサトクナも、他のメンバーも裕の言いたいことは理解している。今は縄張りから出てくる様子が無い以上、下手に調査隊などを出す方がリスクが高いということ。

 しかし、今は出てこなくても、将来的も出てこないなんて保証は無い。


「せめて、正体だけでも分かれば、考えようがあるんだが。」


 アサトクナは苦虫を噛み潰したような表情で言う。


「伝説か何かに無いのでしょうか?」

「知らん。遥か彼方から攻撃をしてくる化物なんて聞いたことがない。」


 裕は始めからそれを聞くつもりだったのだが、誰も見当もつかないというのは予想外だった。


「取り敢えず、その件は後で組合に報告しよう。」


 アサトクナはこれ以上自分たちでできることは無いと結論づけた。




「話が変わるが、ヨシノは何処の出身なんだ? その、なんだ。ヨシノの見た目はそれこそ伝説にある魔族のようにも見えるんだが」

「魔族って何ですか? 私は日本という国の出身です。そこからどうやって前の国に来たのかは分かりません。気が付いたらあの町にいたのです。」


 タナササが言いにくそうに、疑問を口にするが、裕の方は大したことが無いかのように答える。そもそも、裕はここがいわゆる異世界であることは気付いているが、そこの文化や歴史、伝説など知りはしないのだ。


「私は、笑って生きたい。敵は少ない方が良い。」


 裕は瞑目して言う。この言葉を言っても、何故か信用してもらえないことが多い。

 裕はそんなに好戦的に見えることも無いと思うのだが、本当に何故だろう。


「分かった。仲良くやろうぜ。何もしていない奴といがみ合っても何の得も無い。」


 暫しの沈黙を破って口を開いたのはアサトクナだった。得体が知れないからこそ、敵対するのではなく懐柔して味方につけた方が良い。それが彼の結論だ。

 ぶっちゃけ、敵対するメリットが無いともいう。


「はい、仲良しが一番です。」


 裕が笑顔で答え、『紅蓮』一同息を吐く。



「ところでな。相談って言うか、頼みがあるんだが良いか?」

「なんですか?」

「あの、宙に浮く魔法ってのを教えてもらうことはできるか?」


 ハラバラスが歯切れ悪い問い掛けに、裕は難しい顔をして考え込む。


「いや、無理に教えろとか言うつもりはない。もし良ければって話だ。」


 ハラバラスの常識としては、独自の魔法をホイホイと他人に教えるものではない。

 というか、普通に考えれば、戦闘に使える魔法で現時点で対抗策の無いものを教えるのはとても危険だ。少なくとも、自分がその魔法で攻撃されても対処できるようになっていないと、教えた直後に裏切られたらオシマイだ。


 しかしながら、裕としては別に秘密にするつもりは無かった。それはそれで危機感が無さすぎだろう。


「教えても良いです。でも、お金と時間が掛かります。」

「幾らだ? 金貨何枚だ?」


 金を払えば教えて貰えると知って、ハラバラスは物凄い勢いで食いつく。


「あ、いや、そんなには要らないですが。本を一冊書くだけの紙が必要です。そして最低で一年くらい掛けて勉強すればきっと」

「一年?」


 紅蓮のメンバー全員でハモる。そして、本を一冊書くだけの紙は金貨数枚になる……

 裕の言っていることは、『紅蓮』からしてみればメチャクチャなことばかりだろう。


「そんな高等な魔法をどうやって覚えたんだ?」

「試しにやってみたらできたんですが。って、先刻も言いませんでした? それと、魔法の技術としてはとても簡単な部類です。単に、必要な知識が難しいだけで。」



「言っている意味が分からん。」

「うーん。例えばですね、みなさん、石を積み上げて家を建てることはできますか?」

「そんなことできるワケないだろう。俺たちは大工じゃない。」

「でも、石を積み上げることはできますよね? こう、よっこらしょ、と。」


 裕はあっちからこっちへ物を運ぶジェスチャーをしながら説明する。


「でも、家の建て方は知らないからできない。同じことですよ。」


 裕の説明に、ハラバラスをはじめとした『紅蓮』のメンバーは狐につままれたような表情で首を傾げる。


「分かったような、分からねえような……」

「まあ、まずは明かりの魔法です。私にとって、それが魔法の基本なのです。」

「なるほど。それができなければ話にならないってことか。」


 裕が天井近くで煌々と室内を照らしている魔法の明かりを指すと、ハラバラスたちはそれを見上げる。

 裕の明かりは変わらぬ明るさで光を放ち続けている。それは一般的に知られている魔術の明かりとは異なるものだ。



「私も幾つかお聞きしたいのですが。」


 ふと思い出したように裕が切り出した。


「お金を稼ぐにはどうしたら良いでしょう? 金貨はまだありますが、稼がなければじきになくなってしまいます。」

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