世界で一番美しい夢をあなたに
空薇
第1話 夢を
初めて誰かの夢に手を出してしまったのはいつだったか。
それまでは普通の人間だった。なのに、私はある日ほぼ無意識的に誰かの夢を
それがとても心地よくて、その快楽に簡単に堕ちた私は何度も何度も他人の夢を吸い取り続けた。
夢なら何でもいいのだ。寝ている時に見ている夢、将来の夢、いつか結婚したいという夢……。それら全てを、触れるだけで私は簡単に吸い取ることができた。
そして、いつの間にか自分の成長が止まっていることに気がついた。
最初は何の違和感もなかった。年頃になり成長が止まるのは当たり前のこと。でも、そんな自然に止まる成長以外の変化も、私は失ってしまっていた。
背が、髪が、爪が伸びない、年頃の女性なら誰もが悩まされるできものもできない。
それどころか食べ物を食べなくてもお腹が空かない、水を飲まなくても喉は乾かない。
私の体の変化は、完全に止まってしまったことを理解することは容易かった。
気味悪がられて両親に勘当されたのが確か二十歳は超えてた頃。
同じ場所に長く停まれない私はさまざまな国や地域を移動し続けて、そうして、出会った。
私と同じように、夢を食べて生きている人に。
その人によると、私たちのような人間は世界中でひっそりと暮らしているらしい。便宜上、自分たちのことは《テイパー》と呼んでいるよ、と彼は教えてくれた。
理由はわからないけれど、夢を初めて食べた日から体の成長は止まり、体に傷をつけてもすぐ癒える、そんな不老不死になることはテイパー全員に言えると説明された。
だが、テイパーは生きていく上で夢を吸うことはやめられない。どれだけ食事を、水分を摂らなくても、体は何も訴えてこないが、まるで麻薬のように夢を吸い取ることだけは求めるのだ。
でも、私は限界だった。
寝ている時の夢を吸い取る時はいいのだ。それを吸い取られた側は気が付きもしないし、悪夢だった時はそれより穏やかに寝だすことだってある。
ただ、寝ている時の夢を吸い取ることは難しいのだ。誰かと共に過ごすことができないので、基本的に家やホテルに忍び込んで吸い取ることになってしまう。
だから、吸い取る夢のほとんどは道行く人々の未来への夢だ。それが、私には辛かった。
吸い取った瞬間は恍惚とした快楽に溺れていられる、でも、目が覚めたら、目の前にはさっきまで確固たる光を宿していた目が淀んでいることがあるのだ。
その瞬間私を罪悪感が苛む。ごめんなさいと呟いても、吸い取られたことすらわからない、夢があったこと自体を奪われた相手は何が何だかわからない。
だから私は、山奥に引きこもった。誰にも会わないように、誰の夢も奪わないように。
でも、急に入り込んできた自分勝手な魔法使いのせいで、私はあるサイトを立ち上げることになる。
『忘れたい夢、ありませんか? 頭から離れない悪夢、ありませんか? その夢、私が引き取ります』
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