《追章》その23:打倒救世主!4


 そうして試合は順調に進み、ついにポルコさんとの対決を迎える。


 彼が手にしていたのは、予選でも見た禍々しい感じの盾。


 フィーニスさまが与えたという〝疑似神器〟だ。


 その上、〝動けるデブがいる〟という彼の噂は観客たちの間にも広まっていたため、会場の盛り上がりも最高潮――まさに宿命の対決という雰囲気であった。


 いや、宿命の対決なのかはよくわからないのだが、ポルコさんはごごごごごっと闘気を漲らせて言った。



「……イグザさま、あなたはやりすぎました。よもやマグメルさまだけでなく、あんな巨乳美女たち全員をお嫁さんにするなど言語道断! 羨ましいにもほどがあります!」



「え、えっと、なんかすみません……」



 てか、巨乳じゃない美女たちもいるんだけど、そっちはいいのか……。


 俺がそう呆けていると、ポルコさんは「ゆえに!」と手にしていた禍々しい盾を天高く掲げて言った。



「断罪の時来たれり! 今こそ我が全霊を以て愛する者をこの手に!」



「――っ!?」



 その瞬間、ぶわっと盾から溢れた黒いオーラがポルコさんを包み、彼の身体をべきばきと肥大化させていく。


 全身が強固な装甲で覆われ、二つに分かれた盾が両腕に装着されているその姿は、まさにあの時エストナで見た黒人形と同様のものであった。


〝動けるデブ〟どころではない。


 まさに〝疾走する城壁〟である。


 よもやここまでの力を与えられていたとは……。


 しかも。



「いざッ!」



 どんっ! と闘技場の床を陥没させ、ポルコさんが真っ直ぐに突っ込んでくる。


 以前は思考力がほとんど失われているというか、本能が剥き出しになっている状態だったのだが、今回はきちんと意識があるらしい。


 これは俺も気を抜いていられないなとスザクフォームに変身した俺は、ごうっと片刃剣の柄を顕現させ、抜刀姿勢で構える。



「グランドレイ――ゼロッ!」



 そして光属性最速の斬撃をお見舞いしたのだが、



「シールドバッシュッ!」



 ――どぱんっ!



「げっ!? ――うおあっ!?」



 斬撃を弾かれたどころか、その巨岩のような体当たりをまともに食らい、堪らず片刃剣を消失させられる。



「もらいましたぞ、イグザさまッ! ――ダブルシールドバッシュッ!」



 ――ずがあああああああああああああああああああああああんっっ!!



 そのまま壁際まで追いやられた俺は、一回戦で俺が壁にめり込ませた冒険者どころではないレベルでポルコさんに押し潰されてしまったのだった。



      ◇



「きゃあああああああああああああっ!? イグザさまああああああああああぁぁぁ……――」



「ちょっ!?」



 ふらり、と倒れ込んできたマグメルをナザリィが両手で受け止める。


 どうやらあまりのショックに気を失ってしまったらしい。


 だが小柄なナザリィが受け止めるにはマグメルは少々豊満すぎたらしく、「お、重い……」と潰されそうになっていた。


 そんな彼女を横目に、アルカディアが「ふむ」と腕を組んで言った。



「さすが我らが鍛錬を施しただけのことはあるな。なかなかどうして気張るではないか」



「そうね。別に期待はしていなかったのだけれど、案外やるじゃない。見直したわ」



「でもなんか凄い微妙な心境なんですけど……。あたしの知ってる豚じゃないっていうか……」



 そう闘技場に半眼を向けるエルマに、ティルナも「わかる」と頷いて言った。



「豚さんはもっとお腹ぽよぽよであるべき。あれじゃぽよぽよできない」



「まあ今は女神フィーニスの力も上乗せされてるしね。というか、正直あのくらいやってくれないと困るわ。同じ〝盾〟として恥ずかしいもの」



「あー、そういやあのデブ、盾ババアと同じスキル持ちだったな」



「……あなた、いい加減にしないと本気で殺すわよ?」



 ぎろり、と目元の布越しにオフィールを睨みつけるシヴァだが、「まあ固いこと言うなよ、ババア」と無邪気に肩をぽんぽんされ、いよいよ顔の血管がぶち切れそうになっていた。


 と。



「でもやっぱりダメみたいね……。まあ私もあの子が負けるとは思っていなかったのだけれど……」



「「「「「「!」」」」」」



 フィーニスがそう告げた次の瞬間、会場内を目映い輝きが包み込んだのだった。



「いや、その前に誰かわしに手を貸さんか……。なんじゃこの放置プレイは……」



      ◇



「なんと!?」



 ぶわっと一瞬にして黒人形化が解けたポルコさんが、どういうことかと狼狽する。


 そんな中、俺は全身に白銀の炎を纏わせながら闘技場へと降り立った。


 全ての〝汚れ〟を瞬く間に浄化する対魔族戦最強のフェニックスフォームである。


 黒人形化は基本的に〝汚れ〟の力を使っているからな。


 魔族同様、このフォームが天敵と言ってもいいのだ。



「ま、まさかそれが噂に聞くフェニックスフォーム……っ!? って、ずるいですぞ、イグザさま!?」



「いや、ずるいと言われても……。こっちも愛するお嫁さんの命運がかかってるんで……」



 ――ごうっ!



「ひいっ!?」



 そう言って俺は右腕に白銀の籠手を顕現させる。


 すでに黒人形化を解除している以上、スザクフォームに戻ってもよかったのだが、人の嫁とはいえ、マグメルのためにあそこまで研鑽を積んでくれたのだ。


 これはそんなポルコさんへの最大限の敬意である。


 まあ人の嫁なんだけど(二度目)。



「マグメルを愛してくれてありがとうございます、ポルコさん。でも彼女は俺の嫁です。あなたには渡せない」



「くっ、やはりこうなりましたか……。いえ、これでよかったのでしょうな……。私の女神さまはあなたの側にいる時が一番幸せそうでしたから……」



 そう自嘲の笑みを浮かべた後、ポルコさんは「――いいでしょう!」と同じく右腕を振りかぶって声を張り上げた。



「これが漢ポルコ最後の一撃です!」



 さようなら私の女神さまッ! とポルコさんががむしゃらに突っ込んでくる。


 そんな彼の顔面に俺は、



「――グランドプロミネンスブローッ!」



「へぶうっ!?」



 どごおっ! と渾身の一撃を叩き込んだのだった。


 余談だが、その後ポルコさんはマグメルにアプローチこそしなくなったものの、俺たちがデートしていると血の涙を流しながら悶絶していたりするので、やっぱりまだ未練があるようだった。

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