《追章》その22:打倒救世主!3


 そうして迎えた本戦当日。


 会場として選ばれた武術都市レオリニアの闘技場は凄まじい熱気に包まれていた。


 そりゃ名だたる冒険者たちが一堂に介した挙げ句、自分で言うのもなんだが救世の英雄と激闘を繰り広げるのだ。


 一体どんな凄い戦いが見られるのか、皆試合が始まる前から興奮しっぱなしだったのである。


 もちろん会場に来られなかった人たちのために、シヌスさまが各都市に水球型の術技で映像を流してくださっているので、試合の模様は全世界同時中継だ。



「はっはっはっ! 噂の救世主ってやつは随分とチビなんだな!」



 というわけで、早速始まった第一戦。


 俺の相手は〝剛力無双〟と名高い筋骨隆々の大男だった。


 なんでも鋼竜種の首すら一撃で刎ねるほどの剛撃が自慢らしく、その力に耐えられるよう武器も〝ミスリル〟というかなり希少な金属で出来たものを所持しているらしい。


 確かになんとも洗練された感じの斧である。


 ボレイオスと戦った時を思い出すな……、と俺が少々懐かしさを覚える中、試合開始のゴングが鳴らされる。



「悪いが一撃で決めさせてもらうぞ、救世主ッ!」



 ――ぶうんっ!



 と同時に大男がミスリルの斧を両腕で振りかぶる。



「――ベルセルクマインドッ!」



「!」



 ――べきごきっ!



 そして自身に高位の身体強化術技を使用し、さらに身体を一回り大きくさせた。


 ……なるほど。


 その体躯と武器レベルの高さからオフィールと同じ斧術系のスキル持ちかと思いきや、どうやら彼の本質は術技の方にあるらしい。


 武技を習得出来ずとも、鍛え上げた肉体と優れた武器、高位の術技による身体強化によってスキル持ち以上の実力を発揮しているというわけだ。


 確かにスキルは生まれつきだからな。


 必ずしも性分に合ったスキルが手に入るとは限らないし、きっと並々ならぬ努力で今のスタイルを確立したのだろう。


 なら俺も全力でその研鑽に報いなければ。



「ぬああああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 ずがあああああああああああああああああんっ! と大男の剛撃で闘技場の床が粉々に砕け散る。


 直撃すれば即死は免れないであろう全霊の一撃だ。


 それは誰が見てもあきらかだったと思う。


 が。



『――なっ!?』



 大男も含め、観客たちが一斉に目を丸くする。


 当然だろう。


 何せ、俺はその一撃を右腕に発現させた真紅の籠手のみで受け止めていたのだから。



 ――ごうっ!



 もちろんスザクフォームに変身して、だ。


 そして俺は左腕の籠手に炎を纏わせて言う。



「悪いな、おっさん。こっちも一撃で決めさせてもらうぞ。――グランドプロミネンスブローッ!!」



 ――どぱんっ!



「ぐおああああああああああああああああああああああああっ!?」



 俺の拳を受け、大男が高速で宙を舞う。



 ――ずがあああああああああああああああんっ!



『うわあああああああああああああああああああああっ!?』



 そして彼が闘技場の壁にめり込んだ際の衝撃波が峻烈に客席を襲う。


 さすがに少々やりすぎたのか、しばしの沈黙が辺りを包み込んでいたのだが、



『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』



 途端に大歓声が沸き起こり、俺はほっと胸を撫で下ろしたのだった。



      ◇



「くっ、さすがはイグザさま……っ。一撃とはかっこいいじゃありませんか……っ」



 大歓声の中、ぐぬぬと唇を噛み締めていたのはもちろんポルコである。


 そんな彼に隣で観戦していたナザリィが腕を組んで言った。



「そりゃ曲がりなりにも救世主じゃからのう。たとえ名うての冒険者であろうと太刀打ち出来るはずなかろうて。というか、おぬし本気であやつと戦う気か? 勝てる見込みはほぼゼロじゃぞ?」



「……わかっています。ですが男には引けない時があるのです!」



 ぐっと拳を握って闘志を燃やすポルコに、ナザリィは半眼を向けて言う。



「いや、なんか男らしい感じで言っとるが、要は人の嫁に手を出そうとしとるだけじゃからな?」



「し、仕方ないじゃないですか!? なんでも願いを聞いてくださるとのことなのですから!?」



「やれやれ……。じゃからってそこまでマグメルに固執する必要もあるまいて……。そんなに乳のでかい娘がええのかえ……」



 はあ……、と嘆息するナザリィだったが、そんな彼女にポルコがはっとしたように言った。



「……そうですよね。ずっと一緒にいたのですから、そういう気持ちを抱くのも当然だと思います」



「あん?」



「ですがすみません、ナザリィ……っ。あなたとは付き合えない……っ」



「おい、ぶっ殺すぞクソデブ。そもそもおぬしにそんな気を抱いたことなぞ、生まれてこの方一度もないわい」



「えっ!?」



「いや、なんで意外そうなんじゃ……」



 当然じゃろ……、と割と素で引いているナザリィなのであった。



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