《追章》その20:打倒救世主!1


 最近、俺には一つ悩んでいることがあった。



「見つけたぜ、救世主! てめえを倒してこの俺が最強の英雄に……ぐえっ!?」



 ごんっ、と襲いかかってきた男の頭を運んでいた木箱で殴りつけ、昏倒させる。


 そう、このように日々問答無用で勝負を仕掛けてくる冒険者があとを絶たないのである。


 まあ有名税のようなものなので仕方がないとは思うのだが、それにしたって数が多すぎる。



「これで30人……。この子たちは暇なの……?」



 フィーニスさまですら若干呆れているくらいだ。


 恐らくは魔物たちが全て浄化されてしまったというのも一つの要因なのだろう。


 正直、冒険者たちのほとんどは魔物退治を生業としているからな。


 用心棒やお宝狙いのダンジョン探索をしたりもするが、やはり一番多いのはギルドの張り出したクエスト依頼をこなして名を揚げることだと思うし。


 で、それが突如出来なくなってしまったのだから、そりゃ手持ち無沙汰にもなるとは思う。


 が、こちらも暇ではないのだ。



「そうですね……。そんなに体力が有り余ってるんなら是非復興を手伝ってほしいんですけど……」



 はあ……、と白目をむいている冒険者に嘆息する俺。


 まあ彼のように勝負を挑んできた冒険者たちにはもれなく一週間の強制労働をプレゼントしてるんだけどな。


 勝手に襲いかかってきて負けたんだからそのくらいはしてもらわないと。



「そうね……。もし邪魔なら私が殺しておくけれど……」



「い、いえ、それは大丈夫です……」



「そう……。わかったわ……」



 こくり、と静かに頷くフィーニスさまに、俺もほっと胸を撫で下ろす。


 彼女も子ども同然の魔物たちが全ていなくなってしまって寂しい思いをしているらしく、こうやって頻繁に俺のもとを訪れては側にいようとするのだ。



「……」



 ――じー。



 まあ監視は厳しいのだが。


 というか、その冒険者には後ほど強制労働してもらわないといけないので、そんな乱暴に投げちゃ……あー……。


 こっちを半眼で見やりながらぽーんっと冒険者をわらの中に投げたアルカに、俺はがっくりと肩を落とす。


 すると、アルカがずかずかとこちらに近づいて言った。



「女神フィーニス。イグザの側にいたい気持ちはわからなくもないが、さすがにくっつきすぎだ。それでは荷も運べんではないか」



「でも彼と離れるのは寂しいわ……。あなたと違って、私にはまだ新たな命も宿ってはいないのだから……」



「ぐっ……」



 それを言われると弱いらしく、アルカはぐぬぬと唇を噛み締める。


 しばらくそうしていた彼女だったが、やがて小さく嘆息し、「まあほどほどにしてくれ……」と渋々話題を転換させた。



「しかし冒険者たちに関しては確かに何か策を講じねばならんだろうな。どこの町に行ってもこれでは人々も安心して作業に取りかかることが出来ん。それどころか、イグザを誘き出すために暴れるやつまでいる始末だ」



「そうなんだよな……。別に相手をするのは構わないんだけど、そのために皆に迷惑をかけるやつまでいるってのがな……」



「やっぱり殺す……?」



 淡々と小首を傾げるフィーニスさまに、俺は再度「い、いえ、大丈夫です……」とご遠慮を申し上げる。


 彼女の場合、割とマジであっさり殺しかねないからな……。


 ヒヤヒヤものである。



「ふむ、そこで少し考えてみたのだが、〝勝った者にはなんでも願いを叶える〟という触れ込みのもと、大々的にお前と戦える闘技大会のようなものを開くのはどうだろうか? レオリニアの〝武神祭〟のようなものだな」



「なるほど。それで皆のフラストレーションを一気に解消させようってことだな?」



「ああ」



 しかし〝武神祭〟とは懐かしいな。


 あそこでアルカと出会わなければ、きっと今の俺はなかった気がする。



「わかった。なら各地の闘技場で予選をやって、勝ち抜いた冒険者全員の相手を最後に俺がしよう。で、その光景を女神さま方に中継してもらえば、多少なりとも各地の抑止力になるんじゃないかな。何かあったら俺がすぐに駆けつけるみたいなさ」



「そうだな。確かにお前は救世主だが、その実力を知っている者は僅かしかいないからな。それを皆に示すいい機会にもなるだろう。ゆえに多少ド派手にやるくらいでちょうどいい」



「了解だ。なら今日の作業が終わり次第、早速皆にも相談してみよう」



「ああ、わかった」



 そうして俺たちは闘技大会を開くべく準備を進めることになるわけだが、この時の俺はまだ知らなかった。


 この大会に向けて人一倍闘志を燃やす〝とある男〟の存在があったということを。

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