《追章》その19:聖女たちの悩み
「……はあ」
ある日のこと。
あたしは改修した《神の園》こと拠点の食堂で陰鬱さを全開にしていた。
何故こんなことになってしまったのか。
いいや、理由は全部わかっている。
そう、全てはあたしの責任だ。
「……はあ」
その証拠に、食卓を挟んだ斜め向かい側では、同じくマグメルが大きく嘆息しながら疲れたような顔をしていた。
十中八九、彼女もあたしと同じことで頭を悩ませているのだろう。
何故ならあたしたちはどちらも癒し系的な立ち位置で人々に接しているため、必然的にほかの皆に比べて運動量が少なくなってしまうからだ。
その上、二人揃って食べるの大好きっ子である。
となれば、当然――太る。
「「……はあ」」
揃ってがっくりと肩を落とすあたしたち。
てか、しょうがないじゃない!?
だって話を聞いてあげたおじいちゃんおばあちゃんが次々に〝これ食べんしゃい〟みたいな感じで美味しそうなの持ってきてくれるんだから!?
そりゃ食べるでしょ普通!?
むしろ残す方が失礼だわ!
ぷんぷん! と誰への怒りなのかわからない憤りに包まれていたあたしだったが、正直そんなことをしている場合ではない。
このままでは発展途上なお胸よりも先にお腹の方が出てしまいそうだからだ。
かといって一人ではほぼ間違いなく〝甘え〟が生じてしまう。
ならば……っ! とあたしは恥を忍び、未だしょんぼりしているマグメルに話しかける。
「ねえ、マグメル。たぶんあたしたち同じことで悩んでると思うんだけど、ここはイグザのお嫁さん同士協力して解決するのはどうかしら?」
「え、いいんですか?」
「ええ、もちろんよ。あたしだってこんなことで〝妾ランキング〟落ちたくないし」
っていうか、そもそもなんであたしのランキングが最下位すれすれなのよ。
そりゃ確かに色々あったし、仲間になったのも最後の方だったけれど、でも顔だけならどう考えてもあたしが一位でしょうが。
もっと顔を評価しなさいよね、顔を。
「そうですね。確かに私のアイデンティティにも関わることですし、ほかの方々に後れを取らぬためにも真剣に考えねばならないことかと」
「ええ、あたしもそう思うわ。で、やっぱり手っ取り早い方法としては我慢することだと思うんだけどどうかしら?」
「確かに仰るとおりだと思います。ですがただ我慢するだけでは根本的な解決にはならないのではないかと」
まあ……そうね。
確かにストレスも溜まるし、せっかくくれたものを毎回断るのも相手に悪い気がするわ。
いや、受け取れば済む話なのかもしれないけれど、それを食べられずに我慢しなきゃいけないのはやっぱりストレスだしね。
「となると、面倒でも運動量を増やすしかないわね」
「なるほど。基本的には受け身の私ですが、あえて攻めに転じてみるということですね?」
「ええ。なんだかんだ言っても、やっぱり動いてなんぼだと思うの」
あたしがそう腕を組みながら言うと、何故かマグメルが恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「そう、ですね……。イグザさまもきっとその方がお好きでしょうし……」
そりゃ太ってるよりは痩せてる方が好きなんじゃないかしら?
ただマグメルの場合はむっちり感というか、太っているのとは違う豊満さが魅力なわけだし、あんまり痩せすぎてもな気はするけれど。
まあその無駄にでかい脂肪の塊が萎んでくれる分には喜ばしい限りなんだけどね!
と。
「わかりました。ではエルマさんのご助言に従い、私も努力してみることにします」
マグメルがそう微笑みながら頷き、あたしも彼女に微笑みで返す。
「そうね。じゃあ一緒に頑張りましょう」
「はい!」
「というわけで、早速今夜から始めるわよ!」
そうですね! と力強く頷くマグメルの言葉にハモるようにあたしは言った。
「ダイエットを!」「夜のご奉仕練習を!」
……うん?
え、あれ、ちょっと待って。
なんか今変な単語が聞こえたんだけど。
「え、ごめん。ダイエットの話よね?」
「い、いえ、子どもが生まれたあとにも今と同じ種類の下着を着用すべきかどうかのお話では……」
え、何その微塵も興味のない話題。
そんなの勝手に着ければいいでしょうが。
知ったこっちゃないんですけど……、と頭痛を覚えそうになりながらも、あたしは言う。
「……とりあえず一度話を整理しましょうか。その、下着がなんですって?」
「え、えっと、アルカディアさんに言われたんです。〝お前は赤子が生まれたあともそんな下着を身につけるのか?〟と。なのでどうしようか迷っていたところ、エルマさんが〝だったら夜の生活で発散すればいいじゃない〟と……」
「いや、言ってない言ってない!? てか、あたしは最近ちょっと太り気味だったからご飯を我慢しようか運動しようかを悩んでたんですけど!?」
「ええっ!? で、では私はどうすればよいのですか!?」
「いや、知らないわよ!? むしろあたしの悩みに答えなさいよ!?」
あたしがそう捲し立てるように言うと、マグメルはどこか困ったようにこう言ったのだった。
「申し訳ございません……。私はその、あまり太った経験がないと言いますか、脂肪がつくのはいつも胸やお尻の方ばかりでして……」
「……」
へー、そうなんだー……。
ふーん……。
お腹につくタイプで悪かったわね!
ふんっだ!
その夜、爆食いしたあたしの体重が過去最高記録を樹立したのは言うまでない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます