《追章》その17:新たなる主2


「ヨミ……」



 相変わらず死人のような顔色で鋭い眼光を向けてくるヨミに、俺は「いや」と軽い口調で言った。



「実はちょっとお前に用があってな。パティと話しながら待ってたんだ」



「俺に用だと? そういえば貴様とは休戦中だったが……」



 ぶうんっ、とヨミが虚空から一振りの剣を顕現させる。


《神の園》で一戦交えた時に見た歪な形の片刃剣だ。


 が、俺はそんなヨミに半眼を向けて言った。



「待て待て。別に戦いにきたわけじゃねえよ。というか、今さら戦っても意味ないだろ?」



「いや、意味ならある。確かに俺は貴様を足止めするために生み出されたが、俺の《超復活グロウレザレクシオン》は唯一貴様に勝る可能性を秘めた異能だからな」



「だから俺を倒すまで勝負を仕掛け続けると?」



「ああ。それもまた俺の存在理由だ」



 確かに〝死ねば死ぬほど強くなる〟というやつの異能ならば、いずれか俺の力を超える日もくるかもしれない。


 だが俺だってそう簡単に負けるつもりはないからな。


 その時はフェニックスフォーム以上の力をつけてさらに上を行ってやるさ。



「そうか。でも〝汚れ〟がほとんど浄化された今の状況じゃお前の方が圧倒的に不利だ。たぶん再生するのにかなり長い時間がかかるだろうからな。というより、今はレウケさんの復興作業を手伝ってるんだろ? なら俺に構ってる暇なんかないんじゃないのか?」



 俺がそう諭すように言うと、ヨミは無表情のまま「……ふん」と剣を消失させた。



「確かに貴様の言うとおり、今はレウケさまの悲願を成就させることの方が先決だ。だが何故貴様がそれを知っている?」



「そりゃ本人に直接聞いたからな。そして頼まれたんだ。自分を〝主〟ではなく〝友人〟として扱うよう説得してほしいって」



「あ、だからわざわざここに来たんだ」



 ぽんっ、と両手を合わせ、納得した様子のパティだが、ヨミは再度鼻で笑って言った。



「何を馬鹿なことを。たとえ聖者とはいえ、一介の鬼人に過ぎなかったエリュシオンさまが創世の神にまで上り詰められ、そして我らを生み出してくださったのは、ひとえにレウケさまと奥方さまの存在があったからだ。そのレウケさまが生きておられた以上、命を賭して彼女をお守りすることこそが我ら魔族の使命。ゆえに主としてお仕えするのは当然のことだ」



 なるほど。


 単にエリュシオンの娘さんだからというわけでなく、自分たちを生み出してくれた恩義も感じているというわけか。



「まあ確かに彼女たちがいなかったらお前たちが生み出されることもなかったとは思う。でも本人が〝勘弁してほしい〟って言ってるわけだし、なんとか柔軟に対応してもらえないかな……?」



「ふん、無理な相談だな。〝柔軟〟など、我ら魔族にもっともほど遠い言葉だ」



「ねー、ほど遠いよねー」



「いや、君は割と柔軟な気が……」



 うんうん、とヨミの言葉に同意していたパティに半眼を向ける。


 しかしこれは困ったな……。


 話してみてわかったけど、ヨミの考えを変えるのはかなり難しそうだ。


 かといってこのままにしておくわけにもいかないし……。


 うーん……、と眉間に深いしわを刻んだ後、俺はふと疑問に思ったことをヨミに問う。



「ところでほかの鬼人たちは見つかったのか?」



「ああ、まだ一組だけだがな。レウケさまが里を立て直そうとしていることも伝えた。だが彼女がエリュシオンさまのご息女だと知った途端、やつらは難色を示し始めた。ゆえに俺は言った。〝里に戻らねば殺す〟と」



「おいー!? ちょ、なんてことしてくれたの!?」



 慌てて突っ込みを入れた俺に、ヨミは怪訝そうに眉を顰めて言った。



「何をぎゃあぎゃあと喚いている。レウケさまが望んでいるのだ。死んでも馳せ参じるのは当然だろう?」



「いや、言いたいことはわかるんだけどさ……」



 堪らず頭痛を覚えそうになる俺だったが、これはちょっと色々な意味で放置しておくわけにはいかない気がする。


 というか、放置しておいたら確実にレウケさんの努力が水の泡になる……。


 ゆえに俺は小さく息を吐いて言ったのだった。



「……わかった。とりあえず俺たちも協力するから、ヨミは少し〝コミュニケーション〟というものを学ぼうか……」

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