《追章》その16:新たなる主1
時は少々前へと遡り、人々が徐々に復興への歩みを進み始めた頃のこと。
各地の被害状況を確認しに回っていた俺は、たまたま訪れた鬼人の里でエリュシオンの娘――レウケさんからとある相談ごとを持ちかけられていた。
「ヨミたちをなんとかしてほしい、ですか?」
「ああ。彼ら魔族が父によって生み出されたことは知っているし、私も何かしらの責を負わねばならないとも思っている。だがその、さすがに〝主〟という柄ではなくてね……。せめて友人にしてくれないかと提案してはいるものの、なかなか聞き入れてもらえず困っていたんだ……」
レウケさんがそう苦笑い気味に肩を竦める。
なんでもあれからヨミを筆頭とした魔族たちが揃って彼女の前に現れ、新たなる主として忠誠を誓いたいと申し出てきたのだとか。
まあ彼らは俺たちを倒すためだけに生み出された存在だからな。
その目的がなくなってしまった以上、いきなり自由に生きていいと言われてもなかなか難しかったのだろう。
とはいえ、レウケさんもこうして困っているようだし、一度きちんとヨミたちと話をしてこないと。
「わかりました。そういうことでしたらとりあえず一度彼らと話してみますね」
「ああ、すまない。イグザ殿も多忙だとは思うのだが……。どうかよろしく頼む」
◇
「あ、イグザだ! やっほー!」
俺の姿を見つけるなり、パティがにぱっと笑顔で手を振ってくる。
相変わらず美少女にしか見えないのが気になるが……まあそれは置いておこう。
どうやら今は里の外れで野宿をしているようだ。
「よう、元気そうだな。今はパティ一人なのか?」
「うん! ヨミとリュウグウはほかの鬼人の情報を集めに行ってるし、アイティアは……って、あれ? アイティアには会った?」
「えっ?」
どういうことかと俺が小首を傾げる中、パティもまた「あれ?」と不思議そうに言った。
「なんかちょっと前に〝もう無理! ダーリンとちゅーしてくる!〟って一人でどっか行っちゃったんだけど……」
「えぇ……」
どんな理由……。
いや、まあ男としては喜ぶべきなんだろうけど……。
「まだ会ってないな……。もしかしたら行き違いになったのかも」
「そっかー。じゃあちゅーはおあずけだねー」
残念ー、としょんぼりするパティ。
何故彼の方が俺以上にしょんぼりしているのかはさておき。
俺は例の件をパティに尋ねてみることにした。
「そういえばレウケさんに仕えようとしてるんだって?」
「あ、うん。ヨミがね、〝我らには新たな主が必要だ〟って」
「……なるほど」
やっぱりヨミの考えか。
まああいつ真面目そうだからな。
なんだかんだ言ってもまだエリュシオンのことを創造主というか、主だと思っているのだろう。
だからこそこうして鬼人の里に身を置いて、彼の娘であるレウケさんのために尽くそうとしているんだと思う。
「パティ的にはどうなんだ? 確かに復興を手伝ってくれるのはありがたいけどさ、せっかく自由の身になったんだし」
「うーん、そうなんだけどねー。でもほら、ヨミを放っておけないし、これはこれで結構楽しいから別にいいかなって」
にこり、と嬉しそうに笑うパティに、俺も「そっか」と口元を綻ばせる。
今まで色々あったけど、エルマを庇ったりしてくれたらしいし、たぶん基本的にはいい子なんだろうな。
そう温かい気持ちになりながら、俺は続けて尋ねる。
「じゃあほかの二人も似たような感じかな?」
「うーん、どうだろう? リュウグウは別に反対する理由もないしって感じだったけど、アイティアは〝そんなことよりあたしダーリンのお嫁さんになりたいんだけど!〟って普通に反対してたような……」
「そ、そうか……」
まあ彼女らしいというかなんというか……。
堪らず頭痛を覚えそうになる俺だが、とりあえず大体の状況はわかった。
つまりヨミを説得することさえ出来れば、残りの三人に関してはなんとかなりそうだということである。
レウケさんも〝友人なら構わない〟って言ってたし、なんとかそっちの方に持っていけるようヨミを説得してみよう。
そう内心頷いていた時のことだ。
「――やはり貴様か、救世主。パティに一体なんの用だ?」
「「!」」
件の魔族ことヨミがずずずと空間を裂いて姿を現したのだった。
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