217 戦いの終わり
「俺を倒す、だと……っ? たかが人間の分際で……調子に乗るなッッ!!」
ピシャンッ! と再び黒雷が俺を襲う。
が、俺はそれが直撃する寸前で空を蹴り、光の速度で創世樹の懐へと肉薄する。
そして七支剣クシナダを突き出して吼えた。
「――〝皇拳ティルナ〟ッ!」
――どごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっっ!!
「ぐおおっ!?」
その瞬間、巨大な金色の拳が創世樹の腹部に深々と食い込み、ぶちぶちと根を引きちぎりながらその巨体を宙に浮かせる。
だが凄まじかったのは威力だけではなかった。
ばしゅうううううううううううううううううううううううっっ!! と創世樹の全身からまるで蒸気のように光の粒子が溢れ出たのである。
「まさか〝汚れ〟と化した魔物どもの浄化を……っ!?」
「ああ、そのまさかだ! すでに世界中の魔物たちがあんたと融合している以上、まずはそれら全てを浄化し、あんたと世界樹を分離させる!」
「ぐっ、そんなことが容易く出来ると思うなッ!」
ぶうんっ! と再生させた左腕が空間を隔てて襲いくるが、俺はそれも直前で脱兎の如くその場から後退することで躱し、距離を取りながらクシナダの切っ先をやつに向けて言った。
「――〝天弓ザナ〟ッ!」
――どばあああああああああああああああああああああああああああああああああんっっ!!
「ぬうっ!?」
すると次の瞬間、浮き上がった創世樹をぐるりと囲うように四方八方から金色の矢が降り注ぎ、エリュシオンの本体が埋もれるように内部へと隠れる。
それを確認した俺は矢が創世樹を削っている間にクシナダを逆手に持ち直し、未だ大地と繋がり続けている根の部分へと一気に飛んで、
「――〝冥斧オフィール〟ッ!」
ずばああああああああああああああああああああんっっ!! とそれらを一撃のもとに金色の巨大斧で斬り伏せる。
『……貴、様あああああああああああああああああああああああああああッッ!!』
エリュシオン……いや、ハデス=エリュシオンの怨嗟が辺りに轟き響く中、俺は追撃の手を一切緩めず、大地にクシナダを突き刺して声を張り上げた。
「――〝無杖マグメル〟ッ!」
――どごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!
その瞬間、下から突き上げるように伸びた金色の柱がずたぼろのハデス=エリュシオンを呑み込み、空の暗雲をぶわっと晴らす。
『おのれおのれおのれおのれッッ!! おのれ、人間ッッ!! おのれ、救世主ッッ!!』
――ずがんっ!
――どがんっ!
――ずがああああああんっ!
当然、ザナの矢で背の翼を全て失った今のハデス=エリュシオンにそこから抜け出す術はなく、苦し紛れの攻撃を放ってはくるものの、ぼろぼろとさらに身体を削られていく。
最中、俺はクシナダを逆手で大きく振りかぶり、すでに岩塊のようになっていたハデス=エリュシオンに向けて全力で投擲した。
「――〝神槍アルカディア〟ッ!」
――どばあああああああああああああああああああああああああああああああああんっっ!!
「ぐおああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
巨大な金色の槍がハデス=エリュシオンを貫き、やつの巨体がついに粉々に砕け散る。
同時に大地を蹴った俺は、衝撃で吹き飛んできたクシナダの柄を空中で掴むと、そのままそれを両手で握り、大きく振りかぶって眼下を漂っていた人影――エリュシオンへと狙いをつける。
そして。
「これで終わりだッ! ――〝剣聖エルマ〟ッッ!!」
――ずばんっっ!!
「がはあっ!?」
金色の斬撃がエリュシオンの身体を深々と斬り裂いたのだった。
◇
「な、何故だ……。何故この俺が……」
地面に這い蹲り、しゅ~と身体から光の粒子を立ち上らせながら、エリュシオンの姿が元の亜人へと戻っていく。
最後の一撃で俺はやつの神の力をも一緒に消し去ったのである。
女神さまたちもそれで構わないと言ってくれた上での決断だったのだが、今回のことで世界中の人々の間にも信仰心というか、手を合わせる気持ちのようなものが戻ったと思うし、むしろ失うくらいでちょうどよかったのだろう。
「あと少し、あと少しでやつらを皆殺しにしてやれたというのに……っ」
『……』
ずるずると瀕死のエリュシオンが唇を噛み締めながら地を這っていく。
何故そこまで人類と亜人の滅亡にこだわっているのかは分からない。
けれど、勝負は決した。
あとはやつの処遇をどうするかなのだが、
「――悪いな。そろそろ時間のようだ」
どうやらその前に俺たちの力も尽きたらしい。
再び姿を現したオルゴーさまの身体がきらきらと光に包まれていく。
あれだけ大量の力を使った上、エリュシオンもこうして倒したのだ。
今頃はカヤさんたちも歓喜に沸いているだろうし、力を送る必要もなくなったのだから当然だろう。
「オルゴー……」
同じく姿を現したフィーニスさまが悲しそうな顔をする。
そんな彼女の頭をくしゃりと撫で、オルゴーさまは笑って言った。
「そう暗い顔をするな、フィーニス。確かにまた五つに分かれることにはなるが、今度はずっとお前の側にいる。それにこいつがいればまたこの姿に戻ることだって出来るさ」
「そうね……。私もそう信じているわ……。だからまたいつか会いましょう、オルゴー……」
「ああ。またな」
そう微笑みながら頷いた後、オルゴーさまは俺を見やったかと思うと、
「!」
『――なっ!?』
そのまま俺にキスし、「というわけで、私たち六柱をよろしく頼むよ、旦那さま」と笑顔でその姿を消失させていったのだった。
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