181 常識外れの成長速度


「え、キテージやられちゃったの!?」



 人狼の里からリュウグウを連れて《神の園》へと戻ったパティの耳に飛び込んできたのは、自分よりもずっと序列の高いキテージが倒されたという報告だった。


 え、嘘でしょ!? と驚くパティに、彼の向かいの席に座っていたヨミが、「いや、事実だ」と無表情のまま淡々と告げる。



「どうやら救世主によってなぶり殺されたらしい」



「うわぁ……」



 彼らが着座するのは玉座の前にある巨大な楕円形のテーブルで、席は全部で八つ。


 エリュシオンの生み出した魔族たち――《八斬理サクリフィス》と同数が用意されていた。


 なお、現在はパティとヨミを含め五つの席が埋まっている。



「え、でもキテージ超強かったじゃん! 序列だって〝二位〟だったし!」



 未だキテージが倒されたことを信じられないパティは、玉座にエリュシオンがいるにもかかわらずそう声を張り上げる。


 すると、すっかり全快したらしいリュウグウが肩を竦めて言った。



「要はその救世主さんがわっちらよりずっと強かったということでありんしょう?」



「いや、ずっと強かったって……。でもキテージは〝超順応セカンダス〟を持ってたんだよ? いくら救世主が強いからっておかしくない?」



超順応セカンダス》は一度攻撃を受けた相手からの攻撃を完全に無効化する超強力な異能。


 ゆえにもしあれを破れるとするならば、それは最初の一撃で息の根を止めた場合のみ。


〝なぶり殺される〟などということは絶対にあり得ないのだ。


 が。



「何もおかしいことなどありんせん」



「えっ?」



 リュウグウは首を横に振って言った。



「現にわっちらがお相手をした聖女さんらは、途中から一切ダメージが入りんせんでありんした。なんでも救世主さんがダメージを身代わってくれたのだとか。それも彼女らにとってははじめての現象だったと聞きんす」



「……つまり〝対応された〟ってこと?」



 訝しげに問うパティに、リュウグウは「ええ」と頷いて再び肩を竦める。



「というより、〝成長した〟んでありんしょうなぁ。それも凄まじいスピードで。まったく羨ましい限りでありんす」



「成長……」



 そう反芻するようにパティが呟いていると、ふいに玉座から「そのとおりだ」と声が響いてきた。


 彼らの創造主――エリュシオンだ。



「あの男の成長速度にもはや〝常識〟などというものは存在しない。ゆえに己が実力に胡座を掻いていたキテージが敗れ去るのは当然のこと。そしてやつの成長はそのまま聖女どもの成長へと繋がる。私が何故お前たちにスキルとは別体系の力を与え、わざわざ〝偵察任務〟などという回りくどい真似をさせたか分かるか?」



「い、いえ……」



「それはお前たちの成長を見越したからだ。あの男とともに成長する聖女どもを抑え込むためにな」



「聖女たちを抑え込む……」



「そうだ。ゆえにお前たちが想定するのは対聖女戦のみ。救世主に関しては別段考えなくていい」



 だが、とエリュシオンは口元に笑みを浮かべて言った。



「別にあの男に抗うことを私は止めはしない。その欲求もまたお前たちの糧になるからな」



『……』



 つまり〝倒せるなら倒しても構わない〟ということである。


 しかし相手は序列二位のキテージですらなぶり殺せるほどの実力者だ。


 そう簡単な話ではないだろう。


 エリュシオンの言葉に揃って口を噤む魔族たちだったが――その時だ。



「――ちょ、ちょっといい加減放しなさいよ!?」



『!』



 ふいに聞き覚えのある女性の声が辺りに響き、パティたちは何ごとかと声のした方を見やる。



「うるさいわね。少しは静かに出来ないの? というか、静かにしないと殺されるわよ? あなた」



 そこにいたのは、パティたちと同じ《八斬理サクリフィス》の一人――アイティアと、



「はあ? こんな陰気臭いところで一体誰に殺されるって……ひいっ!?」



 彼女の術技で拘束されている人間の女性だった。


 確か彼女はそう――。



「ようこそ、我が《神の園》へ。歓迎するぞ、〝剣〟の聖女。陰気臭いところで申し訳ないが、存分に寛いでくれ」



「い、いえ、とても立派なご住居で……」



 ――聖女エルマ。



 救世主の囲う七人の聖女のうちの一人である。

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