145 終焉の女神と三柱の女神


「ともあれ、現在の状況から察するに、十中八九フィーニスさまの仕業と見ていいだろう。どういう意図があるのかは分からないが、彼女はフルガさまを襲い、そしてともに姿を消した。となれば、ほかの女神たちの安否も気になるところだ」



 アルカに視線を向けられたシヴァさんが、その不思議な光彩の瞳で虚空を見やる。


 そして「……ダメね」と肩を竦めながら言った。



「一通り女神の居場所を覗いてはみたけれど、どこも黒いもやがかかって何も視えないわ。どうやら女神フィーニスが妨害しているみたい」



「けっ、相変わらず陰湿な女神さまだぜ。なら直接行って確かめるしかねえみてえだな」



「ああ。幸い、テラさまの世界樹はドワーフの里から近い位置にあるし、一度里に寄って皆を降ろしてから俺が即行で様子を見に行ってみるよ」



 そう頷いた後、俺はヒノカミフォームに皆を乗せ、フルガさまの神殿をあとにしたのだった。



      ◇



 一方その頃。


 砂漠地帯にある砂嵐の防壁を難なく突破している人物がいた。



 ――そう、女神フィーニスである。



 もちろん目的はこの先の神殿にいる〝風〟の女神――トゥルボーだった。


 フルガ、テラと女神を取り込んできたフィーニスは、次の狙いを彼女に定めていたのだ。


 が。



「……あら?」



 そこでフィーニスは小首を傾げる。


 何故なら彼女の前に三つの人影が佇んでいたからだ。



「久しい……いや、この姿で会うのははじめてだったな、女神フィーニス」



 そう腰に手をあてながら言うのは、黒い装束に身を包んだ黒髪の女性。



〝風〟と〝死〟を司る女神――トゥルボーである。



「ええ、そうね……。そしてあなたたちは……」



 トゥルボー同様、はじめて会う者たちだったが、フィーニスは一目でそれが彼女と同質のものであることが分かった。


 ゆえにフィーニスはその口元に笑みを浮かべて言う。



「イグニフェルと、シヌスね……?」



 いずれ取り込もうと考えていた〝火〟の女神と〝水〟の女神である。


 結界のせいで上手く気配が読み取れなかったが、まさか残りの三柱が集結していようとは……。


 喜びの抑えきれないフィーニスに、「然り」とイグニフェルが頷いて言った。



「よくも我が半身を取り込んでくれたものよな、終焉の女神。なにゆえそのような愚行に走ったのかは知らぬが、おいそれとくれてやれるような代物ではない。ゆえにやつらは返してもらうぞ」



「それはダメ……。だって彼女たちの力がないと、私は赤ちゃんが産めないもの……」



 そう首を横に振るフィーニスに、女神たちが揃って眉根を寄せる。


 そして三叉槍を手にしていた女神――シヌスが訝しげに問うてきた。


 なお、普段の彼女は現在よりも数倍ほど大きな体躯をしているのだが、今は力を凝縮しているらしく、残りの女神たちと同等のサイズ感になっていた。



「あなたは本気でその身に子を宿すおつもりですか?」



「ええ、もちろん……。そして子どもたちと平和に暮らすの……」



「……その平和を築くのに他者の平和が蔑ろにされてもよいと?」



「それは知らないわ……。だって最初に蔑ろにされたのは私たちだもの……。そうよね……? オルゴー……」



「「「……」」」



 口を噤んでしまった女神たちにふふっと笑みを浮かべつつ、フィーニスは言ったのだった。



「さあ、お遊戯を始めましょう……。楽しい楽しいお遊戯を……」



      ◇



 そうしてドワーフの里へと辿り着いた後、俺は当初の予定通りスザクフォームでテラさまのもとへと最短で向かおうとしていたのだが、



「さすがに一人では危険。だから一番小柄なわたしがついていく。強くぎゅっとしてくれれば飛ぶスピードも落とさなくて済むから安心」



 とティルナが言い出したのをきっかけに、女子たちの間で論争が巻き起こっていた。


 というのも、その理論ならば《スペリオルアームズ》でエルマ以外誰でも行けるようになってしまうからだ。


 しかもスザクフォームよりも速いので、むしろ誰かを連れていった方がいいくらいの話になってしまうのである。


 ゆえに現在進行形で女子たちが自分の相応しさをアピールしまくっているのだが、こうしている間にさっさと俺一人で行った方が早かったんじゃないかなぁ……。


 そう俺が黄昏れたような顔をしていると、俺の取り合いを目の当たりにさせられていい加減嫌気が差したのだろう。


 ポルコさんが微妙に泣きながらこう言ってきたのだった。



「もう私と《スペリオルアームズ》すればいいじゃないですかぁ!? レッツトライですよぅ!?」



「……」



 当然、何言ってんだろうこの人と呆ける俺なのであった。

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