122 闇の化身
とはいえ、シヴァさんの言うこともまんざら間違っていないように思えた。
戦況はあきらかにアガルタが不利――たとえ彼が幻想形態になったとしても、竜人側の幻想形態があの白銀の飛竜だけとは限らないし、よくて五分に持ち込めるかどうかといったところだろう。
となると、アルカの《スペリオルアームズ》は全てが終わったあとの浄化くらいしか出番がないということになってしまう。
いや、むしろアガルタを行動不能にしたあとならば、《スペリオルアームズ》を使わずとも俺の浄化だけで事が済んでしまう可能性すらある。
まあそれはそれでアルカたちを危険な目に遭わせずに済むので、俺としてはむしろそっちの方がありがたいのだが、
「ああ、そんな寄って集って……」
この子すんげえしょんぼりしそうだなぁ……。
竜人たちに集中砲火を食らっているアガルタの様子を、青ざめた顔で見据えているアルカの姿に、俺は一人小さく嘆息する。
すると、そんな俺の気持ちを察してか、シヴァさんが「大丈夫よ」と不敵な笑みを浮かべて言った。
「よもや女神フィーニスのお人形さんが、あの程度でやられるとでも?」
「そ、そうだよな! 私もそう思っていたところだ!」
「いや、なんでちょっと嬉しそうなんだよ……」
ぐっと拳を握っているアルカに、俺は半眼を向ける。
と。
「――ウ、グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「「「――っ!?」」」
突如アガルタがけたたましい咆哮を上げ、衝撃波がその場にいた全員を襲う。
一体何ごとかと再び戦場に視線を戻すと、どうやらアガルタの幻想形態が発動したらしく、やつの身体から膨大な量の黒いオーラが噴き出していた。
「さあ、ここからが本番よ」
シヴァさんの言うとおり、それは次第に雄々しく形を成し、やつの様相を獰猛な飛竜へと変貌させていく。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
そうして俺たちの前に姿を現したのは、竜人側の飛竜とは真逆の――〝闇の化身〟とも言うべき黒竜であった。
いや、正確には〝飛竜人〟とでも言うのだろうか。
竜人側の飛竜はほとんど通常の飛竜と大差がないのだが、アガルタの幻想形態は限りなく竜種に近いものの、首の短さや四肢の形状など、どこか人に近いイメージを残しているのである。
言ってみれば――〝人の形をした竜〟だ。
どこかヴァエルの面影を感じさせるが、そういえばあいつも竜を取り込んでいたんだっけか。
「あれがアガルタの幻想形態……」
「うむ、そのようだな。なんとも禍々しい姿だ。……むっ?」
と、そこでアルカが何かに気づいたらしい。
彼女は「見ろ」と竜人たちを指差して言った。
「やつらの様子がおかしい」
「えっ?」
言われて竜人たちを見やると、白銀の飛竜も含め、確かに皆頭を抱えたり蹲ったりと、苦しそうにしていた。
一体どうしたのだろうか。
呆然とその光景に見入っていた俺たちだったが、
「「「「「――グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」」」」」
「「「――なっ!?」」」
突如として竜人たちが皆弾けるように幻想形態になり、揃って目を見開く。
しかもそれだけではなく、
「お、おい、なんかあいつらこっちを見ていないか……?」
「うん、見てるな……。まるで俺たちが標的だと言わんばかりにがっつりと……」
何故か竜人たちはアガルタを放置して、俺たちに狙いをつけ始めたではないか。
「なるほど、そういうこと……」
最中、シヴァさんが全てを察したようにそう呟く。
嫌な予感が縦横無尽に走ってはいたのだが、俺は一応彼女に問うことにした。
「あの、もしかしてですけど、アガルタの能力って……」
「ええ。お察しのとおり――〝全ての竜種並びに竜人を隷属させること〟よ」
「やっぱりー!?」
がーんっ、と俺がすこぶるショックを受ける中、
「「「「「「――グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」」
「「「――っ!?」」」
アガルタに操られた竜人たちが、一斉にこちらへと向けて襲いかかってきたのだった。
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