114 反逆の鬼人
「ウグオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
――どひゅううううううううううううううううううううううううっ!
カナンの雄叫びとともに背中の金属塊が開き、凝縮された黒いエネルギー体が何本も空を裂いてくる。
それはまるで意志を持つかのように俺たちを追尾してきたのだが、
「「グランドファランクスブロー!!」」
「――ッ!?」
――どばああああああああああああああああああああんっ!
《スペリオルアームズ》を発動させた俺たちの最上位武技によって、その全てが瞬く間に相殺された。
「凄い……。これが《スペリオルアームズ》の力……」
その光景を唖然と見入っている様子のザナに、俺は頷いて言った。
「ああ、そうだ。これが《スペリオルアームズ》の――俺たちの力だ」
「ふふ、なるほどね。今ならアルカディアの気持ちが分かるわ」
「えっ?」
「だって私たちは今本当の意味で一つになっているのだもの。妻の一人として、それを最初に発動させたティルナに嫉妬するのは当然でしょう? とくにアルカディアは最初にあなたのお嫁さんになったわけだし」
「そ、それはまあなんだ……。ごめんとしか言いようが……」
俺がばつの悪そうな顔で頬を掻いていると、ザナがふふっと笑って言った。
「別に謝らなくてもいいわ。確かに少々妬けちゃうけれど、それはそれできっと意味のあることだと思うしね」
「……そうだな。そう言ってもらえると助かる」
「ええ。でもそうね、やっぱりちょっと妬けちゃうから、この不満はあの殺意を剥き出しにしている怖い人にでもぶつけさせてもらおうかしら?」
ザナが視線を向けた先では、件の一撃を防がれたカナンが憤りに満ちた顔でこちらを睨みつけていた。
「ああ、分かった。なら君の力――存分に貸してもらうぞ!」
「ええ! 思いっきりやってちょうだい!」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
――どひゅううううううううううううううううううううううううっ!
再び多弾攻撃を放ってきたカナンに、
「「グランドフルファランクスブロー!!」」
俺たちもまた極大の一撃をお見舞いしてやったのだった。
◇
一方その頃。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
ずずんっ! と身を横たえた魔物の心臓を抉り出し、それを貪っている者がいた。
額から突き出た二本の角が特徴の亜人――エリュシオンだ。
霊峰ファルガラで神器に侵食された聖者たちから無事逃げ果せた彼は、その後西へと移動し、このように片っ端から強靱な魔物たちを惨殺――その心臓を食らい続けていたのである。
何故〝剣〟の聖者である彼がそんなことをしているのか。
その理由は彼の胸元に刻まれた〝黒い痣〟にあった。
――そう、女神フィー二スに貫かれた傷跡である。
傷が塞がってもなお残る呪詛のようなその痣を、エリュシオンは独自の方法で克服しようとしていたのだ。
「ふむ、今のやつはそれなりの強さを誇っていたようだな」
びきびきと胸の痣が小さくなっていく様子を見据えつつ、エリュシオンはそう静かに独りごちる。
この痣はフィー二スの子以外のもの全てを殺す類の呪詛。
であれば、彼女の子である魔物を取り込み、よりそれに近づけば薄れるのは道理である。
ゆえに、エリュシオンは〝汚れ〟のもっとも凝縮した心臓を直接食らい、魔物の力を取り込み続けていたのだ。
よもやヴァエルの研究をこのような形で使うことになるとは思わなかったが、この技法があればエリュシオンは再び戦場へと戻ることが出来るだろう。
すでに同士はおらず、〝神器〟という神の力もありはしない。
だがエリュシオンにはヴァエルになかった強靱な意志と肉体が残っている。
元来は抽出して薄めてからでないと取り込めない心臓の〝汚れ〟を、そのまま取り込めているのが何よりの証拠だ。
――ぎゅるりっ!
「ほう、なかなかいい剣だ。これならば飛竜の鱗だろうと容易に斬り裂くことが出来るだろう」
変化した右腕を見やり、そう評価を下す。
魔物の力を取り込めるのであれば、それを生み出した神の力――いや、神自身も取り込めるはずだ。
「待っていろ、女神フィー二ス。貴様の力――この私が必ず食らってやる」
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