101 千里を見通す瞳


「さてと、じゃあまずは何から話しましょうか」



 とりあえず一通りわちゃわちゃした後、俺たちは現状を再確認するため、シヴァさんから話を聞くことにした。


 ベッド脇に腰掛け、妖艶に足を組むシヴァさんに、アルカが当然だとばかりに言う。



「もちろんお前が聖者側についた理由からだ。言っておくが、我らはまだお前を信用しているわけではないのだからな」



「あら、それは悲しいわ。坊やもそうなの? あんなに激しく愛し合ったのに」



「え、いや、あの、それは……」



「「「「「……」」」」」



 ――じとー。



「……出来れば理由を話してもらえると助かります……」



 がっくりと肩を落とす俺に、シヴァさんはふふっとおかしそうに笑って言った。



「分かったわ。愛するダーリンの頼みだもの。なんでも聞いてちょうだいな」



「いや、愛するダーリンっつーほどイグザのこと知らねえだろ」



 半眼を向けるオフィールに、シヴァさんは「あら、そんなことはないわよ?」と首を横に振って続けた。



「だって私は今まで彼のことを〝視続けてきた〟もの」



「それはどういうことかしら? 見たところあなたは盲目のようだけれど」



 ザナの問いを聞いたシヴァさんは、「ああ、これ?」と目元を覆っていた黒い布を外す。



「「「「「「――っ!?」」」」」」



 そこで俺たちが見たのは、不思議な色彩を放ちながら蠢く彼女の双眸だった。


 何か魔眼の一種だろうか。


 まるで全てを見透かされているかのような気分になる中、シヴァさんは言う。



「〝盾〟に選ばれる者というのはね、文字通り人類……いえ、世界を守る存在なの。もちろん残りのレアスキル持ちもそうなのだけれど、《宝盾》を持つ者はとくにその傾向が強くて、とにかく世界の調和を保つよう様々な役割と力を与えられるわ」



「それがその瞳?」



「ええ。千里眼なんて都合のいいものではないのだけれど、今後重要となる事象をほんの少しだけ〝視る〟ことが出来るの。だから私は視続けてきたわ。あなたが〝剣〟の聖女と別れてから、マグリドの火口に落ちて《不死鳥》のスキルを手に入れるところや、そこのお嬢さんと武神祭で戦うところとかも全部ね。だからダーリンのことならこの場にいる誰よりも知っているわよ?」



「「「「「ぐっ……」」」」」



 不敵なシヴァさんの視線に一瞬怯みつつも、マグメルは一つ咳払いをして彼女に問う。



「……なるほど。つまりその力で聖者たちに近づいたのですね?」



「ええ、そうよ。私はこの目で視た坊やの強さと可能性を信じていた。だから彼の力になるべく聖者たちについたわ。まあ監視も厳しかったし、大したことは出来なかったのだけれどね。結局女神フィー二スにもあの様だったし……」



 俯き、自嘲の笑みを浮かべるシヴァさんの手を優しくとり、俺は「いえ」と首を横に振って言った。



「あなたのおかげで俺たちはティルナにも会えましたし、シヌスさまのお力を賜ってここまで来ることが出来ました。それに命懸けでフィー二スさまを止めようとしてくれたじゃないですか。十分大したことだと思いますよ」



「そう、かしら……?」



「ええ。だから自信を持ってください。そしてこれからも俺たちに力を貸してもらえたら嬉しいです。俺には……いえ、俺たちにはあなたが必要ですから」



「坊や……」



 その宝石のような双眸に涙を浮かべるシヴァさんに、俺が微笑みながら頷いていると、



「……や」



「や? ――ちょっ!?」



 がばっ! とシヴァさんが俺の頭をその豊満な胸元に抱え込んで声を張り上げた。



「やっぱりあなたとっても可愛いわ~♪ もう食べちゃいましょうかしら~♪」



「「「「「はあっ!?」」」」」



 当然、女子たちから抗議の声が上がる。



「お、おい!? どさくさに紛れて何をしている!?」



「そ、そうですよ!? というか、もしかしてあなた本気でイグザさまをお慕いしていたというのですか!?」



 驚くマグメルの問いに、シヴァさんは「当然でしょう?」と俺をハグしたまま言った。



「確かに私は〝盾〟の聖女だけれど、気に入らない相手をいつまでも視たりはしないわ。私は坊やの必死に頑張っている姿が可愛くて堪らなかったから視ていたの。ずっとね」



「おいおい、このおばさん大丈夫かよ……」



「完全にストーカーね。そうでなくとも色々と要注意人物な気がするわ」



「その前にくっつきすぎ。早く離れて」



 女子たちから不満の声がばんばん飛んでくる中、余裕綽々に俺を解放したシヴァさんは、恭しく俺の前に跪いてこう言った。



「じゃあ改めまして。〝盾〟の聖女――シヴァ。今よりあなたさまのお力になりますわ。なんなりとお申し付けくださいませ」



「は、はい! その、よろしくお願いします!」



 釣られて俺もぺこりと頭を下げたのだった。

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