102 黒人形を追え
というわけで、〝盾〟の聖女――シヴァさんを仲間に加えた俺たちは、改めて現状の整理をする。
言わずもがな、一番の問題はフィー二スさまであるが、彼女が黒人形化(命名アルカ)させた聖者たちの存在や、あの場に一人残ったエリュシオンのことなど、気になることは山ほどあったので、それを一つずつ解決していく。
「まずエリュシオンについてだけれど、あの状況下でもどうやら上手く逃げ延びたみたいね。さすがと言ったところかしら」
「でも彼にはもう神器はないんですよね? それにシヴァさんと同じくフィー二スさまの呪詛を受けているはずですし……」
「はっ、別に心配する必要はねえだろ。そんな状態でもほかの聖者どもをまとめて相手にしてたんだぜ? しかも相変わらず上から目線で〝女神を止める算段を見つけろ〟的なことまで言いやがってたんだ。どうせまたひょっこり出てくるに決まってるじゃねえか」
「うん、わたしもそう思う。あの人無駄にしつこそうだから」
「はは、酷い言われようだな。でも俺もあいつはまた俺たちの前に立ちはだかってくると思う。だからその時のために今はほかの案件を先に片づけておこう」
俺の言葉に、全員が頷く。
最中、アルカがシヴァさんに問うた。
「それでフィー二スさまと聖者どもの行方はどうなっているのだ?」
「残念だけれど、女神フィー二スに関しては何も視えないわ。ただ女神フルガに関しては女神イグニフェルとともにいる姿が視えたから、無事救出されたみたいね」
「そうですか……。それはよかった……」
ほっと胸を撫で下ろす俺だが、シヴァさんは続けてこう言ってきた。
「ちなみに、二柱の近くには〝剣〟の聖女の姿もあるわ」
「えっ?」
な、なんでそこにエルマがいるんだ!?
まさか彼女がフルガさまを助けたとか……?
いや、まさか……、と難しい顔で腕を組む俺をおかしそうに笑いつつ、シヴァさんは言う。
「話を戻すけれど、黒人形化した聖者たちに関しては皆バラバラに動いていて、恐らくだけど各々の里に向かっているんじゃないかしら?」
「各々の里って……まさか襲撃する気!?」
驚くザナに、シヴァは「ええ、そうよ」と静かに頷く。
「どうやらエリュシオンが相当フィー二スを怒らせたみたいね。とにかく亜人の抹殺を最優先に動いているみたい」
「くっ、なんとかして止めないと……っ。あいつらの種族はなんだ?」
俺の問いに、マグメルは口元に人差し指を当てながら言った。
「えっと、確かミノタウロス、エルフ、竜人、人狼の四種だったはずです」
「ふむ、それらの里に同時に向かっているとなると、全部を悠長に回っている時間はないぞ? どうする?」
「ならスザクフォームに最低限の人数だけ抱えて超高速で飛ぶしかない。一人は〝眼〟のあるシヴァさんで確定だから、もう一人は神器に対応出来る聖具を持つ人物になると思う」
「つまりあたしとおチビちゃん、槍オーガにお姫さまってところか」
オフィールがそう告げると、呼ばれた三人から抗議紛いの声が飛んできた。
「おい、誰が〝槍オーガ〟だ。オーガはお前だろ?」
「わたしは〝おチビちゃん〟じゃない。これでも立派な大人のレディ」
「まあ別に事実だし、〝お姫さま〟でも構わないのだけれど……」
「ち、ちなみに私とシヴァさんはどうなるんですか!?」
変な好奇心が生まれたと思われ、マグメルがオフィールに問う。
すると、彼女は「あん? そんなの決まってんだろ?」と二人をそれぞれ指差して言った。
「〝ドM〟と〝盾ババア〟」
「「……」」
呆然と瞳を瞬かせた後、かちゃっと無言で各々の武具を装備し始める両者に、「じょ、冗談だって!? そんなマジで怒んなよ!?」と慌てて謝罪するオフィールなのであった。
てか、〝ドM〟はまだしも〝盾ババア〟って……。
◇
ともあれ、ここから一番近いのは人狼の里だということで、俺たちはまずそこへと向かうことにした。
人狼――シャンガルラは〝拳〟の聖者。
となると、対応する聖女はティルナだ。
ほかの女子たちには一時的にここで待機してもらうことにし、俺たちは人狼の里へと向けて高速で飛ぶ。
シャンガルラもそうだったが、人狼は気性が荒いことで有名な亜人種だという。
果たして俺たちに協力してくれるかどうか……。
いや、たとえ協力してくれなかったとしても、俺たちはシャンガルラを止める――それだけだ。
そう決意を新たにし、俺たちが飛んだ先で見たのは、
「あそこ、煙が上がってる!」
「くっ、間に合わなかったのか……っ」
すでに黒煙の上がっている里の姿だった。
「いえ、まだ諦めるのは早いわ。急ぎましょう」
「ああ、了解だ!」
頷き、俺たちは悲鳴の響く里へと急ぎ向かったのだった。
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