93 女神の寵愛を受けし魔の王
「さて、これで邪魔者はいなくなったな」
フルガさまの姿が消えた後、エリュシオンは太刀を大地から引き抜く。
すると、俺たちの眼前に張られていた防壁もまた消失した。
「おい、フルガさまに一体何をした!?」
「安心しろ。別に殺してはいない。ただこの場には少々邪魔な存在だったのでな。我らが女神の相手をしてもらっているだけだ」
「お前たちの女神だと……? まさかフィー二スさまの封印はもう解けているのか!?」
驚く俺に、エリュシオンは「いや」と首を横に振って言った。
「女神の封印は依然健在だ。もちろん我らがこうして神器を手にしている以上、確実に綻びつつあるがな。ゆえに貴様の存在が必要不可欠というわけだ」
「俺の存在……?」
それは一体どういうことだろうか。
俺が言葉の真意を測りかねていると、エリュシオンがびゅっと太刀の切っ先をこちらに突きつけて言った。
「貴様はオルゴーの代わりだ、小僧。五柱全ての力を有している貴様を贄にすることで、女神の封印は完全に砕け散る。そして貴様は彼女によって新たなる魔の王として造り替えられ、永久に女神の子として愛でられ続けることになるのだ」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
何を、言ってるんだ……?
揃って言葉を失う俺たちに、エリュシオンは不敵な笑みを浮かべて続けた。
「女神は〝子〟を欲しているのだよ。自分に近い力を持ち、かつ永久に歩み続けられる従順な我が子をな」
「従順な、我が子……?」
「そうだ。ゆえに誇るがいい、小僧。貴様はその大役に選ばれた。神々同様不死の肉体を持ち、今まさに五柱目の女神の力をも手に入れた貴様は、我らが女神の寵愛を受けるに足る存在になったのだ」
「ふざけんな! 俺はそんなことのために彼女たちの力を授かったわけじゃない! 皆が笑顔で過ごせる世界のために力を授かったんだ!」
全力で否定する俺だが、しかしエリュシオンは淡々と告げた。
「それは残念だったな。我らの築く世界に人の笑顔など存在しない。分かったら大人しく我らとともに来い」
「何を――」
と。
「――やめておけ。やつには何を言っても無駄だ」
すっとアルカが俺を手で制しながらそう言ってくる。
「アルカ……?」
そして彼女はふっと口元に笑みを浮かべると、さらにこう続けてきた。
「それより早々にやつらをのしてフルガさまを助ける――そうだろう?」
「……ああ、そうだな。すまん、少し熱くなってた」
そう反省の言葉を述べる俺に、ほかの女子たちも微笑んで言った。
「まあ気にすんなって。あのおっさんが相変わらずやべえやつだったってだけの話だ」
「そうね。まあほかの人たちも大概ではあるのだけれど」
「うん。イグザを生け贄になんて絶対にさせない。わたしたちが必ず守ってみせる」
「ええ、そのとおりです。向こうには〝盾〟の聖女もいるようですが、私たちにはフェニックスシールの絆があります。イグザさまが健在である限り――私たちは無敵です!」
「皆……」
こくり、と揃って頷いてくれる女子たちの姿に、俺は胸が熱くなる。
そして。
「――よし、なら全力で行くぞ!」
「「「「「了解っ!」」」」」
俺たちの戦いが幕を開けたのだった。
◇
「愚かな。大人しくしていれば痛い目を見ずに済んだものを」
呆れたように嘆息するのは、言わずもがなエリュシオンだった。
こいつの相手を出来るのは俺しかいないからな。
必然と言ってもいい組み合わせだと思う。
「それはこっちの台詞だ、エリュシオン。言っておくが、俺はこの前よりも強いぞ」
「であろうな。貴様はフルガの力も手にしている。当然のことだ」
そう静かに頷くエリュシオンだが、俺は「いや」とかぶりを振って言う。
「確かにそれもあるさ。でもな、一番の理由は――〝皆と一緒に戦っている〟からだ!」
どぱんっ! と衝撃波を巻き起こしながら、俺はスザクフォームへと変身――双剣を顕現させて構える。
すると、エリュシオンは一言「そうか」と告げた後、酷く冷淡な声音でこう続けてきた。
「ならばその絆とやらがまやかしにすぎぬということを身を以て教えてやる」
そうしてべきばきっと身体を一回り以上強靱に肥大化させたエリュシオンの姿は、まさに〝鬼〟と呼ぶに相応しいおどろおどろしいものであった。
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