87 女神陥落
未だ空で燃え盛り続けている太陽の如き球体を、アルカディアたちは心配そうに見据えていた。
一時はどうなることかと思ったアルカディアの身体も、マグメルの治療によりすっかり回復し、五人は揃って灼熱の檻を見上げる。
一体あの中でどんな熾烈な争いが起こっているのか。
それを知る手立てを彼女たちは持ち合わせてはいなかったが、しかしイグザが優勢なのは理解出来た。
というのも、時折フルガの苦痛に喘ぐような声が聞こえてくるのである。
ならば恐らくはイグザが戦いの主導権を握っているのだろう。
そうアルカディアたちは確信していたのだが、ふとザナがこんなことを言い出し始めた。
「ねえ、たぶん私の気のせいだとは思うのだけれど、フルガさまの声――さっきよりも高くなってない?」
「えっ? まあ確かに言われてみれば少々高くなっている気はしますけど……」
「そりゃあんな地獄みたいなところにいるんだぜ? いくら神さまだろうとへばってくんのは当たり前だろ?」
「ええ、私もそうじゃないかとは思うのだけれど……」
ちらり、とザナはアルカディアとオフィールに視線を向ける。
「む、なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言え」
「そうだぜ? 仲間内で隠し事はねえだろ?」
当然、不快感をあらわにする両者に、ザナは少々言いづらそうに言った。
「……その、似てるのよね。――あなたたちが彼に抱かれている時の声の移り変わりに」
「「……」」
それを聞き、二人は揃って両目を瞬かせた後、互いを見やってから同時に声を張り上げた。
「「はあっ!?」」
「つまりどういうこと? あの中で今まさに二人はお取り込み中?」
「そ、そんなことあるはずないじゃありませんか!? だ、大体フルガさまは女性好きの女神さまなんですよ!? さっきだって私たちのことを〝男臭いから抱けない〟って散々言ってましたし!?」
「ええ、だから念のためにちょっと皆で耳を澄ませてみるのはどうかしら?」
「「「「――」」」」
こくり、とザナの言葉に一同は無言で頷き、静かに耳を傾け始める。
「「「「「……」」」」」
完全にギルティであった。
◇
フルガさまとの戦闘に決着をつけた俺は、火照った顔でぐったりとしている彼女をお姫さま抱っこしながら皆のもとへと戻る。
そしてフルガさまを祭壇に寝かせ、「……ふう。強敵だったぜ……」と額の汗を拭いながら彼女たちの方を見やったのだが、
「って、うおっ!?」
「「「「「……」」」」」
じとー、と全員揃って半眼になっていた。
「あ、あの、皆……?」
「ふふ、お疲れさまでした、イグザさま」
「あ、うん……。ありがとう……」
なんだろう。
笑顔なんだけど笑顔じゃない。
てか、目があきらかに笑ってない。
「お手柄だったな、イグザ。あのフルガさまを倒すとは見事なものだ」
「お、おう……」
そしてこちらからはあからさまな〝圧〟を感じる。
えっと、これはもしかしてあれだろうか……。
一応見えないようにはしていたはずなんだけど……。
俺が一人冷や汗を流していると、ザナがふふっと微笑みながら近づいてきて言った。
「ねえ、知ってる? 女ってね、直感的に男がほかの女を抱いてきたことが分かるのよ?」
「えっ!?」
じゃあやっぱり!?
「ただ今回は状況証拠があったから、直感的にというわけではないのだけれど……でも一応尋ねるわね、イグザ。あなた――フルガさまを抱いたわよね?」
「え、えっと、でもこれには非常に深いわけが……」
「――抱いたわよね?(威圧)」
「……はい、抱かせていただきました」
ザナと、その後ろに控えていた女子たち全員の圧力の前に、俺はもう正直に頷くことしか出来なかったのだった。
◇
その後、詰め寄ってきた女子たちに俺は必死に事情を説明した。
本当はキスで終わらせるつもりだったのだが、気づけば向こうも求めてくるような感じになったので、結局抱いてしまうことになったのだと。
むしろあそこで拒んでいた方が逆に関係性が悪くなるということも伝えた。
ほら、よく〝女に恥を掻かせるな〟って言うだろ?
だからそういう状況だったのだと懇切丁寧に説明したのである。
「まあ事情は分かったんだけどよ、でもあたしたちが見てる前でヤろうと思うなんて、おめえすげえやつだな」
「は、はは……」
「うん。そういうことならフルガさまがぐったりしてるのも頷ける」
「そうね。一晩で私たち全員を腰砕けに出来るほどの超絶倫だもの。神さまだろうと例外ではないでしょうね」
「い、いやぁ、照れるなぁ……」
あはは……、とぎこちない笑みを浮かべる俺だったのだが、
「ふふ、別に褒めてるわけではないんですよ? イグザさま」
「……はい」
目の笑っていないマグメルにそう言われ、しょんぼりと小さくなっていた。
と。
「まあ各々言い分はあると思うが、とにかくイグザのおかげで勝負には勝ったのだ。あとはフルガさまの意識が戻り次第、我らの話に付き合ってもらうとしよう」
「アルカ……」
針の筵の中、アルカが俺のことを労ってくれて、思わず目頭が熱くなっていたのだが、
「もちろんその前に私の話に付き合ってもらうがな(威圧)」
「……」
うん、知ってた……、と俺は一人笑顔で魂が抜けかけていたのだった。
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