88 女神さまが嫁になりました
その後、アルカがお叱りの言葉を授けるどさくさに紛れて正妻の言質を取ろうとしたことが皆にバレて一悶着あったことはさておき。
「て、てめえ、よくもオレにあんな……あんな辱めを……っ」
意識を取り戻したフルガさまが真っ赤な顔で自らの身体を抱き締める。
お姉さん座りしているところが微妙に可愛らしいが、まあそれは置いておこう。
唇を噛み締め、ぷるぷると身体を震わせていたフルガさまだったが、彼女はやがてかっと両目を見開き、声を張り上げてこう言ってきた。
「――せ、責任はとってもらうからな、人間! お、お前にはオレの夫になってもらうぞ!」
「「「「「「――なっ!?」」」」」」
当然、驚愕の表情で固まる俺たちに、フルガさまはやはり真っ赤な顔で言う。
「な、何を馬鹿みたいに呆けていやがる!? お、お前はオレにあんなことをしやがったんだぞ!? 責任を取るのは当たり前だろうが!?」
「い、いや、でもあれは……」
「う、うるせえ! こうなったら盛大に式を挙げてやるからな! 覚悟しやがれ、この野郎! それで子どもは何人欲しいんだ!? ああっ!?」
「えぇ……」
すっかり嫁になる気満々のフルガさまに、呆然と佇むことしか出来ない俺だったのだが、〝嫁〟と聞いて黙っていられない者たちがこの場には五人ほどいるわけで……。
「まあ落ち着け、雷の女神よ。イグザはすでに妻帯者だ。である以上、まずは正妻の私に話を通してもらわねば困る」
「いえいえ、正妻は私ですので、お話は私がお伺いします」
「いや、ちげえだろ。イグザが一番愛してんのはあたしだぞ?」
「それも違う。イグザの一番はわたし。嘘はよくない」
「ごめんなさいね、フルガさま。この人たちは自分のことを正妻だと勘違いしているみたいなの。それでお話はなんだったかしら?」
何度目かも分からない正妻戦争が勃発する中、しかしフルガさまはさも当然とばかりに言った。
「――何言ってんだ、お前ら? 神であるオレがこいつの嫁になる以上、正妻はオレに決まってんだろ?」
「「「「「……」」」」」
その瞬間であった。
現嫁である五人の間に〝結束〟というものが生まれたのは。
恐らくは相手が〝女神〟ということもあり、瞬間的に人同士で争っている場合ではないと判断したのだろう。
そうしてここに人と神の熾烈な争いが幕を開けることになったのであった。
まあその内容が俺の正妻ポジについてなのは正直どうかと思うんだけど……。
てか、皆それぞれの良さがあるんだし、全員が一番ってことじゃダメなのかなぁ……。
◇
もちろん熾烈な争いとは言っても、肉弾戦でどんぱちやったわけではない。
いや、実はやりかけていたのだが、それではあまりにもフルガさまが有利なので、じゃあ飲み比べ対決はどうだというオフィールの案も、彼女に有利なので却下になった。
ならばどういう対決なら公平に正妻を決められるのか――それをフルガさまも含めて考えてみたところ、やはり正妻とは一番俺のことを信頼し、かつ家事育児能力のもっとも長けた者なのではなかろうかという話になった。
つまり現時点で正妻を決めるのは難しく、この旅が終わった後に改めて決着をつけようという結論にいたったのだった。
まあ妥当な落としどころだったのではないだろうか。
それなら皆その時を目指して頑張ればいいだけだしな。
時間もそれなりにあるし、あとは本人の努力次第だろう。
ただ……。
「ずっと一緒にいられるお前らとは違って、オレはここから離れられねえ。その分の不満はどう埋めてくれるつもりだ?」
そう、フルガさまもカヤさんと同じく、いわゆる〝現地妻状態〟だということである。
が、それに関してはもうこれしかあるまい。
「分かりました。なら俺が頻繁に会いに来ていっぱい構います。それじゃダメですか?」
「お、おう……。まあそれなら別に……」
「「「「「……」」」」」
何やらしおらしく両手の人差し指同士をつんつんさせるフルガさまに、女子たちが半眼を向ける中、俺はやっとこさ本題へと入る。
「それでフルガさまに会いに来た目的なのですが……」
「あ、ああ、分かってる。オレの〝雷〟と〝破壊〟の力が欲しいんだろ? まあお前はオレの夫になる男だからな。別に構やしねえよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
笑顔でお礼を言う俺に、フルガさまは「お、おう」と頷きつつも、どこか恥ずかしそうにこう言ってきた。
「それでその……なんだ。力をやる礼っつうか……あとで少しばかりぎゅっとしてくれたりしねえのかなって……」
「ええ、もちろんです。フルガさまの気が済むまでお付き合いしますよ」
「そ、そうか? な、ならまあ仕方ねえな! がっつり力を分けてやるよ!」
そう嬉しそうに腕を組むフルガさまに、俺も目的が達成出来てよかったと女子たちの方を振り向いたのだが、
「もちろん私も抱き締めてくれるのだろうな?」
「ええ、当然ですよね?」
「そりゃそうだよな?」
「議論の余地はないわね」
「うん、皆平等」
「そ、そうだね……」
というように、有無を言わせない圧がびんびんに俺を襲っていたのだった。
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