84 雷の女神は女好き?
それからしばらく飛び、俺たちは雪の都――〝エストナ〟へと辿り着く。
てっきり防寒具を購入した方がいいかと思ったのだが、フェニックスシールのおかげか、普段の装備でも皆とくに寒くはないらしい。
なので俺たちは早々に宿を取り、情報収集を行った。
住民の話だと、どうやらここから見えるあの霊峰――〝ファルガラ〟の頂が、神の座する場として人々の信仰の対象になっているらしい。
ただそれと同時に不穏な話も聞いた。
なんでもエストナでは、年に一度〝都一番の美女を神の生け贄として捧げている〟というのだ。
それだけ聞くと忌むべき風習のようにも思えるのだが、捧げられた者たちは別段殺されたりはせず、皆数ヶ月から数年以内には解放されるという。
しかもその間の記憶が欠落しているらしく、住民たちも不思議に思っているのだとか。
だがその見返りは大きいようで、神は都の民たちに度々レアな飛竜種の死骸や鉱石類などを贈り、それらを売ることでエストナの民の生活は守られているらしい。
「ふむ。共生関係と言うには些か奇妙な感じだが、それは本当に雷の女神の仕業なのか?」
「ええ、私もちょっと懐疑的です。そもそもフルガさまは女神――つまりは〝女性〟です。美女の生け贄を所望するとは思えません」
そう首を横に振るマグメルだが、オフィールの意見は違ったらしい。
「そうかぁ? 単に〝女好き〟なだけだろ?」
「いや、女好きって……」
はあ……、と呆れたように嘆息するマグメルだが、確かにトゥルボーさまも子ども好きだったし、そういう貞操観念に緩い女神がいたとしてもおかしくはないのかもしれない。
まあ男を食い散らかしてるとか言われるよりは全然マシだしな。
それだとなんか凄いイメージ下がるっていうか……。
「ただ〝女好き〟と言われると、皆を連れて行くのは些か気が引けるな。変に気に入られても困るし」
「あら、やきもち? ふふ、でも心配しなくていいわ。たとえどんなことがあっても私はあなただけのものだもの」
そう言ってザナが寄り添ってくるのだが、
――ぐいっ。
「あら?」
「ザナさん、そういう抜け駆けはよくないと思います」
直前でマグメルが彼女を引き剥がし、念押しするように告げる。
が。
「ふふ、でももう遅いみたいよ?」
「えっ……?」
ザナの視線を追った先でマグメルが見たのは、ほかの三人にぐいぐい来られている俺の姿だった。
「わたしもずっとイグザと一緒」
「うむ、私もだ。だから存分に可愛がってくれ」
「ほれほれ、どうだあたしの温もりは。最高に癒されるだろ?」
「お、おう……」
右腕にティルナ、左腕にアルカ、後ろからはオフィールと、完全武装状態になっていたのである。
「ちょ、何してるんですか皆さん!?」
当然、マグメルの怒声が室内に響いたのだった。
◇
ともあれ、もしフルガさまが本当に女好きであるのなら、自分たちが行った方がむしろご機嫌が取れるのではないかという話になり、結局フルメンバーで彼女のもとを訪れることになった。
テラさまからも〝一番最後にした方がいい〟と言われている上、彼女は〝破壊〟を司る女神である。
ゆえに俺たちはいつも以上に警戒しつつ、明朝ファルガラの頂へと向かう。
昨日は視界がほとんど見えないほどの吹雪だったが、今日は快晴と言っていいくらい空が澄み渡っていた。
ほどなくして俺たちは頂へと到着する。
そこは一面白銀の世界だった。
「イグザさま、あれを」
「おっ?」
恐らくは生け贄用であろう祭壇を発見した俺たちは、その近くへと降り立つ。
当然、周囲に人の気配はまるでなく、魔物一匹の姿すら見つけることは出来なかった。
「よし、じゃあさっそく呼びかけてみるか」
そう頷き、俺は声を張り上げてフルガさまを呼び出す。
「フルガさまー! 聞こえていたらお返事をお願いします! フルガさまー!」
――ごろごろっ。
「「「「「「!」」」」」」
予兆はすぐに現れた。
あれだけ晴れ渡っていた空が急激に雷雲で包まれ始めたのだ。
と。
――ごろごろぴしゃーんっ!
「きゃあっ!?」
――ぎゅむっ。
「おい、どさくさに紛れてイグザに抱きつくな」
「し、仕方ないじゃないですか!? 私、雷苦手なんですから!?」
――ぴしゃーんっ!
「きゃあっ!?」
――ぎゅう~。
「「「「……」」」」
すると、何故かほかの女子たちもぞろぞろと俺に近づいてくる。
「あー、じつはあたしも雷苦手だったわ」
「そうね。本当は私も得意じゃなかったの」
「うん。だってわたし人魚だし」
「やれやれ、雷というのは恐ろしいものだ」
「いや、あなたたちは全然平気だったじゃないですか!?」
「あの、皆……?」
今めちゃくちゃ神さま呼び出してる最中なんだけど……。
俺がそう小さく嘆息していると、
「――このオレを前に女を侍らせるとはいい度胸だな、人間!」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
突如辺りに女性のものと思しき怒号が響き渡り、雷鳴とともに一柱の女神が姿を現したのだった。
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