《閑話》聖者サイド4:化け物
聖者の円卓に響くのは、シャンガルラの嘲笑だった。
「ざまあねえな、エリュシオン! それでも最強の聖者さまかよ!」
もちろん話題は先の戦闘についてである。
いつも澄ました顔のエリュシオンが救世主にずたぼろにされたと聞き、シャンガルラは笑いが堪えられなかったのだ。
「何がそんなにおかしい? 小僧の成長が私の想像を遙かに超えていただけのことだ」
「ああ、そうだな。それで無様にも獣化までして逃げてきたんだよな? 最強のエリュシオンさまがよぉ!」
「無論だ。私には成すべき目的があるのだからな」
シャンガルラの挑発に淡々と返した後、エリュシオンは「ところで」と続けた。
「そういうお前も忘れてはいまいな? たとえあの状態で獣化していたとしても、小僧には敵わなかったということを」
「ああっ!? 誰が誰に敵わねえって!?」
ばんっ! と円卓を叩き、シャンガルラがエリュシオンに牙を向ける。
そんなシャンガルラに対しても、やはりエリュシオンは表情一つ変えずに言った。
「無論、お前が小僧にだ」
「てめえ……っ」
ぎぎぎっ、とシャンガルラが円卓に爪を立てていると、「……あら?」と〝盾〟の聖女――シヴァが姿を現した。
「今日は随分と賑やかなのね。何かいいことでもあったのかしら?」
「あっ? 聞かなくても分かってんだろ? 我らの頼れるリーダーさまが尻尾巻いて逃げてきたんだよ」
「あらあら、そうだったわね。でもまあ彼らもどんどん力をつけているし、別におかしくはないんじゃないかしら? ねえ? ボレイオスさま」
シヴァの問いかけに、ボレイオスは腕を組んだまま静かに頷く。
「そうだな。確かに救世主は言わずもがな、聖女たちの力も想像以上であった。その上、此度の一件が一層やつらの糧となることは必須。であればいよいよ獣化なしでは太刀打ち出来なくなってくるやもしれん」
「はっ、何を弱気になってやがんだ、デカブツ。どんなに力をつけようが、所詮はただの人間じゃねえか」
「その人間に我らは二人がかりで後れを取った。さらに最強の聖者たるエリュシオン殿もだ。この意味が分からぬ貴様ではあるまい」
そう厳かに告げるボレイオスだったのだが、シャンガルラは珍しく声のトーンを落として言った。
「そっちじゃねえ。俺が言ってんのは女どもの方だ。大体てめえらにはあいつが人間に見えんのか?」
「「……」」
沈黙する両者に、シャンガルラは不敵な笑みを浮かべてこう言ったのだった。
「そうだよな。あいつはもう人間なんかじゃねえ。あいつはエリュシオン、てめえが作り出そうとしている王さまの器に相応しい――ただの化け物だ」
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