83 俺の背中は温かい
聖者たちの襲撃から数日後。
工房内にて、ついに完成した女子たちの新装備がお披露目されていた。
「おお、これは素晴らしい。うむ、なんだか身体も軽くなったように思えるぞ」
「当然じゃ。素材も我らが長年をかけて集めたものを惜しみなく使ったからのう。レア中のレア素材じゃぞい」
「そ、そのようなものを使われて本当によかったのですか? 確かにもの凄く身体に馴染んではいますが……」
控えめなマグメルの問いに、ナザリィさんは「うんむ」と笑顔で頷いた。
「わしらドワーフは受けた恩を決して忘れん。今おぬしらにそれが必要だと判断したのであれば、大盤振る舞いも当然のことじゃて」
「ありがとう、ナザリィ。これでわたしたちももっとイグザの力になれる」
「そうね。先日は不覚を取ったけれど、今度はそうはいかないわ」
「おう! 次に会ったらあの牛野郎、こてんぱんに叩きのめしてやるぜ!」
各々が決意を新たにする中、俺は女子たちを見渡して微笑む。
「うん、皆凄くよく似合ってる。もちろん前のも素敵だったけど、今はとても生き生きしているような気がするよ」
「ふ、当然だろう? ティルナも言ったが、口惜しくも我々は少々力不足気味だったからな。まあ防具一つで変わるものでもないとは思うのだが、それでも皆お前の力になれると信じ、それを喜ばしく思っているのだ」
「……そっか。皆ありがとな」
アルカの言葉にそう胸を熱くする俺だったのだが、
「ええ、そのとおりです。まあ私は聖神杖がありますので、皆さんよりも頭一つ飛び抜けてはいるのですけれど」
――ちらっ。
「「「「……(イラッ)」」」」
勝ち誇ったようなマグメルの視線に、残りの女子たちが揃って半眼になる。
と。
「はっ、そう言うんだったらさっさとザナを復活させてもらいたかったもんだけどな」
「――んなっ!?」
「うん、わたしもそう思う。ちょっと時間がかかりすぎ」
「し、仕方ないじゃないですか!? イグザさまの再生術と私の治癒術はまったくの別物なんですから!?」
当然、猛反論するマグメルに、オフィールとティルナは顔を見合わせて言う。
「そう言われてもなぁ? 一人だけ聖神器持ちなのになぁ?」
「うん。聖神器持ちなのにねぇ?」
「あなたたち……っ」
ぐぬぬ……っ、と唇を噛み締めるマグメルをたちの様子を、俺はいつも通りで安心するなと微笑ましそうに眺めていたのだった。
◇
そうして俺たちはドワーフの皆さんが総出で見送ってくれる中、里を出立した。
もちろん彼らには重々お礼を言い、レイアさんとの約束通り、ナザリィさんに彼女の紹介もしておいた。
ヒノカグヅチを作った鍛冶師ということもあってか、ナザリィさん的にも興味があったようで、「うむ、いつかは会ってみたいのう」と前向きに考えてくれるみたいだった。
ただまあドワーフは元々排他的な種族らしいので、なかなか難しいとは思うのだが。
ともあれ、俺たち(というよりは、むしろ女子たち)は新装備をばっちりと着こなし、ヒノカミフォームで雷の女神――フルガさまのいるという北の豪雪地帯を目指していた。
てっきり俺も新しい防具が手に入るかと思っていたのだが、現状フェニックスローブ以上のものは存在しないらしい。
まあ一応素材的には最強の装備だからな。
仕方ないだろうさ。
とはいえ、このフェニックスローブもまた俺の成長度合いで見た目が進化するタイプのものらしく、新たなフォームが誕生する可能性もあるという。
ならば今よりもさらに強くなって究極のフォームを生み出すしかあるまい。
俺がそう決意を新たにしていると、ちらほらと降っていた雪がどんどん強くなってくる。
それはやがて視界がホワイトアウトするほどの吹雪へと瞬く間に成長した。
「まさに豪雪地帯ね。イグザがいなければとっくに遭難していたわ」
「そうだな。しかしさすがは強化された力だ。これほどの結界を一面に張るとは……」
アルカたちの視線の先にあったのは、ヒノカミフォームとなった俺の周りをぐるりと囲う円形の障壁だった。
もちろん炎属性の壁なため、吹雪は触れた側から蒸発しており、中の気温もほどよく温かい感じだ。
「やっぱりイグザの背中はぽかぽかする。眠くなってきた」
うつ伏せに寝転がりながらもふもふと毛の感触(厳密には炎なのだが)を堪能しているティルナに、オフィールも「だよなぁ……」と同意して大の字になる。
「あったけぇ……。マジでこのまま寝ちまいそうだぜ……ぐー」
「いや、寝るの早すぎじゃありません!? というか、イグザさまがお一人で頑張っておられるのに、揃って寛ぐとは一体どういう了見ですか!?」
「はは、まあ気にしなくていいさ。町に着くまでもう少しかかりそうだし、なんならマグメルも寝てていいぞ」
「えっ? で、ですが……」
注意した手前、なかなか踏ん切りがつかずにいたようだが、
「ほら、お前も横になるといい。これはなかなかのものだぞ」
「ええ。まるで本当にイグザに抱かれているみたいよ」
「で、では……」
アルカたちにもそう促され、マグメルもふさりと横になる。
「はあ~……温かいです……」
そのまま夢心地に浸っていたようなので、俺としても大満足なのであった。
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