81 不死鳥VS鬼人
「イグザ!」
「離れてろ、ティルナ! こいつはほかの聖者たちとは桁違いだ!」
そう前を向いたまま警告し、俺はエリュシオンを問い詰める。
「無抵抗の女の子を襲うのがあんたの正義なのか!?」
「そうだと言ったらどうする?」
「こう……するッ!」
がんっ! とエリュシオンを弾き飛ばした俺は、長剣を消失――即座に槍を顕現させ、全力で投擲する。
「――ルナフォースメテオライト!」
――どばああああああああああああああああああああああああああんっっ!!
ヴァエル王の時よりも威力・速さともに数段強化された《ルナフォースメテオライト》だ。
が、さすがは聖者たちのリーダー格である。
「凄まじい威力の攻撃だが、あたらなければ無意味だ」
直撃の寸前で虚空を蹴り、宙をジグザグに駆けながら肉薄してきた。
どういう運動神経なのかという感じだが、驚いている場合ではない。
「はあっ!」
――がきんっ!
俺も再び長剣を顕現させ、最速の抜剣術を以てこれを迎え撃つ。
そうして鍔迫り合う俺たちに、シャンガルラが不満げに横槍を入れてきた。
「おいおい、これ以上の戦いは不毛だったんじゃねえのかよ!?」
「ああ、そのつもりだったが少々気が変わった。お前たちは先に戻っていろ。私はこいつの身体に一太刀浴びせてから行く」
「はっ、自分だけお楽しみとは大したリーダーさまだな、おい! ――行くぞ、デカブツ! クソ野郎の道楽になんざ付き合ってられるか!」
「口を慎め、シャンガルラ。元々は我らの失態ぞ」
「んなこと知るか!」
がんっ! と憤りを込めた蹴りで木を薙ぎ倒し、シャンガルラが去っていく。
当然、ボレイオスもその後ろに続く中、俺は不敵に笑って言った。
「いいのか? お仲間がご立腹だぞ?」
「勘違いするな。あれらとは単に利害が一致しているだけのこと。仲間などではない」
「そうかい。ならここで俺があんたを倒したとしても、恨み言を言われることはなさそうだな」
俺がそう皮肉交じりに言うと、珍しくエリュシオンが口元に笑みを浮かべて言った。
「貴様如きがこの私を倒すだと? 図に乗るなよ、小僧。よもや神の力を得ているのが貴様らだけだとでも思っているのか?」
「……なんだと?」
訝しげに眉根を寄せる俺をがきんっと弾き飛ばし、エリュシオンがその禍々しい太刀を天に掲げる。
「いい機会だ。貴様らに我らが終焉の女神の力を見せてやる」
「終焉の、女神……?」
そんな女神の名は初耳である。
六大神のほかにまだ女神がいるというのだろうか。
だがそれなら女神さまたちの方から話が出ていてもいいはずなのだが……。
俺がそう考えを巡らせていると、エリュシオンの掲げる刀身にどす黒いオーラが纏わりついていく。
それはまるでジボガミさまと対峙した時に見た〝汚れ〟のようであった。
正直、嫌な気配だ。
ゆえに俺も長剣に炎を纏わせ、やつの攻撃に備える。
が。
「――エンドオブゲヘナ」
――ずしゃっ!
「がっ!?」
「「「「「――なっ!?」」」」」
その瞬間、俺の身体にやつの刃が深々と食い込んでいた。
ヒヒイロカネ製の鎧ごと、一瞬にして左肩から右脇腹までを両断されかけたのだ。
まるで時を止められたかのように何も見えなかった。
身の毛がよだつほどの凄まじい剣技である。
だが。
――がしっ!
「……むっ?」
俺はやつの腕をがっしりと掴み、気合いで余裕の笑みを見せる。
「……悪いな。あんたがそういう技を使ってくるのは予想済みだ」
「……何? ――ぬっ!?」
ごうっ! と俺たちを炎の檻が包み込む。
そこでエリュシオンも俺の意図に気づいたのだろう。
はじめて顔から余裕を消して言った。
「まさか貴様……っ!?」
「ああ、そのとおりだ。あんたさっき自分で言ってたもんな。俺の〝身体〟に一太刀浴びせてから行くって。あんたが馬鹿正直に身体を狙ってくれて助かったよ。おかげで道連れに出来る」
ごごうっ! と炎の檻がさらに激しさを増し、俺たちを逃がすまいと狭まってくる。
「ぐっ!? 放せ、人間!?」
「そう言われて放すやつはいないだろ? それにあんたはドワーフたちを殺そうとしただけでなく、ティルナにまで手を上げようとした。なら当然の報いってやつだ」
「黙れ、この人間風情が!」
「そうだな。その人間風情にあんたは消し炭にされるんだ。いい加減覚悟を決めろよ――〝剣〟の聖者」
「ぐうっ!?」
口惜しそうに歯噛みするエリュシオンを前に、俺は容赦なく術技を発動させたのだった。
「じゃあな。――プロメテウスエクスキューション!」
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