65 目指せドワーフの里


 まあエルマのことはさておき。


 俺はここに来た目的をレイアさんに告げ、ヒノカグヅチを彼女に渡す。


 すると、レイアさんは顔を顰めながら言った。



「こいつは酷い……。あんた、一体どんなやつらと戦ってきたんだい?」



「どんなやつって……」



「あたしと」



「私と」



「わたし?」



「いや、確かに君らとも戦ったけど……」



 やはり大きかったのはテラさま……ジボガミさまとヴァエル王だろう。


 とくにヴァエル王との戦闘では一撃一撃に最大限の力を注ぎ込んでいたからな。


 あの時点でかなりのダメージを負っていたのかもしれない。



「確かに直すことは出来るし、多少の強化を施すことも出来るさ。でもね、あんたの力はどんどん強くなってるんだろ? ならもうこいつじゃ力不足だ。かと言って、あたしにはもうこれ以上のものは作れやしない。悔しい限りだけどね」



「そんな……。なんとかならないんですか……?」



 俺の問いに、レイアさんは「うーん……」と眉根を寄せる。



「お母さん……」



 フィオちゃんも不安そうに彼女のことを見据える中、レイアさんはぽつりとこぼすように言った。



「……ドワーフ」



「えっ?」



「〝ドワーフ〟たちならなんとかしてくれるかもしれない」



「ドワーフって……」



「確かあれだ。ババアが言うには、手先が器用ですげえ高性能な武具類を作ることが出来るらしいぜ?」



「うむ。そして我らの持つ聖具類の作製も、ドワーフの協力なくしては成し得なかったという。ただドワーフはかなり排他的な種族らしくてな。人前どころか、同じ亜人種の前ですら絶対に姿を現さないと聞いたのだが……」



「ああ、旦那もそう言ってたよ。――〝俺が里に入れたのは奇跡みたいなものだ〟ってね」



「「「「「「「――っ!?」」」」」」」



 里に入った!? と驚く俺たちに、レイアさんは「ああ、そうさ」と懐かしそうに語る。



「まだあたしと出会う前の話なんだけどね、うちの旦那は鍛冶の技術を高めるために武者修行の旅に出たことがあったんだ。その時に誤ってどこぞの谷で足を滑らしちまったらしくて、気づいたらドワーフたちに介抱されていたんだとさ」



「そ、そうだったんですね……。全然知りませんでした……」



 フィオちゃんも初耳だったらしく、かなり驚いているようだ。



「つまりラフラ殿の鍛冶技術はドワーフ由来のものだったと?」



「いや、さすがにそこまではしてくれなかったみたいだけどね。でも里を出るまでの間に〝見る〟ことは出来るだろ? だからじゃないかい? うちの旦那がこの町一番の鍛冶師になれたのはさ」



 レイアさんの話を聞き、マグメルが納得したように頷く。



「なるほど。見様見真似で取り入れただけでも人として最高の鍛冶師になれたのですから、本場の技術は相当のものということですね?」



「ああ、そういうことさ。だからもし万が一にもドワーフの協力を取り付けることが出来たとしたら、あんたの望みも叶うんじゃないかい? その子たちの持つ〝聖具〟ってやつみたいにさ」



「分かりました。じゃあレイアさんの言うとおり、ドワーフの里を探してみます!」



「ああ、そうしてごらんよ。そしてもし彼らの協力が得られて、あんた好みの最高の武器を手にれることが出来たその時は――」



 と、そこで言葉を区切ったレイアさんは、にっと不敵に笑って言った。



「礼代わりに物好きそうなのを一人紹介してくんな。ダメもとで弟子入りしてみるからさ」



「ちょ、ちょっとお母さん!?」



「はっはっはっ、そのくらい構やしないだろ? それで世界を救えるんなら安いもんさ」



 そう鷹揚に笑うレイアさんに、俺は大きく頷いて言ったのだった。



「分かりました。もしそんなドワーフがいたのなら、必ずレイアさんに紹介します」



「ああ、頼んだよ」



 互いに笑い合い、俺たちはラフラ武器店をあとにしたのだった。



      ◇



 そうして宿へと戻ってきた俺たちは、さっそくドワーフの居場所について話し合う。


 やっぱり一番手っ取り早いのは、知っていそうな人に聞こうというものだった。



「となると、やはり可能性が高いのは女神たちであろうな」



「おう、うちのババアも知ってたくらいだからな」



「なるほどね。それでここから一番近い女神となると、オルグレンの先にいるというテラさまかしら?」



「そうですね。あのお方は地の女神でもありますし、地上の物事には詳しいのではないかと」



「うん、わたしもほかの女神さまに会ってみたい」



 女子たちの意見に、俺も頷いて言う。



「よし、分かった。なら明朝テラさまのもとへ向かおう。きっと何かしらの情報を知っているはずだからな」



「「「「「――」」」」」



 揃って頷く女子たちとともに、俺は翌朝テラさまのもとへと向けて急ぎ出立したのだった。

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