64 看板娘との再会


 そんなこんなで俺たちは魔刃剣ヒノカグヅチのバージョンアップのため、ラストールからベルクア、アフラール、オルグレンを経由し、再び武術都市――レオリニアを訪れていた。


 言わずもがな、ここはアルカとはじめて出会い、そして激闘を繰り広げた場所だ。


 あの時はライバル店の代表同士ということもあり、完全に敵対していたわけだが、それが今となっては正妻を主張する俺の第一嫁になっているのだから、世の中分からないものである。



「さてと、じゃあ宿も手配したことだし、俺はこいつを見てもらってくるから、皆も適当に時間を潰していてくれ」



 そう女子たちに告げ、俺はレイアさんたちの待つラフラ武器店へと向けて歩き始めたのだが、



「「「「「……」」」」」



 ――ぞろぞろ。



「……」



 うん、あきらかに皆同じ方向に向かってるね。



「あ、あの、皆……?」



 ちらり、と俺は女子たちを見やって小首を傾げる。



「いや、たまたま私もその武器店に用があってな?」



「ええ、私もです」



「おう、あたしもだ」



「そうね。私もそこに用があるわ」



「うん、わたしも用がある」



「……」



 そっかぁ。


 用があるなら仕方ないよなぁ。


 って、そんなわけないだろ!?



      ◇



 ともあれ、ついてきたいのであれば仕方あるまい。



 ――ちゃりん。



 俺は女子たちを連れたままラフラ武器店の扉をくぐる。


 すると、奥の方からぱたぱたと足音が聞こえてきた。



「――いらっしゃいませ! あ、イグザさん!」



「やあ、久しぶり。元気だったかい? フィオちゃん」



 この店の看板娘――フィオちゃんである。


 相変わらずのエプロン姿がよく似合う可愛らしい子だ。


 確か年齢はまだ12歳くらいだったはずである。



「はい! またイグザさんにお会い出来て嬉しいです!」



「うん、俺も嬉しいよ。レイアさんはいるかな?」



「あ、ちょっと待っていてくださいね! 今呼んできますから!」



 そう言って、フィオちゃんが工房の方へと駆けていく。


 すると、アルカもどこか嬉しそうに言った。



「ふむ、実に壮健そうで何よりだ」



「ああ。見た感じガンフリート商会も大人しくしているみたいだし、本当によかったよ」



 まあもし彼女らに何かしてたら、今すぐ乗り込んで灰にでもしてやるところなんだけどな。


 俺が内心そんなことを考えていると、フィオちゃんがレイアさんを連れて戻ってきた。



「お、本当にイグザじゃないか。元気にしてたかい?」



「ええ、おかげさまで。レイアさんもお元気そうで何よりです」



「はは、あたしはいつだって元気さ。それにしてもまあ随分といいご身分になってるじゃないか。どうしたんだい? その美女たちは。というか、あの時の聖女さまもいるじゃないか」



 驚いたような顔をするレイアさんに、俺は「ええ」と頷いて言う。



「実はあれから色々とありまして、今は聖女である彼女たちを連れて旅をしているんです」



「へえ、こりゃ驚いたよ。じゃあほかの子たちも皆聖女だって言うのかい?」



「はい。武神祭で戦った〝槍〟の聖女アルカディアをはじめ、〝杖〟の聖女マグメル、〝斧〟の聖女オフィール、〝弓〟の聖女ザナ、そして彼女が〝拳〟の聖女ティルナです」



 俺が一人ずつ紹介していくと、釣られて彼女たちも会釈をする。



「こ、こんなにたくさんの聖女さまたちとご一緒に旅をされているなんて、やっぱりイグザさんは凄いです!」



「はは、ありがとう、フィオちゃん」



 久しぶりに撫でてあげたフィオちゃんの頭は、相変わらず小さくて髪の毛がさらさらだった。


 頬を桜色に染め、とても気持ちよさそうにしていたフィオちゃんだったが、途中で何かを思い出したらしく、「あ、そういえば」とこう言ってきた。



「以前皆さんと同じ聖女さまがこちらにいらっしゃいまして、ヒノカミさまの御使いさま? を捜しているみたいでした」



「「「「「「!」」」」」」



 もしかして〝盾〟の聖女がここに来たのではと揃って期待に胸を膨らませる俺たちだったが、



「確かお名前は――〝エルマ〟さまだったはずです」



 って、そっちかー!?


 まさかの幼馴染登場に、思わず俺はずっこけそうになる。


 どうせ肩書きに弱いエルマのことだ。


 ヒノカミさまの御使いが現れた的な話を聞き、パーティーにでも加えようとしていたのではなかろうか。


 うん、絶対そうだと思う。



「そ、それでその聖女さまはどこに行ったのかな?」



「ごめんなさい……。そこまではフィオにも分からないのですが、でもお供の方とご一緒にイグザさんを捜しに向かわれたのではないかと……」



「そっかぁ……」



 でもまああれだ。


 新しいお供も見つけたようだし、なんとか元気にやっているのだろう。


 それにあいつのことだ。


 そのお供ってのも、きっと俺とは違ってめちゃくちゃ爽やかで顔のいい王子さまみたいなやつなんだろうなぁ、とそんなことを思う俺なのであった。

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