62 強化された力
シヌスさまに賜ったスキル――《完全強化》の力は凄まじいものだった。
普通にヒノカミフォームで皆を乗せようとしたところ、速すぎて振り落としてしまいそうになるくらいだったのである。
これならば浄化の力も格段に上がるだろうと考えた俺は、まず入り江からイトルへと飛んだ後、スザクフォームで町中に癒やしの力を届けられるかどうかを試してみた。
結果は言わずもがな、腰が痛いとヒイヒイ言っていたおばあさま方が、ちょっと大胆な水着で元気に泳ぎに行き始めるくらいには回復させてあげられることが出来た。
まあ何故それを着たのかという感じだが、身体の不調がなくなった分、心に余裕が出来たのだろう。
ほかにも寝込んでいた人たちが挙って元気になるなど、町中の人たちがとにかく健康体になった。
そう、広範囲化の実験は大成功だったのである。
となれば、次に行うのは〝浄化の広範囲化〟だ。
というわけで、俺たちはイトルの付近に出没する魔物を遠くから浄化してみることにした。
「ほら、でけえのがきたぞ!」
「イグザに合図を送るわ!」
オフィールとザナが誘き出した巨大猪型の魔物――〝カリュドーン〟に向けて、俺は強化された浄化の炎……いや、光を放つ。
すると。
「ブモオオオオオオオオ――……」
カリュドーンは途中で粒子のように分解され、きらきらと消え去ってしまった。
すげえな、これ。
この力があれば必ずやラストールの人たちを助けることが出来るだろう。
いや、それどころか世界中から魔物たちを一掃出来るかもしれない。
ただ魔物の素材が生活の一部になっている場合も間々あるので、そこら辺の判断は難しいところなのだが……。
というか、この力って無作為に効力を発揮するものなのだろうか。
それだと先ほども言った魔物の素材類も全部浄化してしまうことになるんだけど……。
たとえば俺が以前使っていたリザードシリーズなどの装備類も浄化されてしまうと、いきなり町中で装備がなくなるなんて事態が起こりかねないからな。
力を使う時は慎重にやらないと。
まあそこら辺はこれから実験していくしかないんだろうけど。
ついでにヒノカミフォームでも同じことが出来るかどうかを試してみよう。
もしそれが可能なら、前にマグメルの言っていたとおり、皆を連れたまま町を浄化して回れるからな。
よし、と頭の中で考えをまとめた俺は、万全の状態でラストールへと戻るべく、実験を繰り返したのだった。
◇
そうして俺たちはラストールへと向けて出発した。
結果として、ヒノカミフォームでも遠くからの浄化と治癒が出来たからだ。
まあスザクフォームはヒノカミフォームの力を凝縮した強化版みたいなものだったからな。
ヒノカミフォーム自体を強化出来るのであれば、同じことが出来るのは当然だろう。
ただヒノカミフォームだと通り過ぎるだけでそれが出来るほどの力はないため、少々その場に留まる必要があるのだが、まあそのくらいは仕方あるまい。
とにかく皆で行けるようになったのは大きな収獲だ。
これで出来なかったらスザクフォームに五人が乗っかってくるところだったからな。
まあ全ての能力が強化された今ならそれも可能かもしれないけれど、出来れば勘弁して欲しいところだし。
「ふむ、さすがに速いな」
ともあれ、俺たちは軽快に空の旅を続ける。
もちろんイトルからここまでの町や村には、念のため浄化と治癒の力を使っている。
もしかしたらラストールで処置を受けた人が逗留しているかもしれないからな。
いないに越したことはないのだが、本当に念のためである。
「そうね。この速度ならラストールまで数刻といったところかしら? お昼前には着けそうね」
「お、ならちゃっちゃと終わらせて飯屋で祝杯でも挙げようぜ」
「まったく、あなたは食べることしか考えてないんですか……」
「ったりめえだろ? うめえもんを食ってがんがん動いてがっつり寝る――あたしら人間ってのはそういうもんだろうが」
「……はあ。そうですね……」
がっくりと肩を落とすマグメルに、「でも」とティルナが言った。
「確かにごはんは大事。わたしもちょっとお腹減ってきたし」
「ほら、おちびのババアもこう言ってるぞ?」
「わたしは〝おちびのババア〟じゃない(怒)」
イラッとした感じで反論するティルナの姿に、俺はもうすっかりパーティーに馴染んでるなと安心する。
もしかしたらセレイアさんと離れて寂しがってるんじゃないかと思っていたからだ。
でもなんだかんだ楽しそうにしているようでよかった。
まあ〝おちびのババア〟はさすがにどうかと思うけど。
「ほら、もうすぐ着くから落ちないように皆しっかり掴まってろよー」
「「「「「はーい」」」」」
と、そんな感じで俺はラストールに着くまでの間、女子たちの団らんを微笑ましく見守っていたのだった。
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