55 海の神さまは魔物?
夕食の後、俺たちは件の女性の言った〝聖女の行方を俺が知っている〟ということについて考えてみることにした。
真っ先に話題に上がったのは、やはり幼馴染で〝剣〟の聖女でもあるエルマだったが、そもそも彼女が今どこにいるかなんて見当もつかない上、人々からもほかの聖女の話題自体一切聞かなかったことから、その線は薄いのではという結論が出された。
アイリスたちにしてもそうだ。
彼女たちはずっと内陸であるベルクアの領土内にいるので、海でしか生きられない人魚たちと触れ合う機会などありはしないだろう。
というより、もしそんなことがあったら真っ先に彼女たちの方から伝えてくると思うからな。
それがない以上、アイリスたちでもないはずだ。
ということは、だ。
やはりまだ見ぬ新しい聖女ということになる。
「残るレアスキルは《皇拳》と《宝盾》だったか。アイリスたちのようなケースは希だからな。恐らくはこの二つのどちらかを持つ者だろう」
「確か《皇拳》は徒手空拳に優れたスキルで、《宝盾》は防御特化型のスキルでしたね。何かこれに連なるような記憶はございませんか?」
マグメルにそう問われるも、俺にはまったく覚えがなく、「う~ん……」と眉間にしわを寄せる。
「やはり最初からイグザの旅路や交友関係などを再確認していくしかないか……」
「そうですね……」
と、この一向に話の進まない雰囲気に嫌気が差してきたのか、オフィールががしがしと頭を掻いて言った。
「あーもうやめだやめだ! さっきから話が全然進まねえじゃねえか!?」
「仕方ないでしょう? 有益な情報がほとんどないのだから」
「だからってこんな辛気くせえことをいつまでも続けてられるかってんだ!?」
そう言ってオフィールが部屋から出て行こうとする。
「もう! オフィールさんは堪え性がなさすぎます! 大体、どこへ行くつもりなのですか!?」
「んなもん決まってんだろ!? こういう時は適当に魔物でも狩ってストレスを発散してくんだよ!」
「適当に魔物でもって……」
はあ……、と嘆息するマグメルだったが、そこで俺はふと思い出す。
「そういえば、最近この町の近海に魔物が出るようになったって言ってたよな。おかげで漁獲量が減ってるとかなんとか」
「ああ、確か女将がそんなことを言っていたな。ギルドに依頼を出してはいるが、なかなか討伐出来ずにいると」
「うん。確かにオフィールの言うとおり、このままだとらちが明かなそうだし、皆も疲れてきてるだろうから、何か一度別のことをして気分をリフレッシュさせるのもいいんじゃないかな。そしたら何かの弾みで思い出すかもしれないしさ」
俺がそう提案すると、オフィールがにっと嬉しそうに笑って言った。
「お、さすがはあたしの男だぜ! いいこと言うじゃねえか!」
「はは、まあ海の上で戦うわけだから、なかなか難しいかもしれないけどな」
「別に構やしねえよ! この溜まりに溜まった鬱憤を存分に晴らしてやろうぜ!」
ぐっと拳を握り、やる気満々のオフィールだったのだが、
「おい、ちょっと待て。その前にイグザは私の男だ」
「いえ、私の殿方です」
「あら、私の男を勝手に盗らないでもらえるかしら?」
「いや、そこは今重要じゃねえだろ……」
というように、女子たちは相変わらず平常運転なのであった。
◇
翌日、俺たちはさっそくギルドで件のクエストを受注することにした。
とはいえ、海域までは漁師さんに運んでもらわないといけないので、誰か船に乗せてくれる人を捜していたのだが、
「――ほ、本当に見たんじゃ!? だからあの魔物を殺すのはやめてくれ!?」
「「「「「?」」」」」
ふと港の端で数人の男性が揉めている光景を目の当たりにする。
「うるせえ! そんなこと知るか! 俺たちゃもうクエストを受けてきたんだ! 文句があんならギルドにでも言ってこいや、このジジイ!」
――ごっ!
「あぐっ!?」
冒険者と思しき男性に殴られ、おじいさんが地面へと倒れ込む。
「た、頼む……。あの魔物は違うんじゃ……」
だがおじいさんは諦めようとはせず、男性の足に縋りつく。
当然、男性もさらに苛立ちが募ったのだろう。
「だからうるせえっつってんだろ!」
再び拳を振り上げようとしたので、
――ずどんっ!
「おぶあっ!?」
「「「――っ!?」」」
俺は槍状にしたヒノカグヅチの柄の部分で男性を突き飛ばしたのだが、
「――へぶっ!?」
――ざぱーんっ!
「やべ、思ったよりも飛んじまった!?」
力加減を間違えたのか、男性は結構遠くの方で頭から海へと突っ込んでいた。
「な、なんだてめえらは!?」
「お、おい、それよりあいつ助けるのが先だろ!?」
「くっ、覚えてろよ!」
そう捨て台詞を残し、残りの冒険者たちもその場から去っていく。
まああれだ。
とりあえず救助作業を頑張ってくれ。
「だ、大丈夫ですか? 今治癒術をかけますね」
「あ、ああ、すまんのう……」
マグメルが治癒術をかける中、俺はおじいさんに一体何があったのかを尋ねる。
すると、彼は縋るような目で俺たちに向けてこう言った。
「わ、わしは見たんじゃ……。耳元にヒレのある少女が海竜の背に乗っているのを……。あの魔物はただの魔物ではない……。あの魔物はきっと――〝海の神さま〟なのじゃ……っ!」
「「「「「――っ!?」」」」」
当然、俺たちは揃って目を丸くしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます