《聖女パーティー》エルマ視点8:ぽ、ポルコおおおおおおおおっ!?


 教会の鐘の音が高らかと鳴り響き、人々の祝福する声がそこかしこから投げかけられる中、あたしは純白のドレスに身を包んでいた。


 そう、今日は婚礼の日。


 ついにあたしは愛する人と結ばれるのである。


 実に、実に長い旅路であった。


 かの有名なドラゴンスレイヤーにヒノカミさまの御使い、その他諸々の猛者たちを従えた強力なパーティーで、あたしは世界中を巡り、聖女として人々を救い続けた。


 当然、人々はあたしを称賛し、様々な貢ぎ物を差し出してきた。


 と同時に、是非可憐なあたしを将来の伴侶にしたいと、男たちはあたしを巡って争いを繰り広げた。


 もちろんあたしは言った。



 ――あたしのために争わないで! と。



 だが男たちにとってあたしは女神のような存在――そう簡単に諦められるはずがない。


 ゆえに、あたしは男たちにある試練を言い渡した。


 もし聖剣と同じ伝説の金属――ヒヒイロカネで出来た指輪を用意出来る者がいるのならば、あたしはその人のものになると。


 ヒヒイロカネが現在では生成出来ないことを知っての難題だった。


 それほど真剣にあたしを求めて欲しかったのである。


 男たちは駆けた。


 駆けて、


 駆けて、



 そうして――やがて一人の男が戻ってきた。



 彼の手に握られていたのは緋色の指輪。


 間違いない、ヒヒイロカネである。


 そこまであたしのことを思ってくれる人がいたことに、あたしは甚く感動した。


 だからあたしはこの人と結婚することにしたのである。



「エルマ……」



「ポルコ……」



 この――ポルコと。



      ◇



「って、うわああああああああああああああああああああああっっ!?」



 がらがらごしゃーん、とベッドから転げ落ち、あたしは血の気が引く思いで呼吸を整える。


 ど、どえらい夢を見てしまった……。


 なんでよりにもよってあたしがポルコなんかと……。


 ま、まさか一緒に旅をしているうちに恋を……っ!?


 って、いやいやいやいや!?


 そんなこと死んでもあるわけないじゃない!?


 あんな汗臭い豚と結婚するくらいなら、馬鹿イグザの嫁になった方が100億万倍マシだっての!?



「はあ、はあ……」



 でもなんでいきなりあんな夢を見たのだろうか。


 今は別に結婚したいなんて願望もないし、そんな相手も近くにいないはずなのだが……。


 となると、やっぱりポルコの印象が強すぎるのが原因だろう。


 あの豚が日々あたしをいやらしい目で見続けているせいで、こっちも無意識のうちに反応してしまっているのだ。



「……はあ」



 あーやだやだ。


 次はいい夢を見たいものである。


 そう思い、あたしは再び布団を被り直す。


 が。



 ――どばんっ!



「大丈夫ですか聖女さまああああああああああああああっっ!?」



「ぎゃああああああああああああああああああああああっっ!?」



 ノックしなさいよこの豚ああああああああああああああああっっ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る