22 いざジボガミさまのもとへ


 その夜、俺はベッドの中で一人考えを巡らせていた。


 もちろんフレイルさまの言っていたことが気になっていたからだ。


 ジボガミさまこそが魔物たちを生み出す母なのだと、彼女は言った。


 もっとも、彼女自身も生き残った兵たちから聞いた話ゆえ、本当のところは分からない。


 だがもしそれが真実だったとしたら、俺たちは神を相手に戦わなければならなくなってしまうということである。


 俺は死なないし、同じ神であるヒノカミさまの力もあるからなんとかなるとは思う。


 でもいくら聖女とはいえ、アルカとマグメルはただの人間だ。


 もし万が一のことがあったら……。



 ――むぎゅっ。



「……って、あの、俺今結構真剣なことを考えてるんですけど……」



 そう半眼を向けた先にいたのは、件のアルカとマグメルだった。


 そう、アルカは言わずもがな、マグメルまでもがベッドに入ってきていたのだ。



「ふふ、それはもしかして私との子のことか?」



「いえいえ、私との甘い未来のことですよね?」



「え、いや、あの……」



 しかも右にアルカ、左にマグメルと両手に花状態な中、二人が互いを意識し合っているのか、先ほどからやたらとぐいぐい来るのである。


 まあ俺が一人難しいことを考えていたのも、二人の誘惑になんとか抗うためだったりもするので、なんとも言えないのだが。



「というか、この部屋は元々私たちが手配したものなのだぞ? にもかかわらず、何故お前がここにいる? あきらかに定員オーバーだろうに」



「はい。なのでそこは聖女特権でなんとかしました」



 なんとかしちゃったんだ……。


 最近のマグメルさんは手段を選ばなくなってきたなぁ……。



「というわけで、この部屋は現在三人用になっております。なんの問題もございません」



「ふむ、なんと欲望に忠実な聖女であろうか。だがまあその気持ちは分からなくはない。私も婿(仮)とこうしていると心が落ち着くからな」



「ええ、そうでしょうとも」



 ――ぎゅう~っ。



 そう言って、二人が一層俺に身体を寄せてくる。


 正直、美女二人にこんなことをされて、お年頃の男子が平常心を保てるはずなどない。


 だがしかし!


 男には耐えねばならん時があるのだ!


 だって彼女たちが今俺に求めているのは安心感なのだから!(言い訳)


 というわけで、俺はもう天井の染みでも数えていようと思います。


 えっと、いーち……って、暗くてなんも見えねえじゃねえか!?


 ひえぇっ!?



      ◇



 翌朝。


 寝惚けてマグメルに抱きつき、「胸か!? 胸のでかさのか!?」と散々アルカに詰め寄られたのはさておき。


 俺たちは万全の準備を整え、ジボガミさまと思しき存在が目撃された場所へと向け、スザクフォームで空を翔ていた。


 もちろん両手に聖女さまたちを抱えてだ。


 個人的には相手が神である以上、まずは俺だけで偵察に行きたかったのだが、「却下だ」「却下です」と揃って却下されてしまったのである。


 そんなに俺のことが心配なのだろうかと思いきや、彼女たちはやはり揃ってこう言ってきた。



「――愛するお前と片時も離れたくないからだ」



「――お慕いするあなたさまと片時も離れたくないからです」



 うん、まあ……ね?


 そう言われてしまったら、連れて行くしかないじゃないか。


 だって俺も言っちゃったし。



「――分かった。なら君たちは必ず俺が守ってみせる!」



 ええ、昂っちゃったんです。


 なんかこう男らしさを見せるべきだと思っちゃったんでしょうなぁ……。


 でもそう言った以上はきちんと責務を果たすつもりだ。


 まだ付き合いがそんなに長いわけではないけれど、二人は俺の大切な仲間だし、何より〝正妻〟と〝妾〟だからな。


 命に代えても守ってみせるさ。


 まあ両方(仮)なんだけど。



「確かあの山の峰よりも向こう側だったな」



「うむ。城主の話だと、あの向こう側に山が大きく抉れている場所があるという。いわゆるクレーターだな」



「ええ。そこには中央にぽっかりと空いた大穴のほか、周囲に大小多数の穴が空いておりまして、そこから魔物が出てきているという話です」



「なるほど。つまりやつらの巣ってわけか」



「はい。そして中央の大穴の最奥で、ジークルドさまは遭遇したといいます。魔物を生み出し続ける巨大な何かと」



「ジボガミさま、か……」



 果たして鬼が出るか蛇が出るか……。


 まあ伝説が本当なら神が出るんだけどな。



「よし、なら一気に最深部まで突入しよう。たとえ巣を破壊したところで、元凶をなんとかしないことにはどうにもならんからな」



「うむ、同感だ」



「承知しました」



 二人が頷いたことを確認した俺は、彼女たちを抱える手に一層力を込め、クレーターの中央へと向かっていく。



 が。



「――やべっ!?」



「「――っ!?」」



 ――どがあああああああああああああああああああああああああんっっ!!



 その瞬間、大穴の底から真上に向かって凄まじいエネルギーの塊らしきものが放出され、俺たちは間一髪のところでそれを回避する。


 よもやこれほどまでに大規模な迎撃態勢をとられているとは思いもしなかった。



「あっぶねぇ……」



 ほっと一息吐く俺だが、アルカは不敵に笑って言った。



「ふふ、なるほど。どうやらジボガミさまとやらは我が婿(仮)を相当恐れているようだな」



「え、そうなのか?」



「ああ。まあ当然だろう。何せ、同じ神の力を持つ地上最強の男が目と鼻の先までやってきたのだ。あのくらいの歓迎はしてくるだろうよ」



「そうですね。恐らくはイグザさまの中に眠るヒノカミさまの力に反応したのでしょう。――〝あれは脅威である〟と」



「なるほど。なら勝ち目があるってことだな。だったらとっととその面を拝みに行ってやろうぜ」



「ああ、同感だ」



「右に同じです」



 揃って頷いた俺たちは、今一度大穴へと向け、翼を翻していったのだった。

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