《聖女パーティー》エルマ視点4:冗談でしょ……。


 消息を絶ったドラゴンスレイヤーの代わりに、マグリドの火山に住むという伝説の守り神――ヒノカミさまに会いに行くことにしたあたしは、暑さでダウンした豚男……もとい荷物持ちの男性を宿に残し、一人神殿へと向かった。


 この神殿は元々 《火耐性》のサブスキルを得るためのものだったらしいが、ヒノカミさまの復活後は、彼を祀るためのものに改装中だという。


 神殿の入り口には巫女装束の女性――カヤがおり、彼女が案内役を務めてくれたのだが、



「……嘘でしょ」



 思わず素の口調が飛び出る。


 だがそうなるのも当然だろう。


 何せ、カヤに案内された場所は、真下に煮え滾るマグマの見える巨大な縦穴だったのだから。



「あ、あの、本当にこの中にヒノカミさまがいらっしゃるのですか?」



「はい、そう伺っております」



「へえー……」



 って、いやいやいやいや!?


 真顔で何言ってんのよ、この女!?


 え、あたしにここに飛び込めっての!?


 聖女殺す気!?


 そりゃ火の神さまなんだから、火に関係する場所にいるのは当然でしょうけど、マグマの中なんて聞いてないわよ!?



「……っ」



 とりあえず修練用の祭壇から身を乗り出してみる。


 その瞬間、ぶわっと尋常ではない熱気があたしの顔を炙っていった。


 いや、無理無理無理無理!?


 こんなの聖女がどうとかいうレベルじゃないわよ!?


 もしこの中に飛び込めるようなやつがいるとしたら、そいつはよっぽどの馬鹿か、もしくはとにかく凄すぎるやつの二択しかないわ!?


 しかし聖女としてヒノカミさまに会いに来たと言ってしまった以上、何かしらのことをしなければならないだろう。


 こうなったら適当に誰かと会話している的な体でごまかすしかないのではなかろうか。


 幸いあたしは聖女なわけだし、一般人のカヤには分からないはずだ。


 よし、と頷き、あたしの華麗な演技を披露してやろうと思ったのだが、



「ところで、聖女さまのお耳には入れておこうと思うのですが……」



「?」



 ふいにカヤがそんなことを言い出し、あたしは小首を傾げる。


 すると、カヤは周囲に人気のないことを確認した後、小声でこう告げてきた。



「実はヒノカミさまにはその御使いとなられた方がいらっしゃいまして、確かにここにヒノカミさまがいらっしゃるにはいらっしゃるのですが、皆さまの仰るヒノカミさまは、その御使いの方なのでございます」



「……はい?」



 思わず素っ頓狂な声が漏れる。



「えっと、つまり雄々しく空を翔たり、アダマンティアを退けたのはその御使いの方だということでしょうか?」



「左様にございます」



「へえー……」



 じゃああたしはなんでわざわざこんなクソ暑い場所までやってきたのよ。


 こんなことならあの豚と一緒に宿で寛いでいればよかったじゃない。



「ち、ちなみにその御使いさまはいずこに?」



「はい、あのお方はさらなる研鑽を積むために、ここより東にあるラスコラルタ大陸の武術都市――レオリニアへとお向かいになりました」



「ラスコラルタ大陸のレオリニア……」



 もうそれどこなのよぉ……。



「とても素敵なお方でした……(ぽっ)」



 そしてあんたの好みなんて聞いてないわよ!?

 

 無駄に頬まで染めちゃって小憎らしい!?


 がっくりと肩を落としたくなる気持ちを懸命に堪え、最後にあたしは尋ねた。



「ところで、ドラゴンスレイヤーさまをご存じでしょうか……?」



「いえ、どちらさまでしょうか?」



「……」



 でしょうね!

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