パワハラ聖女の幼馴染と絶縁したら、何もかもが上手くいくようになって最強の冒険者になった ~ついでに優しくて可愛い嫁がたくさん出来た~
くさもち
1 パワハラ聖女と絶縁してやった
「あんたって本当にグズでノロマね! どれだけあたしの足を引っ張れば気が済むの!?」
宿に着いて早々、そう俺を叱責するのは、幼馴染で彼女のエルマだった。
エルマは聖剣に選ばれ、聖女としての才覚を見出された美少女で、俺は彼女の荷物番として同じパーティーを組んでいる。
いや、〝組ませてもらっている〟というのが正しいのだろう。
この世界では生まれた瞬間、女神さまからスキルを授かる。
スキルとは人生を左右する才能のようなもので、いずれ聖女となるエルマのスキルは《剣聖》。
彼女は生まれた時から才能に溢れていた。
対する俺のスキルは《身代わり》。
誰かの代わりにダメージを負うだけのスキルだった。
正直、なんの役にも立たないスキルだ。
でも村の希望たるエルマを守るには十分だった。
万が一彼女に何かがあったとしても、すぐさま俺が身代わりになれるからだ。
だから村の人たちは常に俺を彼女の側に置いた。
両親も村の希望のためになれるのならと、息子が傷つくのもいとわず喜んだ。
そうして、幼い頃から俺たちはともに修練に励んだ。
と言っても、修練中にエルマが受けた傷を、ただ俺が代わりに受け続けるだけなのだが。
でもおかげでエルマの成長は著しかった。
当然だ。
どんなに激しい修行をしても、エルマは一切傷つかず、ただ技量が上がっていくだけなのだから。
そしてエルマも、そうなることが当然だと思っていたのだろう。
だからこんなにもわがままな性格になったんだと思う。
「仕方ないだろ。俺は君のように強くないんだ。さっきだって、荷物を守るので精一杯だったんだよ」
「そうよね! あんたって昔から本当に使えなかったもの! そのくせ彼氏面だけはいっちょまえにしてさ! あームカつく!」
「別に俺は彼氏面なんて……」
大方、聖女を守る騎士のような美談を作りたかったのだろう。
建前上、俺はエルマの恋人ということになっている。
しかも俺がエルマに惚れて、彼女を守るために村を飛び出してきたのだとか。
エルマは世間体をやたらと気にする性格だから、そういうドラマチックな展開で人気を集めたがっているのだろう。
事実、エルマの人気は大したものだった。
さっきの美談を含め、外見の美しさもさることながら、剣の腕も一流で、誰に対しても分け隔てなく接する優しい性格とくれば、そりゃもう大人気である。
だから本性を見せるのは、こうして二人きりになれる時だけだった。
聖女というのも大概ストレスが溜まるものなのだろう。
わがままなのは昔からだが、ここ最近はとくに酷く当たるようになっていた。
「大体、そういうイジイジしたところもムカつくのよ! 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ! 男のくせに!」
「……」
言いたいことは、正直、山ほどある。
けれど、エルマは聖女だ。
聖女は人々の希望。
彼女がいなければ、この世界は魔物に蹂躙されてしまう。
だから俺は何も言わない。
だって俺が我慢すれば、それだけで皆が喜んでくれるのだから。
「てか、いつまであたしの部屋にいるわけ!? この宿、部屋が一つしか空いてないんだから、あんたはさっさとどっかで野宿でもしてきなさいよ! この役立たず!」
そう――今までは思っていた。
「――分かった。なら君とはここまでだ。あとは好きにやってくれ」
「……はっ? えっ?」
一瞬何を言われているのか分からなかったのだろう。
エルマが呆けたように口を開ける。
だから俺はもう一度分かりやすいように言ってやった。
「君とのパーティーはここで終わりだって言ったんだ。俺は役立たずなんだろ? だったら別の役に立つ彼氏でも見つけてくれ。君のお守りはもう限界だ」
「は、はあ!? なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないのよ!? むしろお守りをしてあげたのはあたしの方でしょ!? あたしがいなくちゃ何も出来ない出来損ないのくせに!」
「そうだな。だから今までありがとう。荷物は全部君にあげるから持っていってくれ。まあほとんど君の私物なんだけど」
そう言って、俺はエルマに背を向け始める。
すると、エルマは信じられないといった表情で、ことさら声を荒らげてきた。
「え、あんた本気で言ってるわけ!? あたしは聖女なのよ!? そのあたしにこんなことをして、ただで済むとでも思ってるの!? ねえ!?」
「じゃあな。いいやつに出会えることを祈ってるよ」
最後に俺がそう告げて扉を閉めると、直後に「ふざ、けんなぁ!」と枕でも投げつけてきたであろう衝撃音が響く。
そうして宿をあとにした俺は、夕焼け映える街道を一人歩きながら、ぐいっと背筋を伸ばす。
これでわがままな彼女の面倒を見なくて済むと思うと清々するな。
問題はこれからどうするかだが……。
「さてと」
そこで俺は自身のステータスを表示させる。
ステータスというのは、スキルと同じく生まれながらに与えられる能力値の視覚化で、そこには攻撃力や防御力など、基礎的な能力値のほか、スキルの詳細な情報が書かれているのだが、
『スキル――《不死身》:死を含め、受けた傷を瞬時に回復する』
というように、俺のスキルは《身代わり》から《不死身》へと変化していたのだった。
恐らくは今まで何度もエルマの傷を代わりに受け続けたことで、スキルが進化したのだろう。
だから俺はエルマに別れを切り出したのだ。
これからの俺はただの出来損ないではない。
――俺の名はイグザ。
なんでも出来る〝不死身の男〟なのだから。
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また五巻の方が今月22日に発売予定ですのでどうぞよろしくお願いいたします!m(_ _)m
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