第37話 - ヨルムンガンド
ティルの話しを聞いてトレント村の西のダンジョンへ来た
ティルに許可をもらって今日はクルハとアヌビスを連れてきている
クルハは初めての洞窟探検に興奮しているようだ
「昔の父上は冒険によく行ってたんですか?」
「いや、俺は昔アラクネの子供たちにも勝てなかったからな、ダンジョンへ潜るのは初めてだぞ」
クルハはものすごく意外そうだった
「へぇぇ~今は魔王と呼ばれているのにそんな事があったんですね」
アヌビスがクルハを見て話す
「今日はボクが先輩だからな、玄人もクルハもボクの言う事聞くように」
「そうだな、アヌビスは昔からよくダンジョンへ行ってた、よろしく頼むよ」
クルハは目をキラキラさせながらアヌビスに返事をした
「はーい!よろしくお願いします先生!」
ダンジョンでは酸素が不足しやすいので火の魔術をなるだけ使わない事
広範囲魔術は崩落の危険があるので使わない事
はぐれると危険なので密集する事
この3つが大原則だとアヌビスから教わった
最初のうちはクルハが実践訓練と手加減を覚えるためにメインで戦う事になった
人間でいえば実践はかなり早いが竜人のクルハはもうアヌビスと同等の魔力を持っており、竜の姿へ変身すればそこらの魔物よりずっと堅い
クルハは竜化しても四つ足で立つような竜ではなく、二本足で立つ人に近い形の竜になることができ、サイズも人とそう変わらない
爪と牙があるが人用の装備ももちろん使える、今回は最初から竜化して挑む
正直俺よりチートだろう
ダンジョンは洞窟タイプで地下へ潜っていく形
1F - 10Fはおなじみスライムとゴブリンだった
クルハが適当に剣を振り回したり尻尾を振り回してると勝手に敵が死ぬ
俺見てる必要なくね?
11F - 15Fからはオークやトロルが出てくる
一応切り結んだり戦闘っぽいことをしているがクルハが固すぎてチャンバラだった
16F - 20Fは人狼や低級ヴァンパイアなどの魔物になった
敵の魔術による被弾が目立つが竜の加護すごい、傷ひとつ負わない
相手してる魔物の方が嫌がっていた、クルハの経験不足が浮き彫りになり、空振りが目立つ
途中で転んだりするがなんとか撃破してボスの間へ
クルハはさすがに疲れたようで休憩ついでにアヌビスへタッチ
興奮状態のミノタウロスだったがいくつか回り込むなどの戦闘テクを紹介するなどして余裕ぶりを見せつけていた
21Fからは様子ががらりと変わり迷宮からフィールドタイプになった
炎天下の砂漠でクルハは平気そうだが俺やアヌビスの方が露骨に消耗する
クルハが質問してくる
「砂漠ってほんと砂ばかりなんだね、魔物もぜんぜんいない」
「砂ばかりなのは確かにそうだな、魔物がいないのはわからないけど」
しばらく休憩していると、雰囲気が変わった
地面が揺れ、砂漠の砂が渦巻き始める
ゴゴゴゴゴゴ
渦巻くように回る砂から巨大なワームが姿を現した
アヌビスが鼻をヒクヒクさせ、クルハに話しかける
「クルハ、ここなら火の魔術は好きなように使っていいよ」
空間が広く、酸素が十分にあるからだ
クルハは喜んで翼を広げ、空を舞う
「父上ー!先生ー!障壁を出しておいてねー!」
そういうとクルハは大きく息を吸い込み、口から巨大ワームを覆うほどの火炎を吐き出した
ゴォォォォォォォォォォォォォォォ
巨大な火炎に包まれたワームは身をよじり叫びだす
「ギィィィィィィィ!!!」
ワームはしばらく苦しんだ後、たまらず砂へ潜って退避する
クルハがお構いなしに火を吐くので俺とアヌビスは灼熱地獄の拷問に耐え続けた
ワームは砂の中を移動しながらクルハへ飛び掛かってはまた潜る
俺とアヌビスはクルハがどう解決するか興味深く観察した
まずは飛び出してくる瞬間に火炎を吐く方法を試したが、火力が足りず、ダメージは与えているが今一つ効果がない
次に剣で斬りつけるも大きすぎて決定打にはならず、やけになって爪を立ててみたが剣よりも効果が低い
しばらく観察しつつ考えていたが、ついには魔術で火の玉を作り出し敵が出てくるのを待っている、ワームが飛び掛かってくると火の玉を食わせ、クルハは距離をとると火の玉を爆発させた
ワームは砂の上をバタバタとのたうち回ると、息絶えた
俺は拍手をしてクルハを迎えた
「おめでとう、初めての難敵だったな」
「疲れたー、大きいといろんな攻撃の効果が低くなるんだね」
俺はうんうんうなずいているとアヌビスが口を挟む
「自分より大きな相手は魔術を効率よく使うのが最も効果が高いぞ」
「そっかぁ、魔術ももっと勉強しなきゃなー」
お父さんうれしい、息子の成長がこんなに近くで見られるんなんて
25Fまでは似たような感じでクルハがいい経験を積みながら進んできたが26Fからはまた雰囲気が変わった
かなり大きめの部屋になった印象だ、闘技場のような
出てくる魔物はほぼ全てボスクラス、竜の鱗にも効果がある魔術を使う魔物が現れ、3人で攻略をつづけた
29Fの最深部にたどり着き、ボスを倒した部屋で休憩を始める
クルハの様子を見るとところどころ鱗が傷ついている
「クルハ、ポーションを使っておきな」
「ありがとう父上、結構時間かかるね」
そういうとクルハは豪快にポーションを頭から浴びた
「そうだなぁ、アヌビス、城の近くのダンジョンもこんなものか?」
「んー?いや、20Fくらいまでかな城の近くは、こんなに深くない」
クルハが飛び上がり、嬉しそうにアヌビスへ質問した
「ほんと!?じゃあここは初めての冒険なの?」
「このダンジョン自体が初めてなんだけど、この深さまで来たのも初めてだね」
「やったぁ!帰ったら母上に自慢するんだ!」
竜とは言えまだ人間の子供のような一面があるな、かわいい。人間ならもうすぐ反抗期、竜にもあるんだろうか
休憩しているとクルハがあくびをし始めた
29Fまでノンストップだったからな、さすがに疲れが出たか
外の時間はわからないが、仮眠をとってから30Fに挑戦することにした
…
数時間経って目が覚めた
クルハが目玉焼きを作っている
「おはよう、父上、先生。もうすぐ目玉焼きが焼けるよ」
ダンジョン楽しい、子供にこんなことしてもらえるなんて、簡単な料理はまめいやティルから少し教わっているそうだ
料理もできない父親を遥かに超えたチート息子だ
さすがに俺でも目玉焼きは作れるかな、親バカが過ぎたか
軽く食事をし、30Fへ挑むことにした
29Fの大きな扉を開けると小さな洞窟のような所へ出た
洞窟の外を見ると巨大な山脈が並ぶ景色が目に入る、さらに巨大な海があり地平線が見えるほど大きな空間に出たようだ
ズズズズズズ...
何かが這いずり回る音がする、山が揺れるほど大きな生物がいる
すると左手にある山脈の向こうから巨大な蛇が顔を覗かせる
蛇はこちらを見つけると、どこからともなく大きな音がする
ゴゴゴゴゴ
アヌビスが叫んだ
「玄人!右から来る!」
目をやると尻尾が上空から降りかかってくる、山ふたつはあるであろう距離の胴を持つ蛇か
俺は障壁を張って蛇の尾撃を防いだ
遠近法で小さく見えていたようで、尾の大きさから察するにとぐろを巻けばおそらく山ほどの体長だろう
想像以上にデカかった
こいつがヨルムンガンドで間違いなさそうだ
アヌビスへクルハを預け、俺はヨルムンガンドと相対した
話しをしに来たがダンジョン攻略者とみなされているのか一方的に攻撃される
とりあえず応戦して話しをするタイミングを伺う事にした
尾は重力魔術で動きを封じ、ヨルムンガンドの顔の前まで転移した
空気中に大きな雪の結晶を生成すると俺はその上を歩いて近づく
ヨルムンガンドは頭を空高く持ち上げると海から大きな津波を呼び起こし、山脈を覆うほどの海水をぶつけてきた
山を越える量の水の質量はすさまじく、障壁で守っているにも関わらず地面へ叩きつけられてしまった
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
さらに巨大な海水が山を飲み込み一瞬で海になる
遠慮なんかしてる余裕はなさそうだ、俺は転移魔術で海面まであがり、山を乾かしてやろうと巨大な炎の塊を作り出す
海面へぶつけるとすさまじい爆発と共に海水が吹き飛ぶ
シュッ ドォォォーーーーーーン
全ての海水を消す事はできなかったが爆発の影響でヨルムンガンドがダメージを受けているのがわかる
ヨルムンガンドは顔を水面まで上げると口を開け、高水圧の水流を吐き出してくる
俺は障壁を3枚張って耐える体制をとった
(山を沈めるほどの魔力、念のため避けておいた方がいいかな)
念のため回避運動も行うと高水圧水流は障壁がなかったかのように全て貫いた
(直撃してたら危なかったな)
さらにヨルムンガンドは高水圧水流で攻撃してくる
大きく開けた口を見て、閃いた
(こういう巨大生物の弱点と言えば体内だろ)
俺は口の中まで転移し、ありったけの魔力で放電した
30秒ほど放電しただろうか、ヨルムンガンドは気絶し、海水は徐々に海へ引いていった
…
横たわるヨルムンガンドの側で昼食をとっているとヨルムンガンドは目を覚ました
「ワシは負けたのか...なぜ生かしたのだ」
ゆっくりと体を起こし、昼食をとる俺たちに向かって話し出した
ダンジョンの攻略が目的でなかったことと、交易の話を伝えるとヨルムンガンドは不思議そうな顔をしていた
「皮が欲しいなら殺して奪えばよいではないか」
「それでは一回きりになってしまうだろう?今後もいい取引を続けたいからさ」
「ふーむ、それで皮はいらぬが抜け殻をよこせと」
俺は頷きながら返事をした
「そうだね、抜け殻とはいえ一応革だしな、取引してくれるならこちらも何か渡そう。通貨には興味なさそうだしな、酒なんかどうだ?」
ヨルムンガンドは返事をした
「ワシは負けたのだ。命令すればよい」
「主従の契約の方がいいって事か?」
「それが望みであれば」
俺は少し考えた
世界を勝者と敗者で分けるタイプかな?話しが噛み合わん
どうしようかな、取引できればよかっただけなんだけど...
うーん、とりあえず主従の契約をして、抜け殻のお礼にお酒渡せばいいかな
勝手に社員みたいな感じで扱ってしまうか
「よし、主としてお前を従えよう」
「承知した、今よりワシはそなたに従う蛇となる」
「俺は玄人だ、お前は今からヨルンと名乗れ」
ヨルンは頭を垂れると体を小さくし、俺の左腕に巻き付くと腕輪のようになってしまった
俺は腕輪になったヨルンに話しかける
「便利だな、抜け殻は忘れないでくれよ?」
「後日、使いの者に運ばせよう」
「わかった、酒は好きか?帰ったら飲ませてやるぞ」
取引にならなかったのは残念だが集落を持つような性格ではなさそうだし、これでよかったのかもしれない
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