第35話 - 誘拐

勇者を退けて1週間ほど経った


リリアナに勇者の行方を聞いてみると、ルクフォントデューへ戻ったようだ

ローニャン経由で購入した情報だ


どうやら教皇に魔王の報告をしたらしく、竜を凌ぐ脅威として認定された

竜より強力なブレスを操り、多数の高位魔術まで使いこなす存在

英雄アイオンが重傷を負わされ、一時退却を余儀なくされたため

さらなるレベルアップを図り魔王を討伐することが目標になったそうだ


それに加えて魔王領に対する本格的な調査も始まるとか


俺は軍略会議室でリリアナに質問した


「リリアナ、敵の調査活動はどういうものなんだ?」

「断定はできませんが、予想される内容としては、小規模の軍隊による威力偵察でしょうか」


リリアナは続ける


「魔王領は人間が少人数でうろつくには危険すぎるため、ある程度の軍が組織されると思われます」


なるほど、来るとしたら東か南からだろうか?人間の領土もある


「どう対応するのがいいと思う?」

「そうですね、国境を定めて砦を築き、兵を配置するのが一般的でしょう」


ふむ、出方がわからん以上あれこれできるわけでもないか


「わかった、採用する、進めてくれ」


リリアナは頷くと準備を始めた



一週間ほどすると不思議な事件が起こるようになった

獣人の子供たちが行方不明になっているというのだ


住民に話しを聞きにいく、被害に会った者たちの代表と会話をした


「子供たちはいつ、いなくなったんだ?」

「おそらく、街の中で遊んでいるときだと思います、皆遊びに行ったまま帰らなくなります」


行方不明になった親たちは不安そうだ

その日アラクネの子供たちや戦士ギルドに依頼して探してもらったがどこにもいなかった


翌日、その翌日になっても見つからない


そしてまた被害者が出た


決まって複数人で遊びに行くとまるごと消えるらしい

俺は戦士ギルドのシデンと相談した


「シデン、何か手がかりは見つからないか?」

「残念ながら今のところ...」


シデンは首を振りながら答える

このままでは被害が増える一方だ、街をあげて捜索と原因を追究しなければ

するとシデンから提案があった


「街の子供たちを戦士ギルドで1週間ほど監視しましょう、総出でかかれば1週間くらいなら少し業務に遅延が発生する程度で済むかもしれません」

「うーむ、わかった、やってみよう」



一週間が経つ頃、原因がわかったと報告が入った


城の軍略会議室でシデンから報告を聞く


「原因は誘拐です、シルヴァン帝国の領土へ向かう商団に偽装した馬車へ子供たちが連れ込まれ、箱詰めにされて送られているようです」


俺は怒りをあらわにした


「シルヴァン帝国...目的は奴隷か」


リリアナが話し出す


「シルヴァン帝国は第二次侵略戦争の負債を未だに引きずっており、労働力の確保がうまく行っておりません、そのための打開策として奴隷を獲得が目的と予想されます」

「だがなぜ魔王城の獣人なんだ?」

「おそらく教育の水準が高いからだと思われます、他の獣人の街にも被害があるそうですがそうでなければわざわざ魔王城の獣人に手を出さないでしょう」


直近、打倒魔王が叫ばれているので犯罪者相手なら何してもいい心理だろうか

だが子供たちに手を出したのは軽率だったな、キツいお灸を据えてやる


「子供たちがどこへ輸送されたかわかるか?」


シデンが報告した


「まずは魔王領の東にある街ですね、そこを経由した後本国へ連れていかれている可能性も十分にあります」

「わかった、リリアナ、人間の各国に声明を発表してくれ」

「どのような?」

「シルヴァン帝国に宣戦布告する」

「わかりました」



それから一週間ほど経過し、軍備を整えて大陸の東にあるシルヴァン帝国の領土へ進軍した

街には奴隷にされた子供たちがいる可能性があるのでリッチのアンデッド部隊を中心に街を蹂躙、捜索し、獣人の奴隷を全て解放、城へ受け入れた


奴隷たちはあまり待遇が良くなかったらしく、皆喜んで住民となった

奴隷の中には何人か街の子供たちは含まれていたが、数は合わない

本国にも移送されているのだろう


軍略会議室でリリアナと今後について話し合う


「子供たちのほとんどは本国へ連れていかれているのか」

「そのようですね、このまま諦めるという事は無いと思いますが、どうされますか?」

「海を渡ることはできるのか?」


リリアナは少し考え、返事をする


「あまり遠くはないので可能でしょう」

「わかった、進軍しよう、シルヴァン帝国の戦力はどれくらいだ?」

「兵士は8,000人という調査結果があります、今の魔王軍は城に1万の兵を抱え、その他周辺の魔物街から募兵すればさらに1万は集まると思います」


この10年で魔物の街が発展したことでかなりの数が揃うようになった

城に5,000も残せば他の国もそうそう攻められるまい


「城に5,000残して1万の軍を編成してくれ、シルヴァン帝国を落とす」

「承りました、ひと月ほど時間をください」



一月後、シルヴァン帝国西の平原に布陣した


軍を編成している間シルヴァン帝国へ奴隷を解放するよう要求したが、当然断られた

根拠のない噂をでっちあげて侵略されたという言い分だ


国の上層部は本当に知らないのだろうか?誰かが勝手にやった事なんだろうか?

とはいえ攫われたのは事実で、攻め込んだ街からは何人か親の元へ戻っている


どのみち魔王と交渉する気もなければ調査もする気がないのだろう

今後も何かしらしてくることは予想される、何より子供たちに手を出したのは許さん


ここで滅ぼすことにする


シルヴァン帝国は総戦力の8,000、セドリオンから3,000、ルクフォントデューから3,000の兵が集まり、連合軍は1万4千人にも及ぶ規模の軍になっていた


英雄は8人、勇者は参加していない


シルヴァン帝国の西平原で野戦が開始された


----- 戦況 -----

連合軍 14,000

魔王軍 10,000


野戦だったのはありがたい、城下町には奴隷たちもいるだろう

兵士だけが外に出てきてくれれば大規模な戦術が利用できる

それは相手も同じだが


街が破壊されたくはないという事だろう、それはお互い様なのでよし


「リリアナ、進軍開始だ。歩兵を前へ、バリスタも撃て」


リリアナは信号を送ると歩兵部隊は前進を開始し

サイクロプスたちが後ろからバリスタを敵軍に対して撃ち込んだ


ドドドドッ


バリスタは敵軍に向かって10本以上放たれた

人間軍の魔導士によっていくつか撃ち落とされたが2本ほどが着弾した


サイクロプスたちは次弾の装填を開始

敵軍の被害は20ほどだろうか?着弾点付近で人が複数倒れている


「着弾したバリスタ弾の木槍を解放せよ」


魔王軍の魔導士たちが一斉に魔力を送り込む、バリスタから鋭い木の根のようなものが無数に伸び、成長した

木の根に貫かれたり、押しつぶされるなどして人間軍の被害は拡大する


見たこともない兵器に人間軍は大混乱を始めた


「バリスタ弾の木槍に着火せよ」


伸びた木槍が一気に燃え広がる

燃えた木槍が崩れ戦火は拡大した


たった2発着弾しただけで被害は数百に及ぶ

混乱が広がるなか、魔王軍の前線が人間軍へ衝突、人間軍の火は消し止められたものの死んだ兵士たちが次々と起き上がり、アンデッドとして味方だった人間を攻撃し始める


手痛い先手を打たれた人間軍は魔王軍の歩兵部隊に飲み込まれさらに被害は拡大した


----- 戦況 -----

連合軍 12,000

魔王軍 9,000


サイクロプスたちがバリスタの二射目を放った


ドドドッ


バリスタはさすがに警戒され、今回は全て雷に打たれてしまった

さすがに脅威は身に沁みたろう、だが空からの手数がふえればどうか


「航空部隊で前線を支援しろ、航空部隊の攻撃と同時にバリスタを撃ち込め」


一斉に羽ばたく航空部隊、毒の泥団子や岩が敵兵に襲い掛かる

障壁や雷などで落石や航空部隊が対応されるもバリスタは3本ほど着弾した


木槍と火災でまた人間軍に混乱が広がる

戦線は魔王軍が一方的に蹂躙する内容になった


しばらくすると両翼の前線が崩壊していく様が観測される

勇者に学び、少数の英雄グループが中心になって魔王軍の前線を切り裂き、敵兵がなだれ込んでくるのだ


両翼の遊撃部隊へ4人ずつの英雄小隊が斬りこんできている

魔王軍の兵隊たちの中へ深く切り込んでいるため火力支援ができず、いいように切り裂かれ、魔王軍の被害も次第に増えていく


----- 戦況 -----

連合軍 9,000

魔王軍 8,000


さすがに一筋縄ではいかないか


だがシルヴァン帝国の城を落とした後、維持するための兵隊を残しておかなければならないとすると、そろそろ強引に決着をつけたい


「リリアナ、右翼はリリアナとリッチ、アヌビスで英雄を迎え撃て、俺は左翼へ行く」


本来大将が前に出るなどあってはならないが、英雄がそろってる今、叩けばほぼ勝利は確実になる


逆もまたしかりだが、敵軍を撃破した後、の事を考えると今が一番いいのだ



俺は左翼の英雄たちと相対した

遊撃部隊に距離を開けるように指示すると大きく距離を開け、英雄と俺を囲むように広がる

人間軍の英雄は戦士が一人、騎士が一人、魔導士が一人、神官が一人


勇者たちと似たような構成だ、魔導士が転移魔術を持っているとすると厄介なので先に叩いてしまおう


俺は左手を開き、空へ掲げると勢いよく振り下ろした


ドンッ


という音と共に地面が凹む、重力魔術を叩きつけたのだ

杖に重力魔術を維持させるよう魔力を込め、その場に滞空させる


英雄たちは対応しており、防御魔術で重力を防いでいた

俺はさらに畳みかけ、右手で輪を描き、英雄たちの周りを氷の壁で囲うと転移魔術で英雄たちの背後へ回った


「...やぁ」


俺は魔導士の肩に手を置き、声をかける

英雄たちは冷や汗をかきながら一斉に俺を見た


「オイタがすぎたね、お仕置きの時間だ」


俺は魔導士に置いた手から強力な雷魔術を放つ


「ぎぃやぁあぁぁぁぁぁぁ」


魔導士は黒焦げになって倒れこむ

すかさず戦士が飛び掛かってきたが転移魔術で氷の壁の外へ転移した


氷の壁はすぐさま破壊され、中から英雄たちが飛び出してくる

さすがにもう油断はなさそうだ、戦士たちが畳みかけてくる


俺は飛び退いたがさすがに英雄、あっという間に間合いを詰めて来る

左手をかざし、衝撃波を発生させるも、戦士は更に左に回り込んできた


更に右手からも騎士が間合いを詰めてくる

俺は右手の騎士の足元に氷の壁を発生させた


氷の壁に阻まれた騎士は氷にぶつかり転倒する


左側に詰めてきた戦士は剣で俺の胴を狙って剣を押し出す

一歩下がって何とかかわしたが、戦士は背中を向けた、俺の宙に浮いた左手を狙い、剣を担ぐように振りぬくと


俺の左腕が宙に舞った

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