第29話 - 第二次侵略戦争
両軍の進軍が始まった
アンデッド部隊を中心に敵軍へ突撃が始まる
サイクロプス投石部隊も大きな岩を魔術で生成しては放り投げる
ここで気づいたのは大きな質量をもつ岩を投げるのがかなり効く
人間軍の魔道支援部隊が飛んでくる岩を処理するために高度な魔術をぶつけてくるからだ
これはこのまま続ければ人間軍の魔力を大幅に削れるだろう
アンデッド部隊もまったく数が減らない
アンデッド部隊と相対している人間軍はかなり苦しそうだ
かといってやられてばかりいるわけでもない
機動魔獣遊撃部隊が敵軍の英雄によって相当量処理されている
魔獣がメインのため数が増えやすいのだが
いかんせん魔獣であるため魔術抵抗、体力共にそう高くない
善戦してはいるがかなり不利だ
早めにテコ入れしなければ、俺は航空部隊を遊撃部隊の支援に向かわせる指示をした
「リリアナ!航空部隊を遊撃部隊の支援に向かわせてくれ!」
リリアナは頷くと航空部隊へ指示を出す
「航空部隊、敵左翼後方へ攻撃を開始せよ!」
ハーピーとガーゴイルたちが一斉に飛び立ち、遊撃部隊の頭上を通って敵軍後方へ向かっていく
航空部隊が敵の後方部隊に岩や毒団子を落とし、敵軍を混乱させるも
さすがにまったくの無傷で生還することは難しく、何体か雷魔術で落とされている、だが敵の後方で次々と亡骸がアンデッドと化し、人間軍の混乱は一層強くなった
戦線は膠着し、お互い一歩も引かず数を減らし続けている
継承の光を受け取るたびに、あぁ、またかと思うようになった
以前は激しい怒りを覚えたものだが慣れとは恐ろしい
今回の戦は勝つことももちろん重要だが、敵の兵数を限界まで減らすのも目的の一つだ
シルヴァン帝国の侵略機会を減らすためでもある
戦闘開始から数時間が経過した
----- 戦況 -----
魔王軍 3,000
人間軍 2,500
戦場にはおびただしい数の屍が横たわっている
敵の魔道支援部隊たちの魔力が尽きてきたのか、サイクロプス投石部隊への抵抗が少なくなってきた
ただし、人間軍の英雄に強力な弓使いがおり、こちらのサイクロプス部隊もそれなりに被害が出ている
サイクロプスたちは大きな的とはいえ、戦場を横断するほどの距離を届かせる矢というのもすさまじいものがある
人間軍と魔物軍は距離にして2キロメートルはあろうか
魔術で強化しているであろうとは言え、本陣も気が抜けない
こんな超長距離狙撃ができる者は魔王軍にはいない、きっとエルフ系の上位種だろう
魔王軍は人間軍に比べて兵隊の総数が少ないのでそろそろ戦局を有利に働かせたい
人間軍の戦力は本国にいる大陸だけでも数万はいるからだ
人間はお互い戦争をするのでそれらが全部向かってくることは無いと思うが
というか、そうされるとこちらは打つ手がないのだが
こちらの兵数も減らしすぎると抑止力を失う
この次の一手をリリアナに相談した
「リリアナ、そろそろ兵の損耗を抑えたい、何かいい手はないか?」
「そうですね、魔王軍の英雄クラスが何かしらキッカケを作るのがよいでしょう」
俺は少し不安になった、英雄の数が倍近いので人間軍の英雄を刺激しないか?
「人間軍の英雄たちがまとまって反撃なんて事はないだろうか?」
「その可能性は捨てきれませんが、戦闘が長引いているため容易に反撃はしてこないでしょう、魔力も消費していることですし、考えもなく突撃してくる可能性は低いでしょう」
なるほど、一理ある、では誰にキッカケを作らせようか
「誰にやってもらうのがよいかな?俺がやったほうがいいか?」
リリアナは首を振った
「いいえ、玄人さまはまだ残っておいてください、玄人さま力を残すことで人間軍が強引な攻勢に出るキッカケを抑止できます」
なるほど、いるだけでいいというやつか...
「ここではリッチさまにアンデッドの数を最大まで増やして頂くことが理想ですね、戦局を動かしたいとはいえ、まだ人間軍の英雄は力を残しているため、今しばらく消耗させる狙いがあります」
念には念を、攻勢に出るきっかけを可能な限り摘んでから、だな
俺はリリアナの案を採用した
「わかった、その案で進めてみてくれ」
「わかりました、リッチさまへお伝えします」
リッチは指令を受け取ると、すさまじい勢いでアンデッドを生成し始めた
人間軍は大混乱に陥り、同士討ちが始まっている
日が傾き始め、14時くらいだろうか、人間軍が明らかに劣勢だ
リリアナの作戦は効果が高く、こちらは戦力を温存したままだ
このまま終わるという事もないだろうが、かなりうまくいっている
----- 戦況 -----
魔王軍 2,800
人間軍 2,000
突然、リッチのアンデッド軍が急に消滅した
全てただの亡骸に変わってしまったのだ
報告を受けると何やら英雄軍の一人がリッチを捕縛したそうだ
何という事だ、ここで主力を抑えられた
----- 戦況 -----
魔王軍 1,800
人間軍 2,000
いきなり形勢逆転してしまった
これはまずい、俺はリッチを救出すべく、リッチのもとへ急いだ
人間軍はアンデッド軍が急に消えたため混乱している
そのためかまだ前線が一気に押し上げられるという事もない
一時的に亜人歩兵部隊を前線に送るように伝え、リッチの元へ駆けつけた
リッチは何者かに頭を捕まえられている
救出しようと向かったが、どこか見覚えがある
リッチの会話もどこか親しげだ
リッチはジタバタと叫びながら抵抗している
「あだだだだだ!!おやめくださいシトリさま!!せめてもう少し後で!!!!」
シトリ?
シトリは不機嫌な顔をしている
「だぁ~かぁ~らぁ~、電話すんなって言っただろぉ~?ストーカーかぁ?」
原因がわかった、フリートのいたずらだ
ここで魔神になられるのも困るので良かったというべきか
いやだがアンデッドが消えてしまうのは予想外だ、何とかしなければ
俺はシトリに駆け寄り説得した
「シトリ殿!」
シトリはじっとこちらを見つめる
「あん?玄人サンか、こいつよぉ~、マジうぜぇんだけどぉ~」
「いや、あの、それは同意するんだが」
リッチはショックを受け抵抗をやめてしまった
「シトリ殿、あちらを見てくれないか」
シトリは顔を向けた
「人間じゃ~ん、なにしてんのぉ?」
シトリは俺を見て質問した
「今は魔物と人間が領土を巡って戦争しております」
「へぇ~え、面白そうな事してんね」
人間軍がこちらの異常に気付き、数百人単位が詰め寄ってくるのが見える
英雄が先頭だ、これはさすがにまずい
「あちゃぁ~お邪魔しちゃったぁ~?テヘペロ~、ごめんねぇ、玄人サ~ン」
「いえ、こちらこそ、不手際があって申し訳ありません、以後気を付けるようにいたします」
シトリはリッチの頭をもぎ取り、思い切り蹴飛ばした
「お前も見習え~?人格者ってこういうんだぞぉ~?」
人間軍の英雄がかなり近くまで迫っている
俺は心の中で叫んだ
(やめろ人間達!ソロモン王の娘だぞ!!)
シトリは腰を揺らし、俺のもとへ寄ってくる
「玄人~、リッチはぁ~、玄人次第でぇ~、許してもいいなぁ~」
「はい、私にできる事であれば、何なりと...」
頼むから早く喋ってくれ
シトリは俺に抱き着きながら話しを続ける
「玄人の~お城に~あたしも~住みたい~」
えぇ...ここでそんな話しになるの...
人間の英雄が目の前まで迫って来ている
英雄は振りかぶり、大きな剣を今にも振り下ろさんとしているところだ
「はい、その程度でよければ、お部屋を用意いたします」
シトリは手を英雄に向け、一言
「じゃまぁ~」
そういうと黒い波紋が手をかざした場所から空気中に広がった
時が止まったような錯覚に陥った
英雄たちの動きは遅く、ゆっくりと剣を振り下ろす
次第に、英雄が強い衝撃を受けたように顔が、皮膚が揺れる
英雄はゆっくりと蒸発し、骨まで消えた
シトリはちいさく、微笑んで手を下げた
「ふふっ」
すると突然、黒く図太いレーザーのようなものが現れた
俺の身長を遥かに超える太さで目の前は何も見えない
レーザーが小さくなると、地面は抉られ、直線上にいた人間の部隊ごと消えていた
リッチの体も当然ない
200人強の人間軍が消し飛んだ、後方の人間軍左翼ごと、防御魔術を展開する暇もない
魔神の力とはこれほどか、シャレにならない
竜が戦争に参加しないわけだ
こんなもの乱発したら大陸が消える
----- 戦況 -----
魔王軍 1,800
人間軍 1,300
シトリは俺に向かって話し出す
「じゃ、約束だよぉ~、また来るねぇ」
そういうとシトリは煙のように消えてしまった
どうしよう、魔神が城に住むの?あぶなくない?
いや、まずは人間軍をどうにかしなければ
リッチがどこへ行ったかわからないがアンデッドたちは復活しない
このまま兵も減らしたくないので俺が一気に勝負をかけることにした
俺は敵軍に手をかざし、上空に雲を作るイメージをする
敵軍の上空に赤黒い雲が生成される
状況に気づいたリリアナが全軍を一時撤退させる信号をあげた
俺は雲を大きく成長させる
前線がある程度引いたところで一言つぶやいた
「崩れよ」
赤黒い雲から重たい霧が降りて人間軍に広がる
霧を浴びた人間達がすさまじい勢いで溶けていく
触れた瞬間からボロボロと皮膚が崩れ、人間達は逃げ惑う
防御魔術を展開されたが、霧は少し、防御魔術の上で留まると、広がり、また人間たちの上に降り注ぐ
人間軍は崩壊した
みな散り散りに逃げていく
英雄たちはさすがというべきか、逃げ惑う兵士たちをまとめ、シトリが仕留めた者以外はみんな生きている
人間軍の英雄が大きな風の魔術を使用し、霧を押しのけ人間軍は撤退を始めた
----- 戦況 -----
魔王軍 1,700
人間軍 800
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