第28話 - 開戦に向けて

収穫祭の後片付けをしていると、酔いつぶれた男がまだ交流会の会場で寝ていた


ミミがオロオロしながら俺のところへ助けを求めに来る

上位の魔物のため恐れ多いのだとか


俺は現場で寝ている男を確認した、ルシファーだ

ルシファーをゆすり、話しかける


「ルシファー、大丈夫か?もう収穫祭は終わったぞ」


するとルシファーがゆっくりと起き上がり、こちらを確認した


「だぁれだオメェ」


握っていたグラスを確認し、周りを見渡す


「オイ、酒がもうねぇぞ」

「いや、もう収穫祭は終わったぞ?戻らなくていいのか?」


するとルシファーは立ち上がり、フラフラになりながらあちこちのテーブルへ寄っては酒を探して回っている


堕落した天使の堕落とはこれか?タチの悪い酔っ払いだ

酒100樽ずつで話しがまとまるわけだ


しまいには会場で立ちションしたりゲロ吐いたり散々だった

もう一度お酒を樽ごと渡して寝ている隙に沼地へ運び、ワイバーンから投げ捨てた


悪魔の王だし、これくらいで死んだりしないだろ、記憶もなくしといてほしい



収穫祭が終わり、数日経ってからシルヴァン帝国の斥候に城が見つかったという報告を受けた

斥候とは言うが、英雄を中心に編成された部隊だったらしく

連絡役の魔物たちは全て一太刀、または魔術一撃で仕留められていた


少数精鋭かつ、英雄中心なので追いかけるのはリスクが高い

接近を感知できなかったのも問題だ

ちょうどトレントが移住してくれる話がまとまったばかりなので今後はトレントも動員して警戒にあたろう


とうとう、城の場所もバレた、これだけ目立つデカさにもなればしょうがない

いちいちどこに潜んでいるかわからない英雄を探すのも面倒だし

いずれ見つかるので今回は放置した



冬になった


雪が積もり、外は寒い

街をダンジョン化したとはいえ洞窟でもない限り気候の影響は受けるみたいだ


交易品は酒が非常に需要が高い、みんな寒いんだろうな

冬は陸路の交易が滞るのでもっぱらオークターヴィル魔道国家とのドレイク便が頼りだ

ドレイクたちは寒さをものともせず働き続けている

竜は寒さに弱いとどこかで見た気がするが、どうやらこの世界は違うらしい


最初はドレイク以外にも交易を行う人間の補佐という感じだったが、今はもうドレイクたち自身が交易品を選別して城の交易を管理している

さすが竜、頭が良い


俺は戦争を見据えて交流が忙しくなってきた、街の外にある部族長との交流がメインだ

食料が足りないとなれば食料を送り、代わりに移民を勧め、受け取る

生活用品が足りないとなれば、街では取れない特産品などと交換

戦闘能力の低い村などの依頼で村へ被害を及ぼす魔獣やダンジョンの攻略依頼までもある

それらを戦士ギルドや商業ギルドへ割り振っているのだ


こうやって部族長たちと仲良くすることで戦争への兵隊を徴兵しやすくするのだ


今までは物流管理などをしていたが、空港の側に商業ギルドを設立、ドレイク達に物流管理を任せることにした

財源管理はティルへ


国という体裁だが、やることは企業と変わらない

今のところワンマンなのでなおさらだ


法律などが細かく決まり、取り締まりが行き届くようになればもっと主導者を割り振っていきたいが、とりわけ魔物は罪の意識が元の世界に比べると低いので難しい


これが魔物の民族性ということだろう

あまり縛り付けるのもよくないと思う


街の事はこれでいい、次はシルヴァン帝国だ

春に向けてリリアナと軍略会議を行った


「リリアナ、シルヴァン帝国の動向と春の出兵規模について見通しを教えてくれ」

「はい、シルヴァン帝国の同盟は今のところ前回と変わらずセドリオン貴族国家のみです、良い報告が一つ、セドリオン貴族国家周辺国が兵数を増やしたため、それに対応、こちらへの出兵数減少が予測されます」


それはありがたい、これも工作の結果だろうか

人間軍の国同士の緊張を高めることで、国境へ対する警戒を厚くさせた結果

こちらへ侵略するための人数を減らさざるを得ない


リリアナは本当に優秀だ、下手すると以前の報告より規模が大きくなるとも予想していた


リリアナは続ける


「次に魔王軍の軍備です」


------ 魔王軍 -----

亜人混成歩兵部隊 500

機動魔獣遊撃部隊 2,000

サイクロプス投石部隊 20

弓弩制圧部隊 400

魔道支援部隊 200

後方支援部隊 100

航空魔獣混成部隊 200


アンデッド歩兵 500~1,000


「リッチさまの参入が決まり、前線を維持することは可能なラインに達しました」


こう見るとリッチはすごい、一人で最大1,000人規模の軍を動かせる

性格が小物なだけにいじられキャラだが数字で見るととてつもない、さすが上位の魔物


「次に人間軍の派兵予想がこちらです」


----- 人間軍 -----

シルヴァン帝国軍

 3,500人

セドリオン貴族国家

 1,000人


アンデッド兵の数次第だが、こちらが若干上回る

かなり勝算のある戦争になった、俺は少し安心した


「最後に、英雄の参加状況です」


シルヴァン帝国軍から5名

セドリオン貴族国家から3名参加します


「人間軍は前回の失敗を反省し、英雄の数を増やしていますが考え方を変えれば英雄は育成が非常に難しいため撃破してしまえば大きな戦力ダウンを長期的に見込めます」


英雄クラスが8人も参加するのは正直まずい

魔王軍には俺含め4人しかいないからだ


俺は一通り報告を聞いた後、返事をした


「英雄達をどう食い止めるかが今回の戦争の鍵か」

「はい、その通りです」


これはさすがに困った

いくら魔王軍と言えど英雄クラスはさすがにそんなにいないのだ

これではおそらく魔術合戦は不利になる


「勝機はあると思うか?」

「人間軍には未だ航空部隊がいないためある程度有利に進むとは思いますが英雄たちの能力次第では不利になる可能性もあります」


うーむ、正直わからんという事か、確かに英雄の力は大きすぎる

そしてその英雄の能力があまりわかっていないのが問題だろう


俺は世代交代による継承が常時進むためいくらか力は増しているが、一年でどれくらい成長したか把握しておく必要がありそうだな



春になった


シルヴァン帝国主導の連合軍が魔王領侵略のため侵攻を開始したと報告を受けた


今回の侵略を退ける事ができれば、英雄が倒せなかったとしても

シルヴァン帝国軍は相当数の人口を失うためしばらくは派兵出来ないだろう


同盟期間中に人口を回復させられなければ今度は自国領さえ守れないからだ

以前より規模が増えたため、前回ぶつかった東の平原にたどり着くのは15日ほどはかかるだろう


トレントたちが街に来たことにより、魔王領のほぼ全域での情報が揃うようになった

根によるネットワークおそるべし、他の個体ともテレパシーのようなもので意思疎通が可能で、トレントではない木はもちろん草の根までからも情報を得られるのだと


一応歩くことはできるが根を張るため基本は動かない

そこそこ大きな樹齢の木があればそこから自分の分身を生成することができる

今回の戦争にはそうやって参加する、城の周りの木はみんな樹齢が高いのでどこからでも出れるそうな


ガーゴイルとハーピーたちは空から突撃すると損耗が激しいので石や毒の泥団子などを空から落とす事になった

それで死んだ敵の兵隊からアンデッドを作るというのが今回の主力戦術だ


立案はリリアナだが、本当に人間だろうか?容赦ない、効果的だがこんなことされたら英雄ではない人間軍ではおそらくもう魔王軍に太刀打ちできないだろう


敵は常に前線の圧力に耐えながら毒などに気を払い、後ろで死んだ味方がいつアンデッドとなるか気が気ではないのだ

アンデッドがいくら集まろうとモノともしないような英雄でなければ耐えられるはずがない


デュラハンたちは魔物としてもかなり位が高く、あまり数も多くないため前線を突破してきた英雄たちを食い止める役割をする事になった


魔術耐性が高く、アンデッドほどではないが耐久力も他の魔物に比べると段違いに高く

上質な武器や防具が本体であるため防御力も他の魔物たちに比べて高いからだ


とはいえ1体で英雄を止められるほどではないそうなので複数体で当たってもらう



そして開戦の日が来た


----- 戦況 -----

魔王軍 4,000

人間軍 3,500


前回の2倍以上の規模となり、草原を埋め尽くさんばかりの布陣となった

念のため使者を送ることにした、前回の失敗を踏まえてアンデッドを送る


今回は蛮勇極める頭の悪い指揮官にもわかりやすいよう、大きな文字で一言


「カエレ」


と、書いた、さすがに伝わるだろ?


人間軍の本陣らしきところから黒煙があがる

リッチが使者に送ったアンデッドが燃やされたことを伝えてくる


相変わらずだな、まぁ若干煽った俺も悪いんだけど


さぁ、開戦だ

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