第20話 - ベビーブーム

夏が過ぎ、収穫の季節が近づいてきた


街にはやたら妊婦が見受けられる

デートスポットの影響なのか、おかげで病院も忙しそうだ


今年の収穫は女たちが減る、家長となった男たちが大いに奮闘することだろう


ティルが上機嫌で近づいてくる、なんと妊娠したそうだ

元の世界では独身だった、俺も来年には新米お父さんか...実感がわかない

産まれる子供は竜だろうか?人間だろうか?いろいろ楽しみだが不安も多い


その日は古いメンバーが集まり、祝福してくれた

翌日にはフリートたち、竜の家族も訪れた

さらにその次の日は懇意にしていた商団の代表者が集まった


その後も街の有力者たちが次々と現れ、宴会は5日間も続いた


ベビー用品系が主に贈り物として多く、意外とベビー用品系は種類があった

竜の子は世界的にも珍しく、とりわけ喜ばれた


竜は守り神として祭られることもあるからだそうだ

この街の将来の守護神として期待されているのがわかる


世襲制を採用するつもりはなかったが竜の子だ、きっと強くなるに違いない

親バカを披露したところで妙な噂を聞きつけた


街に子宝に恵まれる薬が噂で流行り、爆発的な売り上げをみせているそうな

街の妊婦が増えたのはその影響か、しかし怪しい、俺の耳に入ってくるのが遅い

新しい薬の開発に成功したなら喜んで報告に来そうなものだ


調査のため、クラピウスに聞いてみよう

病院の研究室にクラピウスはいた


「クラピウス、子宝に恵まれる薬があるそうだが心当たりはあるか?」


クラピウスは呆れた顔で返答した


「もっと落ち着いたらどうだ?お嬢様はご懐妊されたばかりだろう」

「いやいや、違うよ、街で流行ってるって聞いてな」

「なるほど、だが薬の効能に妊娠を促すようなものなんてないぞ、そもそも妊娠とは相手が必要なものだ」


正論ですね、その通りだと思います、でも聞きたいのはそういう事じゃないんです


「まぁ、そうなんだが、そうじゃなくて...」


クラピウスは少し考え込んで、心当たりがあるような表情を見せた


「心当たりがあったか?」

「ある、私は生産に関わっていないが、おそらく媚薬だろう」


なるほどな、それなら作りそうなやつに心当たりがある

ミミに薬局の売上を調べてもらうように指示し、俺はサキュバスたちを探した


サキュバスたちは薬局で薬を売っていた

俺はアメリに声をかけた


「や、繁盛してるかい?」


アメリが答える


「もちろん、最近はお肌の調子もいいわ、何か買ってく?美容に効果のあるポーションを開発したわ」


本当に効果があるのかわからんが、人の心の劣等感に漬け込む商売を始めたな...

本来悪魔とはこういうものだろう、まぁ正常なんだろうが、咎めるのは違う気がする


「いや、今日は欲しいものがある」

「あら、何かしら」

「子宝に恵まれる薬があると聞いてな」


アンバーがカウンターを出ようとしている


「おい待て、どこへ行くんだ?」


アンバーは答えた


「な、なんでもないわよ、なぜ引き留めるのかしら」


アメリの目が泳ぎ始めた

正直な反応だな、わかりやすくて助かるぞ


「そういえば最近ティルさまがご懐妊なされたそうで、お祝い申し上げますわ」

「ありがとう、産まれてくる子供が今から待ち遠しいよ」


ミミが薬局に戻ってきた


「玄人さま、書類をもってきました」


俺は書類に目を通した


「子宝に恵まれるという薬の品目がないぞ?アメリ、アンバー今なら許してやる」


アメリはがっくりと肩を落とし、諦めたように顔を伏せた

アンバーは隙を見て逃げ出そうとした


俺は重力魔術で羽ばたこうとしているアンバーを地に叩きつける


アメリが半泣きになりながら打ち明けた


「ごめんなさぁぁい」


サキュバスにとって男性の精を得る事は重要だ

魔力の源でもある、だが男性の精にも質があるらしく

魔力が強いものの精ほど上質で力になりやすいらしい

ティルが来てから俺のところに来なくなったサキュバスたちは質の良い精が得られない

そのため一般の人の精では質が足りず、数が必要になるため媚薬を開発したらしい


「事情はわかったが、なぜ報告書にないんだ?」


アンバーが話し出す


「まだ試作段階なの、ちょっと副作用があるというか」


オイオイ住民で薬品の実験するな


「副作用とは?」

「効果が一晩に収まるのが理想なんだけど、今はまだ丸二日くらい続いちゃうの

そのせいで効果が切れる頃に強い倦怠感がでちゃう、かな」

「それで産まれる子供に影響はあるのか?」

「特にないと思うわ、男女ともにちょっと興奮しやすくなるだけ

私たちのスキル、魅了をちょっとした栄養剤にかけて、それを小分けにしてポーションのように売っているのよ」


なるほどな、魔法の効果だから薬剤が影響あるとかそういう心配はないか


「なるほど、副作用の効果が強いので隠して実験してたわけか」

「そう、それが思いのほか売れちゃって噂になっちゃった」


うーむ、話しを聞く限り悪意があるわけではなさそうだな

子宝を望んでも授かれず困る人たちもいるだろうし、この薬自体が悪いわけではない

ただ、実験の仕方が問題だ


「わかった、今回罪は問わないが、次からは相談しろ」


アメリとアンバーは返事をした


「はぁい、ごめんなさい」


次は問題解決だ、勝手に知らない人を巻き込むのが今回の問題だ

希望者を公的に募って同意を得た状態で実験する分にはいいだろう

クラピウスにも経過観察などしてもらえばいい


「今後この手の試験には必ず俺に報告してくれ、公的に試験の希望者を募って

クラピウスにも協力してもらいながら実験をすればいい」


アメリとアンバーは顔を合わせ、喜んだ

アンバーが話し始める


「ほんとに!?こういうの嫌いかと思ってた!」

「嫌いではないが、やりすぎるなという話しだ」


これもサキュバスが生きていくために必要な事だ、やりすぎはよくないが禁止するのも可哀想だし、この話しはこれで終わりにしよう



後日、希望者の募集を行う書類をまとめていると

まめいとミミが子宝に恵まれる薬を隠し持っていたことが判明

副作用を説明したあと取り上げた、誰に使うつもりだったんだ?


ティルが妊娠したことにより、順番を待っていたまめい、ミミが張り切っている

二人とも俺が一人でいるときはやたら距離が近くなった


女の子なら一度は見る夢か

出産は相当な痛みを伴うというが、それでも憧れるとは女は強い


...


子宝に恵まれる薬だが、その後順調に試験が進み、効果が一晩で収まるレベルになった

効果時間に比例して副作用の倦怠感も軽くなり、商品として販売することを許可した


意外なことにこれがものすごく評判がよく、人間の国にまで輸出される事になっていた

ダイバーツリーに人間との直接取引は特にないが、エルフやドワーフなどの街を経由して人間の国に届くそうだ


その他、長命な種族は子を成すのが遅い

世襲制の種族なんかは世継ぎの誕生を今か今かと待ちわびるわけだが

なかなかそんな機会がない、なんてことになると使われるそうだ


一夫多妻制の国では世継ぎの出産により序列が決まる場合、奥様がたがこぞって買い込むらしい


まぁ、悪魔の開発した薬だしな、陰謀に使われるだろうさ

とはいえそれは一面で、世継ぎの誕生に困っている人も事実いるわけで

そういった人たちには健全に利用されている


なんにしても使う人次第という事だ


産まれてくる子供たちは親を選べないのだ

子供たちの親が愛情豊かに育ててくれることを祈ろう


想像を絶する痛みに耐えて生まれる子供たちだ

愛されないはずがないだろうと思うけれど



もうそろそろ収穫の季節だ

魔闘祭も盛り上がったが、収穫祭もやらなければならいな


これはこれでダイバーツリーの料理技術の高さを世に知らしめるいいチャンス

他の種族を招いて交流をメインとしたお祭りにしたい


ダイバーツリーに訪れる商団にも声をかけて各地で宣伝してもらおう

魔物に敵意のない勢力を除いてね


収穫祭を利用して外貨を得るチャンスにもなるだろう

そして、この街の様子を見て、他の魔物たちも街を築くようになってくれると嬉しいな

交易でお互い得をする文化が浸透すれば、この街が襲撃される心配もなくなる


どんな種族が来るのか、今から楽しみだ

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