第18話 - 医師

男の姿に変身した海竜はフリートに話しかける


「竜王さま、おひさしぶりでございます、何かございましたか?」

「お前に会わせたい者がおる、挨拶せよ」


すると男は俺とティルを見つけ、礼をした


「初めまして、クラピウスと申します、海に住む竜でございます」


俺も礼をし、自己紹介した


「初めまして、魔物の街を経営しております、玄人と申します」


ティルも続く


「クラピウスさま、おひさしぶりでございます、ティルです、玄人の妻となりました」


クラピウスは頭をあげ、ティルの姿を懐かしんだ


「大きくなられましたな、ふさわしいお相手を見つけられたようで喜ばしい限りです」


フリートが話し始めた


「クラピウスよ、玄人がお前に用があるようだ、聞いてくれまいか」


クラピウスは俺の方を向き、仰々しく挨拶した


「人の身で魔物の街を経営されているというのは長く生きる竜にとっても初めて聞く偉業でございます、以後、お見知りおき願います」

「ありがとう、堅苦しい挨拶は抜きにしよう、助けてほしいんだ」

「ありがとうございます、助けてほしいとはどのようなお話でしょう」


俺は魔物の街に病院を設置したこと、医師が足りない事を打ち明け

クラピウスの医術知識を貸してほしいと願い出た


クラピウスは驚き、興味を示した


「面白い事を考えますね、魔族、魔物に医療とは」

「魔族や魔物にはそういう概念がないらしいな、おかげで街の労働状況は最悪だったよ」

「ハハハ、そうでしょうね、そもそも労働なども初めての事でしょう」

「そうなんだよねぇ、それで無理をする住民も多くてね、自分の加減がわかってない」

「なるほど、それで住民たちの医療を行うために私の知識がいると」

「そう、医療という概念がそもそもないから今はみんな適当にポーションかけたり飲ませたりしてるだけなんだ」


クラピウスはティルに目をやり話し始めた


「ティルさまが興味を示されるはずですね」


ティルは恥ずかしそうにはにかんだ

クラピウスは俺へ質問を始める


「協力いたします、私も興味が湧きました、病院なるところへ案内していただけますか?」

「ぜひ!すぐ街へ行こう」


その様子を見たフリートが話し始めた


「まて、ワシが送ろう」


そういうとフリートは広間の外へ出て竜の姿へ変身した

俺とクラピウスが背に乗り、ティルも変身して街へ向かった


...病院...


フリートが物珍しそうに観察している


「ほほう~、これはなかなか立派な建物だな」


クラピウスが話しかけてくる


「医師のための部屋はありますか?」

「もちろん」


俺は医師の部屋へ案内した

医師の部屋は大きく、大量の記録媒体、観察用魔道具

研究用の魔道具などを取り揃えてある


クラピウスはそれを見て驚き、はしゃぎながら質問してきた


「これはすばらしい、この魔道具はどのように使うのですか?」

「医師一人では手が回らんからな、医師の判断を助けるために、魔術が弱いものでも患者の状態を記録したりできるよう、助ける魔道具を用意したんだ」


クラピウスはあちこち魔道具を見て回り一通り見て回った後、話し始めた


「これだけの施設なら私の研究もはかどります、ぜひ協力させてください」


あっさりと話が決まった


「それはありがたい、だが、君の縄張りは大丈夫か?」

「御心配には及びません、竜は基本暇ですし、それに深海を荒らすものもいないので」

「それは助かる、では対価の話をしよう」


俺は家に三人を案内した


まめいとミミ、ティルが料理と酒をふるまいながら話しをした

クラピウスが料理に感動しながら話し出す


「これは素晴らしいですね、人間の国に人の姿で忍んだ事もありますが、ここはどの人間の料理よりも美味しい」

「ありがとう、俺やまめいの元の世界の知識だね、ここに最初来たときは苦労したよ」

「これほどの味を知っているのであればそれは苦労したでしょう」


この国の食料事情は元の世界に比べるとかなり貧相らしい

料理の味でいえばきっとここは世界一だろう


俺はクラピウスへ質問した


「それで、竜に対する対価とはどのようなものがいいんだろう」

「医師の部屋で私の研究をすることを許して頂ければそれでいいですよ」


俺は驚いた


「え、それだけでいいのか?」

「ええ、竜はたいがいの物は手に入りますし、それより私の研究が助かるあの施設の方が報酬としての意味合いが強いですね」

「研究とは、内容を聞いてもいいのか?」

「はい、医療の研究です、ここであれば多種族の知見が手に入りますしあらゆる病状や症状などを見ることもできるでしょう、私はそれらの治療法を研究できればよいのです」


なるほど、たしかに、竜ほど強ければ手に入れられないもののほうが少ないだろう

クラピウスは知見が欲しい、俺たちは医師としての知識が欲しい

どちらにも利益のある話しになったわけだ


「わかった、必要なものがあったらぜひ教えてほしい、できる限り協力する」

「ありがとうございます、今後ともよろしくお願いします」


しばらく夕食を楽しんだあと、クラピウスを病院に送り、フリートが帰った



まめいが寄ってくる


「料理は喜んでもらえたか?」

「うん、おそらくここの料理はこの大陸で一番うまいぞ」

「ほんとか?うれしいなぁ」


まめいは機嫌よく、くるくる回り始めた


「元の世界の料理本とか持ち込めれば世界一の料理店にもなったかもしれん」

「あはは、一流シェフの料理は難易度高いなぁ」


まめいはハッとした


「この世界では、もしかしてあたしが一流シェフなのでわ?」


俺は鼻で笑いながら返事をした


「そうだな、間違いないぞ」

「やったぁぁぁぁ!玄人!あたしにも対価をよこせ!」


聞いた単語をすぐ使いたくなる、子供っぽいのは相変わらずだな


「わかったわかった、何が欲しいんだ?料理長とかそういう称号か?」


まめいは急にしおらしくなり、小声で話し始めた


「こっ...こっ...」

「ニワトリか?」


まめいはちょっと怒った顔で声を張った


「ちがうわい!」


まめいはまたしおらしくなって小声で話す


「その、ティルのあとでいい」


ミミの動きが止まり、耳をピクピクさせながらニヤニヤしている

ティルも少し赤面しつつそっぽを向いた

女の考えることはよくわからん、なぜ対価を求めたくせにティルの後なんだ


「対価を求めたのはお前だろ、はっきり言え」


まめいは赤面してうつむいた

ミミとティルが俺を睨む


非常に気まずい、どういうことだ

まめいは赤面したまま叫んで走り出した


「あほー!」


俺はちょっと驚いてミミとティルを見た

ティルはあきれている、ミミは苦笑いだ


あきれたティルが話し始める


「玄人、まめいさんは子供を欲しがってるのよ」

「なんて?」

「正式に結婚した私がいるから、後でいいって言ってるの」


いやそれをティルの前でいうのはどうなんだと思ったがティルが話し続ける


「なので、私たちも早くしなければいけませんね?」


む、そういう事か...


「5年も一緒にいたのにな、興味がないんだと思ってた」


ミミが話し始める


「女の子なら一度は必ず見る夢ですから」


ティルが話し始める


「そうよー、弱肉強食の世界で一夫多妻なんて珍しくないんだから叶えてあげなさい」


ミミがまた話し始める


「でも、順番は大事ですよ?まずはティルさまです」


むむむ...元の世界では一夫多妻の文化ではない、返答に困る


「わ、わかった...」


俺は女の逞しさに打ちのめされた気分だ

ふと、視線を感じたので目をやると、まめいが物陰から片目だけだしてじっとこちらを見ている


俺の視線に気づくと、ゆっくりと隠れてしまった


初めて会ったころは10代中盤の少女だったが、5年も経って随分大人っぽくなった

ミミも最初の一度きりで運がよいのか悪いのか幸い子供はできていない


これも順番というやつなのか、女の世界は複雑だ



それからクラピウスは病院に住み着き、医師としての知識を存分に発揮した

街の住民の死亡率は各段に下がり、みんなから慕われている


俺も住民から感謝されることが多くなり、住民たちのために走り回った事が誇らしく思える

クラピウスは医療以外にも回復魔術を使用することができ、空いた時間などで俺も学んだ


他にも興味のある住民たちが学び始め、病院には回復魔術を使えるものたちが多く働くようになった


これで街の外で活動している人たちも少し安心だろう

俺の力になるとはいえ、継承の光が来るたびに悲しい思いをしていた俺の精神もいくらか安定する

クラピウスが街に来てくれたことには感謝しかないな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る