第12話 - 収穫

アヌビスたちはダンジョンの攻略に向かった


ダイアウルフのオスを全員連れて行ってしまったが村にはリザードマン達もいるし、戦力になるアラクネの子たちも残っているのでよほどの事がなければ大丈夫だろう


ダイアウルフの家族は子供も一緒に連れてきており、どれくらいで大きくなるかわからないがこの村に居ればあっという間に増えそうだ、肉の供給量が足りるか不安になる...


アヌビス頑張れ


ミミ達はエルフの交易で手に入れた地図を使い、近くの村へお触れのようなものを出す事にしたようだ

村周辺の森をウロウロするだけではさすがに効率が悪いので提案を受け入れた


おかげで作物の収穫が始まる頃には戻ってきてくれたので助かった

できる猫だ


収穫は豊作とまではいかないだろうが、思っていたより量が取れた

だが、冬が始まり、冬の間に人が増えるような事があれば足りなくなる恐れはある


少量でお腹が膨れ、しかもおいしい、そんな食材がどこかにないものか


....


10日ほど経っただろうか、アヌビスたちが戻ってきた

全員無事だ


大量の魔石と食べきれない程の肉をもって帰ってきた

アラクネの子供たちが糸で袋を作り、それに包んで持って帰ってきた

頭がいい、しかし肉はさほど長持ちしない

冬ならいざ知らずこのままでは腐ってしまう


どうしたものかと悩んでいたところ、サキュバスたちが様子を見に来た


「玄人さま、どうかしたの?」


俺は現状について説明した


「肉が多すぎてな、たぶんこれは腐らせてしまう、もったいないなあって」


アメイが提案してくれた


「そうねぇ、今は凍らせておくとして、地下室を作るのはどう?」


俺はアメイに質問した


「凍らせるのはいいとして、いずれ溶けるだろ、そのたびに凍らせるのか?

そしてなんで地下室なんだ?」

「今回魔石が多く手に入ったみたいだし、地下室なら低温を保てる状態にできるわ」


俺はハッとした


「なるほど、冷凍室か、それは温度を微妙に調節できたりするか?」

「もちろん、大がかりなものほど魔石は多く使うけど」


これはいい、冷凍室と冷蔵室が作れる、食料を鮮度のいい状態で保つことができるのは今後の事を考えてもすぐ取り掛かるべきだ


俺は家の地下から取引所にまでの敷地の下に大きな冷凍室と冷蔵室を作ることにした

それほどの大きさとなると魔石は今の量では足りないらしいが、アヌビスたちに引き続き魔石集めを行ってもらおう


これで肉類は冷凍室、野菜類は冷蔵室に分けて鮮度を保つことができる

備蓄が増えれば長旅にも耐えられるようになるし、不意に村民が増えた場合にもある程度対応できる


食料確保に向かったダンジョン攻略だが村を大きく発展させられる事になった

アヌビスやアラクネたちだけでなく、これからは資源調達班を編成して向かうのもアリだろう、交易品としても使えるものも多く取れそうだ



収穫が終わり、冬にさしかかってきたのか、風が冷たくなってきた

牛の魔獣たちの毛で編んだマフラーや手袋がありがたい


アヌビスたちがダンジョンをある程度制圧してくれたおかげで魔石は十分な量が確保でき

冷凍室と冷蔵室も完成した


これで冬にひもじい思いをすることはないだろう


雪がちらつき始めたころ、村に移住を希望する集団が到着した


集団は鬼人族で男女30人ほどはいるだろうか、皆傷だらけだ

鬼人族の代表者と話しをすることにした


俺はここにいきついたいきさつを訪ねた


「初めまして、長をしている玄人です、移住に関しては断るつもりはないんだが

なぜ移住を決めたのか理由を話せる範囲で話してくれないかな」


鬼人族の代表が返答する


「ご丁寧にありがとう、俺はシデン、鬼人族の長をやっている」


シデンは少し情けなさそうな顔をしながら理由を語ってくれた


「結論から言えば食料問題だ、俺たちは闘争を好む種族で農耕などをしない

大きな集落があるにはあるが、ほとんどは傭兵などで生計を立てている、

今年は傭兵での稼ぎが悪くてな、集落で冬を越す食料の確保ができなかったんだ」


なるほど、冬も近いし、食料問題は大きな問題だろう

しかしなぜ傭兵での稼ぎが悪いのだろうか、見たところ装備も充実しており、それなりに強い魔獣すらシデン一人で片付けられそうなものだが


「なるほど、しかしシデン、君はかなり強い部類だとおもうが、傭兵は儲からないのか?」


シデンは目をつむり、淡々と話し始めた


「100人前後を養うだけの稼ぎはあったさ、腕にも自信はある

だが、ある日人間の軍が俺たちを全滅寸前まで追い詰めたんだ

動ける仲間をかき集めてやっとの思いで脱出した

以前ここで移住者を募集しているという噂を聞いた仲間がいたからここまでこれた」


なんてことだ、かなり大きな規模の集団を率いていたらしい

それを撃退する軍とは、いったいなんだろうか


「それは...災難だったな。ちなみにその軍はどこのものだったかわかるかな」


シデンは目を開け、うつむいたまま話を続ける


「ここから東にある人間の国だ、雑兵どもは大したことないが、何人か桁外れの力を持つ人間がいた、俺たちは全員そいつらにやられたと言ってもいい」


100人近い戦闘集団をたった数人で撃退するほどの力の持ち主?

俺には到底無理だろう、この世界なら勇者なんてのもいるかもしれないが、魔王がいるとも聞いたことがないので存在する意味がないが、間違いなく英雄と呼ばれる人物だろう

できれば戦闘になるのは避けたいところだ


「事情はわかった、数日で君たちが寝泊りできる家屋を用意するよ、狭いだろうがしばらくは空いている倉庫で我慢してくれ」


シデンは顔を上げ、明るい表情で例を述べた


「ありがとう!恩に着る」


俺は微笑みながら口を開いた


「もちろん家屋の建設は手伝ってもらうぞ?君たちに合う仕事も与える

歓迎するよ、これからよろしく」


シデンと握手を交わし、シデンたちを倉庫に案内した


さて、これから30人もの人数を受け入れる家屋の建設だ

冬に食糧難でここへ来る、という事が今回限りという事もないかもしれない

それに村人を増やすと言いつつ家屋の準備がまるでできていなかった

100人くらいは受け入れられるようにしていかないとな



30日ほどが過ぎたころ、鬼人族が住む家と予備の家屋が完成した

家から南西の一角を使い、宿屋のような家屋を数軒建てた

冬も本格的に始まり凍死者がでなくてほっとしている

これで村人の子供が増えても対応できるだろう

鬼人族全員が定住することになり、光も受け取った


食料の消費量もかなり増えてしまい、冬を越せるかちょっと不安だ

さすがに豪雪の中エルフ商団が来る可能性は低いと思ったほうがいいだろう


何度かダンジョンへ向かわないといけないかもしれないな


....


冬が終わりを告げ始めたころ、村が騒がしくなった

俺やまめいが転生したときに生贄にされたオーク達が攻めてきたのだ


ミミが俺の部屋へ駆けこんできた


「玄人さま!オーク達が村を襲っています!」

「なんだと!?どこからだ!」


俺は慌てて家の外に出た


オーク達は東の畑からやってきた

あっちは俺やまめいが転生したてのころ生贄にされかけたオーク達がいる方向だ


恐ろしく数が多い、100はいるだろう

オークの繁殖力というものを思い知った


既に戦闘は始まっており、敵味方入り乱れての大混戦だ

アヌビスは村を気遣って大規模な魔術が使えない、多勢に無勢、数に押し負けつつある


「何としても村から押し返せ!食料を奪われれば残りの冬を越すのが難しくなる!」


戦える者たちが一斉に乱戦を始めた

村の発展ばかりに気を取られて防備についてまったく考慮していなかった

完全に俺の失政だ


戦略や戦術なんてあったものではない

1時間ほど乱戦をつづけたころ、とうとう、光を受け取った

死者が出たのだ


オーク達は数に任せてひたすら突撃してくる

巨体のせいで一撃は重く、体力が多いため乱戦となると完全にオーク側が有利だった


ひとつ、またひとつと光が集まってくる

もう何人死んだかわからない

オークはまだ50匹以上いるだろう、まるで手を休める気配がない


みんな疲れ果て、戦闘に向かった俺たちの前線の半数が倒れた


前線に参加していたのは50ほどだろうか

50vs100、城壁もない村では、どんな名将でも村を放棄しただろう


だが、俺たちは難民の集まりみたいなものだ、ここを捨てていく当てなんてない

俺はひたすら悲しかった、悔しくて仕方なかった


みんなを守りたくて、強くなりたくて、何とかできることを一所懸命模索して

順調にここまでみんなとやってこれたのに


みんなを死なせたくなかったのに...




死んだ仲間の数だけ俺は力を増していた

怒りがこみあげてくる、これ以上被害を出したくない


俺はシデン、ミミ、リザードマンたちに撤退を指示した


アヌビスが風でみんなの撤退を助け、俺とアヌビスだけが前線に残った


力が溢れ出てくる、怒りもあり、留めようがなかった

みんなが横たわる姿が見える

鬼人族、リザードマン、ダイアウルフ、一番被害が大きいのはアラクネの子供たちだ


俺はアヌビスにどう見えていたのだろう、いつもなら側に来るアヌビスが来ない

でも、今はそれでよかった、何も考えず、この溢れ出る力をオーク達にぶつけよう


左手をオークの集団にかざし、這いつくばるようなイメージをした

上から押さえつけられるような、そんなイメージだ


目の前の畑に育つ果実系の樹が折れ、地面に叩きつけられた

次に森の木の枝が折れる


オーク達の動きが止まった

少しずつ、オーク達がひざまづいていく


強力な重力の場を作り出したようだ

森の木が次々と折れ、砕けていく


オーク達は二本足で立っているものはもういない

皆、這いつくばっている、必死で抵抗しているが誰も抗えずにいる


俺は右手を空高くかかげ、大きな炎のイメージをする

頭上の遥か上に大きな火の玉が生成された

ゆっくりとオーク達へ向けて右手を下ろしていく


すると、頭上の火の玉がオーク達へ向かって進む

オーク達は悲鳴をあげ、泣きわめき、錯乱しはじめた

だが俺の重力魔術から誰一人として逃れられない


ゆっくりと火の玉はオーク達に近づいてく

少しずつ、オーク達が燃えていく様が見える


やがて、火の玉はオーク達が這いつくばっている場所を覆うように

地面へたどり着いた


火の玉は半球体状になり、形を崩すことはない

中からはオーク達の悲鳴と肉が焼ける音が聞こえる


俺は何も感じなかった

オーク達の悲鳴が聞こえなくなるまで彼らを焼き続けた

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