第11話 - 村

沼地から戻ってきて、数か月が経った


畑の作物は順調に育ち、収穫も間近というところだろうか

一応、この世界にも四季というものがあり、冬は寒く、作物が育たないらしい

あるかどうかわからない冬に備えようとしていたのは正解だった


集落も大きくなり、沼で移住を提案したリザードマン達が合流し、彼らの生活環境を整えるため、家から西側の土地にため池、養殖地を作り、水路を引いた


リザードマンはオスx7 メスx6が合流し

ため池周辺にリザードマン達を住まわせた

リザードマンの食事は魚が中心で、養殖地では魚を繁殖させてくれた

その他、自分たちの繁殖にも利用しており、卵がいくつか浮いている


リザードマン達のおかげで魚料理のレパートリーも増え、オスは集落の警備など

あらゆる場所で役に立ってくれる


サキュバスたちには取引所の近くに研究室を作ってあげた

主に薬や魔道具の制作がメインだ

エルフ商団との交易を利用し、素材を集め

生活に役立つものを次々と作り出してくれていた


そこそこ人数も増えてきて、集落はそろそろ村と呼んでもいいだろう


俺はというと、沼地で悔しい思いをしたので訓練に励んでいた

エルフ商団に依頼し、武具一式を揃えてもらい

訓練用のかかしなどを設置して日々トレーニングを行っている

武器の扱いは多少慣れてきたが、どうやら俺は強くなるために制約があるようだ


自重トレーニングなどもやっていて、数か月も続けているのに関わらず

筋肉が育たない、力も強くならないのだ


サキュバスたちが開発した能力向上ポーションなどの効果も全く受け付けない

身体強化系の魔術も同様だ


おかしいのは俺だけで、まめいやアヌビス、他の村民には効果が見られた

おそらく俺のスキル「継承」のせいだろう

信頼関係を築き、光を受け取った仲間が死ぬと俺が力を得る現象の事をそう名付けた


これは継承する以外に自分の力を伸ばす事が出来ないことを意味している

つまり、信頼関係を築いた仲間が死なないと強くなれないわけだ


仲間を守るために強くなるためには、仲間の犠牲が必要になる

ここに俺を転生させたやつは狂ってるに違いない


仲間を失って強くなるなんて、強くなれたとしても悲しすぎる

なんとか戦わずにこの村を守る方法を考えていこう



そういえば、アンドラと木の魔獣の力を継承したことにより

魔力魔術が使えるようになっていた


サキュバスたちの手ほどきを受け、魔力弾くらいは使えるようになった

精霊魔術や魔力魔術は詠唱の必要がなく、念じるだけで魔術として使える


これが人間社会なら俺は賢者と呼ばれた事だろう

仲間の犠牲がなければ強くなれないので、いずれ死神とでも呼ばれ嫌われるんだろうか



集落が村となり大きくなってきたので、定期的に各種族から代表をつのって会議という名前の相談会を設けるようになった


この世界を理解し、うまく立ち回るためだ


今日は戦わずして村を守る方法を議題として俺は投げかけた


「今日の議題は戦わずしてこの村をどのように守るか、何か案がある者はいないだろうか」



リザードマンの族長が口を開いた


「玄人さまの能力の事は理解したが、魔物に戦うなというのが難しい」


サキュバスも腕を組みながら同意した


「魔物は闘争が本能として備わっているし、話し合いで解決できないことが起きた場合

どうしても闘争という手段になりがちなのよね、そもそも話し合わないんだけど」


リザードマンの族長がさらに続ける


「話し合いというのが闘争、という見方もできるな」


俺は頭を抱えた

アラクネが困ったような表情で話し出す


「そうねぇ、私たちの存在は力関係ありきで成り立っているのよね」


いきなり頓挫してしまった、さすが魔物だ

とはいえこの村で出来ていることが他でできないはずは無いと思い、食い下がる


「いや、しかしこの村で多種族が同時に暮らすことは実現できているんだ

魔物にも持ちつ持たれつのような関係性はないのか?」


リザードマンの族長が口を開いた


「この村は玄人さまがいるから成り立っております、他の魔物たちではこうはならないでしょう」


サキュバスが口を開く


「いくつか、生態系の中で共存している例もなくはないのよ?例えばスライムのような

掃除屋として存在を許されている魔物だっているの。

でも、オークたちのような魔物の場合、オスしか産まれないからメスを多種族に依存するわ、メスを喜んで差し出す種族なんていないし、どうしてもメスを持つ種族を攻撃するしかないの」


なるほど、攻撃性を余儀なくされる魔物がいるのか

こればかりはどうにもならないな、種を存続させるための本能だ

戦うこと自体は魔物の本能の一部、一切戦闘せずにやっていくのは難しいというわけだ


「うーむ、例外はあるとして、お互いの存在を許し合える者たち同士では争いを避けることができるんだな」


ミミが口を開いた


「私たちの村は鍛冶ができるものがいて、鉄製品と交換という形で多種族と交易してたんです、たしかその中に鉄の確保が容易ではない土地の魔物と取引はあったはずですよ」


解決の糸口が見えたような気がする

俺たちがエルフと交易しているように、他の魔物たちと交易ができるかもしれない

そうして持ちつ持たれつの関係を築くことができれば、少なくとも攻撃される危険性は低くなるだろう


「わかった、先は長くなりそうだが、ひとまず交易に重点をおく村を目指そう」


サキュバスが口を開いた


「交易をしても戦いは避けられないわよ?」

「完全に避けられるものではないが、戦うより交易でお互いの利益が保証される場合は戦う選択肢を選ばないこともある」


リザードマンの族長が口を開いた


「つまり、完全に戦わないという事ではない、という事ですかな」

「そうだ、避けられない事があるのは仕方ない、だがなるだけ減らしたい」


ミミが口を開いた


「では村の戦力も増強しなければなりませんね」

「そうなるね、戦うより交易したほうがいいと思ってもらうためにはまず俺たちが強くなければならない、それに交易を行うという事は、武力がなければ奪われることになる」


リザードマンの族長が口を開いた


「なるほど、戦う事を諦めるわけではなく、手出しができないほど強くなろう、と」

「そういう事だね」


ミミが口を開いた


「ではこの村に名前を付けませんか?交易するなら村にも名前があったほうがいいでしょう」


俺は腕を組みながら考えた


「なるほど、一理あるね、名前かぁ~」



「ダイバーツリー、なんてどうかな」


サキュバスが不思議そうに聞いた


「どういう意味ですか?」

「多様な樹、という意味だ、俺たちは多種族で成り立っているだろ、それが多様で

樹は、それぞれが繁栄できるように環境を整えている、それを樹の成長に見立てているんだ、それにここ森の中だしね」


皆納得したようだ、今日からこの村をダイバーツリーと名乗る事にした


ミミが神妙な面持ちで話し始めた


「では村長は玄人さんでいいですか?」

「え?俺でいいのか?普通魔物なら力で決めるんじゃないのか」


他のみんなも納得しているようだ

リザードマンの族長が話し出す


「玄人さまがいなければ我々がここに集まることはなかったでしょう

それに、我々がまとまれるよう、主導してくださる、あなたにしか勤まらんでしょうな」


うーむ...元々事業主をしていたくらいだし、それほど抵抗があるわけではないが

みんなに認めてもらえるのだろうか、若干不安だ


「まぁ、みんなが嫌なら誰かに交代すればいいし、まずはやってみるよ」


こうして会議は終了した


これからやることが一気に増えたぞ

まずは村人を増やし、食料を確保して、さらに武器の調達までしなければいけない


人数も増えてきたし、沼地への遠征のように俺が直接出向くと村の経営が怪しくなる

これからは村人たちを頼ることも覚えないとな


武力に関しては当面完全にアヌビス頼みだ、アヌビスだけに頼ってもいられなくなるだろう


食料に関しては土地の広さが問題になる、大半が森のこの地を開拓していくにしても限界がある、交易などで食料を手に入れる方法を考えなければならないな


また会議を設けてそれぞれの議題を解決しないといけない


....


何度か会議を重ね、村人の募集はミミ達にやってもらうことになった

村の建築が落ち着いてきたので一度あちこちを旅してもらうつもりだ


あまり遠くへ行かない範囲で少しずつ道を開拓してやってもらおう


食料の問題はダンジョンを攻略するという案が採用された

ダンジョンは魔石と呼ばれる鉱物が長い年月をかけて力を蓄えると発生するそうだ

単一の入り口を持ち、中は魔石によって生成された空間になり、広さは魔石の力次第

洞窟などが多いが、森や山でも発生する

その場合は溶岩や岩、密集した樹木などで空間が隔離され、空からの侵入は不可能らしい

魔物や魔獣が魔石によって生成され、魔石を守る働きをする

そのため、核となる魔石が無事なら無限に生成される資源となるわけだ

また、魔石はダンジョンの中でしか採れず、核以外にも大小さまざまな魔石が採掘できる


この特性を利用してダンジョンで取れるものを食料に充てるというわけだ


これはアヌビスとアラクネの子供たちに任せることになった

アラクネの子供たちが大きくなってきたので戦力になるそうだ


武力に関してはまずは村民を増やし、武具の補充をしなければならい

これは食料と村人が増えなければ解決しないのでまずはその二つに注力することにした



ある日、アヌビスが狼たちを連れてきた

全部で20数匹いるだろうか、大人と子供含めて結構な所帯だ


アヌビスが話しかけてきた


「玄人、こいつらをここに住ませてほしい」


俺は一通り狼たちを見たあと、返事をした


「いいけど、どうしたんだこんなに」

「玄人と一緒に過ごし始める前にこいつらと一緒に居たことがあるんだ

ダイアウルフって言う狼の魔獣だ、きっと戦力になる」


アヌビスが連れてきた狼たちは犬型にしては大型だ、アヌビスより一回り小さい程度で力もありそうだ、それにしても意外だ、アヌビスも仲間がいたんだな


「アヌビスも仲間がいたんだな」

「気まぐれで世話をしたことがあったんだ、村の話をしたらついてきた」


食い意地ははってるが甲斐性はあるんだよな、アヌビス

アヌビスが守ってくれているおかげでこの村はここまで大きくなったといってもいい、断る理由はないな


「わかった、作物がある場所を避けてくれればどこにいてもいいよ、村人とは喧嘩しないようにな」


「それと、その狼たちのリーダーはアヌビスね、しっかりまとめてくれよ」

「わかった」


こうして新しくダイアウルフの家族を迎えた

継承の儀式はいつのまにかパワーアップしており、受け入れた瞬間から光を受け取った

アラクネたちとリザードマン達も既に受け取っている


アヌビスだけは未だに受け取れないままだ、アヌビスがいなくならないか心配でならない

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