Anti-Ragweed

戦国時代の中期、ある下級武士の家の庭に、巨大な木が一本立っていた。その武士の息子はよく、その木に登って遊んでいた。

その子の幸せそうな笑顔を、木は優しく見守っていた。

それから十年程経ったある日、大きな戦が起こり、隠居した父親の跡を継いでいた武士の子は、その戦に駆り出されて行った。

数か月後、家の庭に墓石を立て、泣きながら拝む両親の姿を見て、木は武士の息子が戦死したことを知った。


時は過ぎ、大正時代末期となった。武士の息子の墓はずいぶん前に別の場所に移し替えられ、家もとっくの昔に建て替えられていた。そしてその家も、例の下級武士とは全く関係ないとある小説家の物になっていたが、巨大な木だけは依然として庭に立っていた。

その小説家の息子も、かつて武士の息子がそうだったように、よく木に登って遊んでいた。

木は数百年前と同じように、その子の可愛らしい笑顔を優しく見守っていた。

約二十年後、太平洋戦争が勃発し、小説家の息子は学徒出陣により戦場へ召集されることになった。

一年後、小説家とその妻は大木の枝に縄をかけて首を吊った。小説家の遺体の懐から落ちた電報には、彼の息子が乗った軍艦が敵船に沈められたと書かれていた。


再び時は過ぎ、平成時代も終わろうとしていた。空き家となった小説家の家は解体され、今ではその場所は空き地になっているが、巨大な木はやはり、そこに立ち続けていた。

もうこの木に持ち主はいなくなり、今では様々な家の子どもたちがこの空き地に集まり、木の上で秘密基地などを作って遊ぶようになった。

木は今までと同じように、楽しそうな子どもたちの笑顔を優しく見守っていた。

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Anti-Ragweed @tamageri-ta

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