十五夜
Anti-Ragweed
第1話
うさぎうさぎ
何見て跳ねる
十五夜お月様見て跳ねる
この有名な、江戸時代から歌い継がれてきたと言われる童謡だが、作詞者と作曲者は誰なのかわかっていない。
この歌には作者以外にももう一つ謎がある。秋の美しい満月と兎がかわいらしく跳ね回る様子を描いた歌詞なのに、どうしてあのような悲しげなメロディがつけられたのだろうか。もしくは、暗い調性で作られた曲に右の歌詞がつけられたのだとしたら、それはなぜであろうか。
「兄ちゃん、いつまでも寝てないで早く起きるだ!」
江戸時代のある年の葉月のある日、ある農村のある貧しい百姓の家で大きな声が響き渡った。
「いつもこのくらいに起きてるじゃろうが・・・」
弟に叩き起こされた兄が面倒臭そうに呟く。
兄の名は太郎、弟の名は平助と言った。太郎は幼いながらも頭がよく、しっかり者の少年であり、一方で平助の方は無邪気で活発な子供だった。正反対の性格のようだが、二人は仲の良い兄弟だった。
「二人とも、くだらない事で喧嘩してないで早くご飯を食べなさい。今日は山に薪を取りに行くのでしょう?」
「はーい、お母ちゃん。」
「すみませんでした。」
「いいじゃないか母さん。薪を背負って山を下るんだから、朝から大声出すくらいの元気がないと。」
すでに朝食を済ませ、農具の手入れをしていた父親が豪快に笑った。
「二人が山に行くのは一年ぶりか。本当ならいつも通りわしが行きたいところなんじゃが、あいにく村の寄り合いがあってな。」
「じゃあおいら、帰ったらお父ちゃんの代わりに山で見てきたもの教えてあげるよ。」
朝食を取りながら平助が目を輝かせて言うと、太郎が
「別に面白いもんなんかねえ。それに、帰ってくる頃にはくたくたできっと口もきけないだろうよ。」
と冷めた口調で言った。
「そうか?前に行ったときは、鳥とか虫とかいっぱいいたぞ?」
「そんなの田んぼとか畑にだっているだろ。」
「でも兄ちゃんそういう生き物見るといつも楽しそうじゃねえか。」
「それは…」
「ほらまた喧嘩してる!」
そうして、この家の中では朝からにぎやかな時間が流れていった。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。怪我するんじゃないよ。」
母親に見送られながら、太郎と平助は家を出て山へ向かった。一口に山へ行くと言っても、村からはそれなりに距離があるので、子供の足では着くまでに時間がかかる。しかし、一年ぶりとは言えども昔からよく通っている彼らは慣れたもので、疲れた様子を全く見せずに他愛もない話をしながらのんびりと歩いていた。
「今日もいい天気だなあ。あ、そうだ、ねえ兄ちゃん。」
「どうした?」
「この間藁で紐を編んでる時に歌ってたの、何て言う歌だ?きれいな歌だったなあ。」
「別に名前なんてないよ。わしがあの時思いついた歌だ。」
「兄ちゃんが作ったのか?すげえだ。今度おいらにも教えてくれよ!」
「どうしようかなー。平助は音痴だからなあ。」
「ひどいだよー。兄ちゃんのケチ!」
「はいはい、もうすぐ山に着くぞ。」
太郎が笑いながら指差した先には、二人が幼いときから何度も見ている山があった。
「うわあ、久しぶりに来たなぁ。今から楽しみだよ。あれ?」
平助がふと首をかしげた。
「ねえ兄ちゃん、上の方に何か白い塊がみえない?」
「岩か何かだろ。いいから早く薪を拾いに行くだよ。」
「え、でも…」
「薪が先だ。そんなに気になるなら後で行けばいいだ。」
「あ、待ってよ兄ちゃん。」
平助は渋々太郎の後を追いかけて行った。
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