二リットルのペットボトル水

@taketo7810

二リットルのペットボトル水


まさか湊とこんな関係になってしまうとは思わなかった。この先、ずっと親友として過ごしていくとついこの間までは思っていた。



森修斗はいつもの日課になっている有名トレーナーのYouTubeを見ていた。そこでは、いつものように効果的なトレーニングの方法や日常生活から変えられる習慣が紹介されていた。その日は水についての話だった。

「水を飲むことで体の調子を整えることができます。一流選手はみんな毎日多くの水を飲んでいます。」

そんな話を聞いたところで学校に行く時間になった。修斗は今、高校二年生でサッカー部に所属している。二年生ながらチームの中心選手だった。昔から続けてきたサッカーで負けることは何よりも悔しく、サッカーでは誰にも負けたくなかった。

ピンポーンという音と同時に修斗は家を飛び出していた。そこに待っているのは毎朝、一緒に登校している榊湊だった。湊もサッカー部に所属しており、二人は親友だった。湊は少し変わった性格の持ち主だった。彼は家の近くの池に亀を飼っている。飼っているというよりは懐かれているという方が自然かもしれない。彼らは昔からよく池の辺りで遊んでいた。そんな中で動物に優しい湊は亀に餌を毎日あげていた。修斗と遊ばない日も一人で餌をあげていた。彼の愛情の強さには修斗も驚いた。しかし、そんな彼の何にでも優しい態度に修斗は好感を持っていた。だから、高校も同じところに行き、毎日一緒に通っているのだった。

「今日は水について話しとったで〜。プロはみんな一日にめっちゃ水飲むねんて!俺もやってみよかな〜。」

「へぇ〜そうなんや、一日どんくらい飲むん?」

「二リットルくらいは飲んだ方がええ言うてたな〜。」

「えーそんな水筒に入らんわー」

「そやなーどうしよかな〜」

そんな話をしていたら学校に着いていた。



修斗は部活が終わって家に帰ると真っ先に夕食を食べ始めた。親に一日に二リットルの水を飲むようにしたいと交渉したところ、二リットルのペットボトルを箱買いしてきてくれると言った。しかし、条件としてゴミの日にペットボトルのゴミは修斗が捨てに行かなけれなならないことになった。ゴミ置き場なら湊の家の近くの池にあるのでそんなに時間もかからない。修斗は快く承諾した。そのことを次の日に修斗に伝えた。

「あーペットボトルね〜」

「なんだよ、不満そうにして」

「実は俺も昨日同じ話をお父さんにしたんやけど、ペットボトルはゴミが増えるからあかんって言われてん。ほらうちのお父さんゴミ処理場で働いてるし。最近、水のペットボトルゴミがめっちゃ増えてるいうて絶対あかん言われたわ〜。」

「え、でもペットボトルってリサイクルできるんちゃうん?」

「全部が全部できるわけちゃうし、リサイクルするのにも結構手間かかるらしいで。海とかで捨てられていろんな生き物が死んだりしてるっていうのも聞いたことあるし。」

「ふーん。」

「やから水道水を水筒に入れて持って行けって言われた。日本の水道水で体壊すことは無いってさ。」

「でも水道水ってあんま美味しくないやん。」

「それがな、冷やして飲んだらミネラルウォーターとかとほとんど差ないらしいねん。修斗も水道水にしたら?」

「いやー俺一人がゴミ増やしったってそんな変わらんやろ〜」

「うーん、まあそうかなー」

湊はあまり納得していない様子だったが、修斗はあまり気に留めず次の話題に移った。



次の日から一日に二リットルの水を飲む生活を始めた。湊も一リットルの水筒に途中で水道水と氷を足して二リットル飲んでた。二人はお互いで見張り合いながら毎日二リットル飲む生活を継続していた。そんな中、一週間が経とうとする頃、ペットボトルのゴミの日がやってきた。その日も修斗はいつもと同じ時間に学校に行こうとした時、

「今日ペットボトルのゴミやで! もうゴミ収集車来るし早よ持って行ってや!」

という声が二階にいる母から聞こえてきた。

「あーー忘れてた!」

湊に先に学校に行ってもらい、修斗は自分が一週間飲み続けたペットボトルのゴミを持って、学校と反対方向の池の方に走り出していた。池が見えた頃、ちょうどゴミ収集車が出発してるところが見えた。しまった!と修斗は思った。修斗はすぐに手に持っているゴミをどうするべきか考えた。このまま、ゴミ置き場においていけば文句が来るだろう。しかし、持って帰れば母に怒られるのは明らかだった。迷っていては学校に遅刻してしまう。その時、池が目にチラついた。ここに捨てるしかない。修斗はビニール袋からペットボトルを取り出し、池に掘り投げようとした。その時、湊の言葉が頭をよぎった。

「ペットボトルが海で捨てられて、いろんな生き物が死んだりしてるっていうもの聞いたことあるし」

修斗は迷った。ここには湊が飼っている亀がいる。もしその亀がペットボトルの破片やキャップを飲んでしまえば、間違いなく死んでしまうだろう。だが、同時にこうも思った。そんなことが起こるのかと。実際に起こる可能性は極めて低いのではないかと。結局、修斗はその考えに従うことにした。ゴミをできるだけいろんな場所に掘り投げて、沈むようにキャップの蓋も開けておいた。これで完璧だ。そう思った。



バチッ

湊に殴られたのは初めてだった。こんなに怒っている湊を見るのも初めてだった。しかし、それ相応のことをした自覚が自分にもあった。池の亀が死んだ。ペットボトルキャップを喉に詰まらせたと聞いた。その亀の死体の近くに二、三本のペットボトルがあった。そのラベルを見た瞬間に湊は修斗のペットボトルだと確信したそうだ。体よりも心が痛かった。親友を裏切ってしまったという気持ちももちろん大きかったが、それ以上に人として最悪なことをした気がした。湊はもう二度と修斗の顔は見たくないと言って去った。

修斗は「いやー俺一人がゴミ増やしったってそんな変わらんやろ〜」

と言っていた自分に言い聞かせてやりたいと思った。お前は環境破壊の当事者になったんだぞと。

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