6 晦冥 (2)
「男ってバカよね。一、二回やらせてあげれば、完全に自分の
男がバカな生き物だという点においては、まったく同感だが、シノブの心持ちを不快にさせるのは、このキヨミという女の言動には、人としての温かみがまったく感じられない、という一点においてだった。まるで、冷水のような血が流れているのではないか、という気がしてくるほど、その印象は酷薄だった。
そして気がついた。彼女たち姉弟の異様さ。気味の悪いような美しさや、体全体から醸し出される特有の雰囲気、それらは、言ってみればマネキンなのだ。マネキンが意思を持って喋っているような、異様さなのだ。
「そうやって」と嫌悪をにじませてシノブは言う。「男をあやつるのは楽しかったか?」
「あやつる、という表現が正しいかどうかはわからないわ。ただ、あなた以外にもいろいろと手は打っていたの。そうね、例えれば、小石をいくつか池に投げ込んでおいたと言うとわかりやすいかしら。そのうちのひとつの波紋が、私の足元に届いた、それだけのことね」
言いながら、キヨミは机にヒジをつき、ひとさし指を頬にあてて、首をささえるようなしぐさをした。
「まるで私たちは、あんたに踊らされていたみたいだな」シノブが苦笑して言う。
「そうね、神の手のひらで踊るサルみたいなものね」キヨミが高慢に言う。
すこし、ほんの数瞬、沈黙の時が流れた。
「そして、最後の仕上げよ」キヨミは体を起こして言う。「あなたは、復讐のために、SRシリーズと社長を殺した。私は、SRシリーズすらかなわなかったあなたを倒し、組織内での地位も手に入れて、めでたし、めでたし」
「ずいぶんご苦労をされてきたと拝察するがね、他人を利用して自分の本懐をとげるなんて、あんたもあの社長同様、そうとうなクズだな」
「私ね」と言ってキヨミはちょっと遠い目をした。「私のアソコはね、いつも濡れているのよ、濡れっぱなしなの。なぜだかわかる?」
話しの展開を飲み込めず、シノブは眉をひそめる。
「それはね、いつでも男を楽しませるようになってるの。そういうふうに作られたの。そんなふうに、玩具として生まれて生きてきた、私の苦しみがあなたにわかるはずがない」
――私も、あんたみたいに苦しんだ過去しかないんだよ。
とシノブは回顧する。だが、
「あんたに同情する気はもうとうないね。他人を犠牲にしないと自分の野望をかなえられないあんたは、ただの弱虫だ」
「利いたふうなことを言うんじゃないっ!」
椅子から身を乗り出すようにして、キヨミは叫ぶ。
本性をあらわして怒気を発するキヨミに向け、シノブは素早く銃を抜き、引き金を引く。
だが、弾丸は、キヨミの顔の横を通りすぎ、後ろのガラスに蜘蛛の巣状の弾痕を形づくる。
シノブはさらに狙いをさだめ、キヨミに向けて、銃を撃つ。
だが、ふたたび弾丸はキヨミをそれる。いや、キヨミが避けたのか。
シノブは、奇妙な違和感を感じた。シノブやクラウンが、弾丸をさけたのは、銃口の向きから弾道を予測して、指が動いた瞬間に体を回避させていたのだった。
――だが……。
シノブは思う。今のキヨミの動きはそんなものじゃない。もっと違うなにか。時をとめたとか、加速装置で高速移動したとか、そんなものでもない。なにか、自然にするりと弾丸をかわす、なにか妙な力をキヨミは持っている。
シノブは銃を構えたまま立ちあがり、銃口をキヨミに向けたまま、後ろにさがる。
ゆっくりとさがり、社長席と出入り口の中間くらいまで来たとき、突然にドアに向けて走り始めた。
そのまま、ふりかえりもせず、ドアを開けて、部屋を飛び出す。
キヨミとイサミは、冷笑を浮かべてそれを見送った。
「さあ、総仕上げの時がおとずれたわ」
「これが終われば、僕たちに自由が待っている」
「そう、行きましょう、私たちの
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