妬む文月先生

「ダメでしたか……」

「毎度毎度、すいません」


今回も、文月先生が来てくれたが。

俺ではなくて、九条が、太もも枕を利用している。


「武藤くん。失神からの復活が、早くなっているような気がします。このデータは研究に活かせるかもしれません。これからも積極的に、失神させられてください」

「サラッと怖いこと言わないでくださいよ……」

「んっ……」


九条が、目を覚ました。


「柔らかい……。なにこれ」

「おはようございます。九条さん」

「ふ、文月先生? そうか私、直美に抱き着かれて……」


思い出した九条が、顔を赤くした。


「九条、大丈夫か?」

「全然平気。むしろなんか……。体がスッキリしてるっていうか」

「そうだよな。うん」


慣れると癖になってしまいそうで怖い。


「二対一でも言うことを聞かないとなると……。これはいよいよ、武藤くんが失神しても、すぐに復活できるようになるまで、強制的に耐性を付けていくしかないですね」

「……それだと、明後日の夏祭りに、間に合わないですよ」

「まだそんなことを言ってるんですか? いい加減、諦めてください」

「文月先生。男子にとって、女子と夏祭りに行くっていうのはですね。すっごく重要な、人生のメインイベントなんですよ。わかります?」

「わかりません」


ダメだな……。

これだから、真面目系女子は。

そんなんだから、合コンで失敗するんですよ。


……なんて言ったら、ボコボコにされるだろうな。


「九条はわかるだろ?」

「……」

「九条?」

「あ、あぁごめん。何?」

「いや、大した話じゃないから、いいや」


何やら、考えごとをしていたらしい。


「明日は土曜日……。ラストチャンスだ」

「当日も、説得すればいいじゃないですか」

「さすがに、数時間であれが治るとは思えませんし……」

「だったら、十数時間でも同じことですよ。今日が最後にするべきでは?」

「……」

「武藤くん。もしかしたら、今は一旦、距離を置く時期かもしれません。やることなすこと、全て裏目になっているような気がしますから」

「でも……。もし、その間に、あいつがまた、学校を辞めるだなんて言い出したらって思うと……」


一度は、本気で辞めかけたくらいだ。


きっと犀川も……。それで悩んでいるところだろう。


「……明日、午前十時。ここに集合」

「え?」

「わかった?」

「お、おう……」

「よしっ。じゃあ私は、ジョーカーに行くから」

「あっ……」


九条が、行ってしまった。

なにか……。作戦があるのか?


「あ、ちなみに、夏祭りはどちらにせよ、異性間による、不純な行為は禁止ですからね。カップルで手を繋ぐとかもダメです。たこ焼きの食べさせ合いとかも、当然NG。見つけたら、容赦なく怒ります」

「先生……。やめたほうがいいですよそれ。絶対反感買うと思うので」

「生徒指導部としての務めです」


……完全に、妬みが入っているような。


とりあえず、今日は帰って、明日に備えよう。

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