共闘

「……明美」

「やっほー。元気……そうではないね」


俺一人の時とは違って。

……九条が呼びかけたら、犀川はすぐにドアを開けてくれた。


最初から連れてくるべきだったな……。


「これ、直美の好きなお菓子」

「ありがとう」


布団から手が伸びてきて、素早くお菓子を回収した。


「……うわっ」


九条が、いきなりふらついた。

俺が慌てて、それを支える。


「大丈夫か?」

「うん……。すごいね直美。フェロモンって」

「……まだ耐えてる方じゃない」


犀川が、お菓子を食べながら、冷たい声で言った。

おそらく、他の人よりは、多少九条は、犀川に信頼されているのだろう。

だから、俺と同じで、この空間の中でも、なんとか立つことができているのだ。


「……あのさ、直美。だいたいは、武藤から聞いてるけど」

「やめて。説得するつもり?」

「違う。説教しにきたの」

「……説教?」


布団の中から響く、ボリボリという音が、緊張感を緩ませた。

それでも……。

九条の真剣な表情が、気になってしまう。


一体、何を言うつもりなんだろう。


「直美はさ、人を全然信用しないけど……。それって、逆に、人が好きだからだと思うんだよね」

「……そんなことない」

「ううん。去年、一年間だけど、一緒に過ごして、思った。最初は警戒してたけど、段々色々話してくれるようになってさ……。私のこと、結構知りたがってくれたもんね。好きな音楽、好きな映画……。いっぱい話したじゃん」


返事の代わりに、やはり、ボリボリと音が響く。

そうか……。

俺が思っていたよりも、二人は仲が良かったんだな。


「……人が好きだから、傷つけたくなくて、遠ざけてるんじゃない?」

「知らない」

「武藤くんのことも……。本当はさ、好きなんでしょ」


九条が、そう言った瞬間。

犀川が、布団ごと、九条に覆いかぶさった。


「ちょっ、直美!?」


二人の入っている布団が、ボコボコと、漫画みたいに膨れている。

……やがて、静かになった。


「……ああぁう」


目がグルグルになった九条が、ゆっくりと……。布団から追い出され、床に倒れ込んだ。

……嘘だろ? 

同性でも、近づきすぎたら、失神させられるのか?


「犀川、これ……」

「わかったでしょ? 今の私の症状の重さ」


ジリジリと、こちらに詰め寄ってくる。


俺は慌てて、カバンから合羽を取り出し、装着した。

昨日、嬉波と考えた案だ。


これで……。多少はマシになるだろうか。


「今の私は、抱き着いたら、同姓でも失神させられるの」

「それって……。今、布団の中で、二人は抱き着いてたってことか? ……エロいな」

「エ、エチエチな妄想しないで! もう許さないから……」

「さ、犀川? 落ち着け。明後日夏祭りでさ、もう今日は金曜日だろ? 時間が――」

「……うるさい」


ガバっと。

犀川の布団に、閉じ込められたところまでは、意識があったが。


柔らかい感触を認識した瞬間、失神してしまった。

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