真剣に向き合う

「なるほどね~」


家に帰り、モモ先輩に電話をかけた。

もちろん、作戦会議をするためだ。


事情を説明すると、モモ先輩は、困ったように、しばらくうなった後……。


「私じゃ、どうしようもできないね!」


そんなことを言った……。


「モモ先輩……。何でも良いんです。良い案ないですか?」

「無い! だって……。犀川ちゃんさ、根本的に、人を信じるとか、得意なタイプじゃないっぽいし……」

「そこをなんとか……」

「治療法がそもそも間違ってるよね。信頼できるパートナーを見つけるって……。そもそも人を信じられないなら、見つかるわけないでしょ?」


モモ先輩の言うことは、正しかった。

だけど、このままだと、家から出られず、ただ薬を飲んで、勝手に症状が弱まるのを、待つしかないってことになってしまう。


「で、唯一信頼してもらえそうだった歩夢が、なんか嫌われちゃってると……。絶望的だね!」

「はっきり言わないでくださいよ」

「こういう時は、笑うしかないよ。あっひゃっひゃっひゃ!」

「……モモ先輩」

「ごめんごめん……。それは、冗談としてさ」


電話越しに、鼻をすする音が聞こえた。

どんだけ本格的に笑ったんだよ……。


「犀川ちゃんは、歩夢の好意が、自分のせいで作られた、偽物の感情だって、思い込んでるってことでしょ?」

「そうなりますね」

「だったら、そこの勘違いをぶっ壊すだけじゃない?」

「……どうやって?」

「例えばそうだな……。今のフェロモンむんむんな犀川ちゃんに、抱きしめられても、絶対に失神しないとか。そしたら、今の犀川ちゃんには、興奮してないってことになるでしょ?」

「それは……。確かに」


ただ、手を繋がれただけで、失神する状況なんだよな……。

抱きしめられたりなんてしたら、それこそ、一秒も耐えられない自信がある。


「フミちゃんから聞いたけど、触られてすぐ、失神したわけじゃないらしいじゃん。やっぱり、もっと真剣に好意を伝えてさ。ね? そしたら、信頼感がまた湧いて来て、うまくいくかもだし」

「結構、真剣に伝えてきたんですけどね……」

「足りない足りない! 結婚しようとか、言った?」

「そ、それは……」

「ダメじゃん! 全然真剣じゃないよ!」


結婚……。

そりゃあ、ゆくゆくは、そうなったらいいなぁなんて、妄想したことが、無いわけじゃないけど……。

俺たちはまだ、高校二年生で。


それこそ、そんな未来の話をするなんて、バカにしていると思われてしまいそうだ。


「もし、モモ先輩だったら……。好きな人に、何をされたら、一番愛されてるって自覚できますか?」

「熱い質問だね……。歩夢」

「からかわないでくださいよ……。真面目に答えてくれると嬉しいです」

「そうだな~。私にってよりも、誰かに対して、真剣に向き合ってるところとか見ると、キュンって来るかも」

「……ありがとうございます」

「ちょっと! 今絶対、参考にならないな~って思ったでしょ!」

「いえいえそんな……」


正直、思った。

犀川は、俺が笹倉を手伝ったことですら、怒っていたしな……。


「他の女性陣にも、同じ質問をしてみたら?」

「そうですね……。はい。今日はありがとうございました!」

「うん。じゃあ、歩夢」

「はい?」

「これからも、誰かに対して、真剣に向き合ってよ?」

「……えっと、はい」

「ん。じゃあ、ばいばーい!」


元気良く、通話が切られた。


真剣に向き合う……か。

なんとかするしかないよな。うん。

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