喫茶ジョーカーを盛り上げるために……。

バイト初日

「あぁもちろん。君なら大歓迎だ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


俺は、ジョーカーのマスターと、熱い握手を交わした。


「そう言えば、自己紹介がまだだったね。私は、九条武三くじょうたけぞうと言います。どうぞよろしく」

「俺は武藤歩夢です!」

「うん。改めまして、これからよろしくね」


犀川へのプレゼントの資金を貯めるため、俺が選んだバイト先は……。

笹倉と同じ、喫茶ジョーカーだった。


「わ~い! 一緒に頑張りましょうね? 先輩!」

「おうっ!」


笹倉とも、握手をする。


笹倉は、体にピタリと合う薬があったらしく。

今は、自分で羽の大きさまで調整できるらしい。


昨日までと違って、小ぶりな……。

決して、邪魔にならない、可愛らしい羽が、背中から生えている。

これなら、店の看板キャラクターとしても、ばっちりだろう。


「あ、でもでも。柚が先に面接して、受かってますから……。ここでは柚が先輩ってことになりますよね!?」

「え? いやいや笹倉。俺たち今日が初バイトじゃないか。同期だろ? 同期」

「それはズルいですよ! 柚、一回でいいので、柚先輩~! って、呼ばれたいんです! ダメですか?」

「そ、そんな潤んだ瞳で見つめられても……」


見つめられても……。

……いかん。負けそうだ。


笹倉は、普通に美人だし、油断していると、ドキドキさせられてしまう。


「二人ともさぁ……。バカやってないでいいから、早く着替えてきたら?」

「九条……」


どうやら、九条もこの店の手伝いをしているらしく、エプロンを付けている。


ジョーカーでは、男女関係なく、上はシャツで、下は黒のズボンと決まっていた。


その上から、喫茶ジョーカーという文字が印刷されている、緑色のエプロンを付ける。

うん……。なんだかイメージ通りで、働く意欲が湧いてきたな。


「すまない。更衣室は、男女で別れていないから……。交互に着替えてくれるかな」

「じゃあ、柚がお先に~! 更衣室の先輩の座は、もらいましたよ~!」


なんだよ更衣室の先輩って……。


ちなみに、今日は初回ということで、俺は制服をそのまま使ってもいいということになった。


笹倉は……。九条の物を借りるらしいけど。

笹倉と九条って、結構身長に差があるよな。


九条がだいたい、百六十センチくらい。

笹倉は多分、百五十あるかないかくらいだ。


「……お、お待たせしました~」


……若干、ダボダボ感は否めないが。

なんとか、シャツの袖、ズボンの裾を捲り上げた状態で、笹倉が戻ってきた。


「うん……。子供っぽい」

「ちょっと明美さん!? 酷いですよ!」


すまん笹倉……。

俺も、子供っぽいなと思ってしまった。


まぁ、これはこれで可愛いから、問題無いと思うけどな。


笹倉と入れ替わりで、今度は俺が更衣室に。

と言っても、エプロンを付けるだけだが。


「うん。似合ってるね……。私の若いころを見ているみたいだよ」

「お父さんと武藤……。全然違うじゃん」


九条がツッコむと、武三さんが照れくさそうに頭をかいた。

この、いかにもマスターです! 的な風貌をした武三さんにも、少年時代があったんだよな……。


いまいち想像できないけど、九条の言う通り、多分、俺とは似ていないと思う。

童顔だしな……。俺は。


こうして、準備ができたところで。


ちょうど、お客さんがやってきた。


と言っても……。


「やっほ~二人とも! ちゃんと働いてる?」

「全く……。どうして私まで」


……俺が呼んだ、モモ先輩と、文月先生なんだけどな。

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