お誘い

「起きろ~!!!」

「へぶっ!」


いきなり、耳元で大きな声がした。


「あっはっは! おはよう歩夢」


モモ先輩が、俺を見降ろしている。


「モモ先輩……。耳がなくなったかと思いましたよ」

「だって、歩夢全然起きないから。人の家で、よくそんなに寝れるよね~」

「……あ」


俺は、昨晩のことを思い出した。

薬を飲み忘れた犀川のフェロモンを、一気に吸い込んでしまって……。


「今、何時ですか?」

「ちょうど、正午を回ったあたりかな」

「なんてこった……」


普段の倍以上も、眠ってしまった……。


「犀川ちゃんさ、プリンのことで頭がいっぱいで、うっかり薬飲み忘れたんだって」

「そういうことか……」

「朝、五時くらいに起きて、私の部屋まで来て、プリンを要求してきたから……。さすがにびっくりしたよ」


どんだけ食べたかったんだよ。プリン。


「でも、プリン食べたら、少し落ち着いたみたいで……。これを、歩夢に渡してくれって」

「……手紙、ですか?」

「そうそう。ラブレターかもよ?」

「だったら、泣いて喜びますけどね……」


俺は、あまり期待せずに、手紙を開封した。


『私の家に、明日の午後三時』


「……えっと?」

「どれどれ……。うわっ、すごいじゃん歩夢! これ、デートのお誘いじゃない!?」

「……あっ、えっ」


手紙を持つ手が、震えそうになった。

これは……。マジのやつなのか?


「先輩のいたずらでした~。っていう、オチですか?」

「さすがの私も、そこまで意地悪なことはしないし! 本当だよ! 犀川ちゃん……。なんだかんだ言って、ちょっと歩夢のこと、気になりだしてるんじゃない?」

「いや、でも……。昨日はそんな素振り、全く見せなかったですけど」


むしろ、キモいだの、嫌いだの、言われまくったような。

そもそも、あの堅物委員長が……。

たった一日二日で、そこまで心を許してくれるなんてこと、あるのだろうか。


「歩夢、もう忘れた?」

「何をですか?」

「モテる男と、モテない男の違い」

「……自信があるか、ないか」

「そう! ……自分に自信持ちな? 歩夢、顔は悪くないし、性格もまぁ……。そこそこだし」

「そこそこって」

「とにかく! 明日遅れたら、おじゃんだからね! 今日はたっぷり寝て、明日に備えるべし!」


モモ先輩に、思いっきり背中を叩かれた。


……でも俺、めちゃくちゃ寝ちゃったんだよなぁ。


明日に向けての、緊張もあるだろうし、眠れる気がしない。


けど、間違いなく、犀川との関係は、進歩し始めてる。


自信を持って、頑張ろう。

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