妹の励まし

「ただいま~」


家のドアを開けると……。


パァンっと、音がして、クラッカーが弾けた。


「嬉波……。これ、片づけるの結構面倒だぞ?」


床のテープが、回収されて行く。

ようやく全て集め終わったところで、カンペがすぐ目の前に現れた。


『お帰りなさい! お兄ちゃん!』


「おう。ただいま」


最近はこういうコミュニケーションにも、随分馴れてきた。

……馴れてきたがゆえに、嬉波の俺を出迎える時のパフォーマンスも、段々過剰になってきている。


「頼むから、いきなり水をかけてくるとか、そういうのはやめてくれよ?」


『オッケー!』


カンペが左右に揺れている。


よく使う言葉は、全部カンペに書いてまとめてあるのだ。

それ以外の言葉を書きたいときは――。


『机!』


このカンペを出してもらう。

そして、机の上にいつも置いてあるメモ帳に、言葉を書くのだ。


『お兄ちゃん、元気無いよ?』


「えっ。そうか? めっちゃ元気だけど」


『嘘つかないで』


「嘘じゃないって。アレかな。最近急に暑くなったからさ」


『嘘つかないで』


「嬉波。その言葉って、カンペにあったよな?」


しばらくして。


『嘘つかないで』


カンペを俺の目の前に突き出してきた。

そのカンペの動きからして……。

多分、嬉波は怒ってる。


……まぁ、バレるよな。

ここは素直に話しておこう。


「実は、クラスメイトが一人、魔物症候群になってさ……。学校辞めるって言いだしてるんだよ」


『えぇ? お兄ちゃんの周りって、本当に、魔物症候群になる人が多いね』


「そうだよな……」


嬉波も然り、だけど。

俺自身が、なってるわけじゃないから。

なんだか申し訳なくなってしまう。


『でも、ダメだよ。辞めるなんて。お兄ちゃんが救ってあげなきゃ』


「嬉波……」


『私を助けてくれた時みたいに、かっこいいお兄ちゃんを見せてよ』


そのメモの周りに、たくさん星マークが書かれていった。

多分、応援してくれてるんだと思う。


「ありがとう嬉波。でもさ……。もしかしたら、相手がおせっかいだって、思ってるかもしれないからさ。その辺はどうなんだろうな」


『おせっかいでもいいから、とりあえず救うの! 私だって、最初こうなっちゃった時は、もうお願いだからほっといて! って思ってたよ! お兄ちゃんがしつこかったから、頑張ろうって思えるようになったの!』


しつこかったから……か。

褒められてるのかどうか。わからないけど。


でも……。やっぱり関わった以上は、全力を尽くすべきだよな。


明日、文月先生と一緒に、犀川の家に行く。

出来る限りのことは、させてもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る