第387話 撮影 シモ付き

「はい、今日の旅気分はゲストにムツさんとリョウくん、そして、妹のリナちゃんとお友達のシモちゃんに来てもらいました。」

ヒトミが案内人として紹介しつつ、収録を開始する。


「これで映ってるのよ?」

シモはカメラに近付く。

「シモちゃん、近づきすぎたら映らないからね、ほら後ろに来て。」

「うにゅ、リョウ兄の言う事を聞くのよ。」

シモは大人しく後ろに下がる。


「はい、シモちゃんがいい子にしてくれたから撮影に入れますね。」

ヒトミが気を取り直して撮影に戻る。

「えーと、ムツさんはここ大分が地元とお聞きしましたが?」

「そうだな、この辺りとは違う地方の出になるがね。

まあ、観光大使などを務めさせてもらっているよ。」

ムツは無難な答えをするが・・・

「ムツおじちゃん、あれは何なのよ?卵が温泉で進化するのよ?」

シモは撮影関係なく気になった温泉卵ののぼりを指差す。


「シモちゃん、あれは温泉で茹でた卵なんだよ、どれ一つ買ってあげよう。

すまない、一つこの子に貰えないかな?」

ムツは財布を取り出し、普通にシモに買ってあげようとする。

「あらま!ムツさんじゃないの!いつも応援してるのよ。」

「ありがとう、これからも応援頼むよ。」

普段、撮影中のムツの雰囲気ならあまり声をかけられない怖さがあるのだが、シモを相手にほっこりしている姿はただの気のいいおじさんだった。


「ムツおじちゃん、ありがとうなのよ♪

リナも一緒に食べるのよ〜」

シモがお礼をするとムツの目尻が下がる。

シモはシモでリナと半分にして分け合って食べるようだった。


「すいません、ムツさん。」

俺はムツに謝罪をする。

「構わないよ、卵一つであれほどの笑顔が見えたんだ、充分だよ。」


「あー二人共、撮影中だからね、もう、シモちゃんもあまり勝手に動かないで。」

進行しているヒトミが頭を抱えているが当のシモは・・・

「トロトロで美味しいのよ。」

「シモ、ほっぺについてる。」

リナがハンカチでホッペタを拭いていた。

「リナ、ありがとうなのよ。」

美少女二人が仲良くしている姿は絵になっていた。

カメラは二人を撮っている。


「カメラさん!なんで少女を撮る時間が長いんですか?ほら次に行きますよ!」

ヒトミの苦労は続く・・・


「あーつかれた・・・」

撮影の合間、ホテルで食事が届く間ヒトミは机に伏していた。

「ヒトミお疲れ。」

「リョウ!何あの子、撮影中なのにキョロキョロしてるし、好きな所に走っていくしで、撮影にならないじゃない!」

「素人だから仕方ないだろ?」

「素人でもあんなに動かないわよ!

それに動くとカメラも追っていってるし、何度撮り直したと思ってるの?」

「ゴメンゴメン。でも、カメラが追うのはシモちゃんのせいじゃないだろ?」

「そうだけど、結局ムツさんもついて行っちゃうし、何より華があるんだよね。」

「まあ、人を引き付ける魅力はあるよな。天真爛漫っていうのか?」

「自由過ぎよ、いったいどうやって育てたらああなるの?」

「文句はヨシノブに言え。」

「ヨシノブって・・・異世界にいるのにどうやって文句を言うのよ。」

「あれ?言ってなかった、電話できるぞ?」

「えっ?えっ?なんで?」

「知らん。だけど電話できるからなぁ、そういうもんだと思っている。」


「そういえば、あんたの親友だったね。

はぁ、なんであんたの周りは普通の人がいないんだか・・・」

ヒトミはただ呆れるばかりだった。

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